第50話「運命のアドバイス」
ダックヴァルの店を出て、俺達が向かったのは……
ブリジット・フルールという妙齢の女性が営む
ジュリアがさっき言っていた、フルールさんの店とはここ。
主に扱っているのは、ヴァレンタイン王国の商業ギルド経由で売られた真っ当な正規ルートの
迷宮などから持ち込まれた、いわゆるヤバイものではない。
ジュリアが、何故ここへ俺達を連れて来たか?
理由は、ふたつある。
ひとつはダックヴァルに会わせたのと同じく顔見世、ふたつめは真っ当な宝石の小売価格を覚えて欲しい事。
俺が邪神様に改造して身体は幸い頭も良く、記憶力など抜群。
適当に改造したのに意外。
凄く自慢しただけの事はある。
だが
今更だが、よおく分かった。
俺は一応戦えるが、魔法に関してはしょぼい生活魔法しか使えない。
これで神の使徒なんて、ちゃんちゃらおかしい。
誰かに知られたら、そう言われるのは確実。
でもそれは使徒という高レベルでの話。
世間では超人や天才ではなくとも、秀才で充分幸せになれる。
この頭が前世でもしあったら、偏差値も凄い有名大学へ楽勝で行けただろうから……
顔は別として改造された俺が前世へ戻れていたらと思う。
あの世界に生きていた俺は、はっきり言ってほぼ詰んでいたから。
結果的に、邪神様に強制された異世界転生は成功だと思わざるとえない。
邪神様が自分のお蔭だと勝ち誇るのは
お金も、バッチリ儲けられそうなのだからもっと感謝……いや自らの信仰心を上げなくては。
その代償……すなわち使徒として、俺はこの世界での信仰心を上げる為にきっちり働かなくてはいけない。
でないと、あの邪神様の性格上、絶対に神罰が下ってしまう。
さて、ジュリアはフルールさんへ俺とイザベラの講師役を頼んだ。
フルールさんの話は多岐に渡った。
数多在る宝石の特長を聞き、小売価格の相場を覚えて行く。
内容は結構、マニアック。
だが、こんな事……今の俺にとっては、もう楽勝だ。
ついでにモーリスから買ったガーネット……アルマンダイガーネットというのだそうだが、ついでに売却する。
ここでもダックヴァルが言っていた嘘発見器、もとい魔法水晶で盗品じゃないかを判断するという。
魔法水晶の検査の結果……当然、俺達はシロ。
しかし肝心のオリハルコンに関して、フルールさんは何も知らなかった。
ちょっと残念だが仕方がない。
フルールさんの店を出て次に向かったのはこのジェトレでも比較的大きい店。
キングスレーという商会だ。
ここは基本的に小売というより、大口の取引をメインに行う店らしい。
前世で言えば、総合商社という所だろう。
責任者は、支社長のアメデラ・フォンティという奴。
30歳くらいの、にこやかだがやり手らしい男だ。
何でも、商会トップの会頭であるチャールズ・キングスレーから、このジェトレ村で支店を開き、軌道に乗せるよう命じられたという。
成功するまで、故郷のバートランドには帰れないらしい。
他人事ながら大変だと思う。
心から同情する。
ところで、この商会へ訪問の目的もやはり顔見世……人脈つくり。
アメデラにもやはりマルコという兄が居て、キングスレー商会の番頭格だそうだ。
彼にもダックヴァル同様、もしバートランドに行くのであれば訪ねてくれと言われてしまう。
だがアメデラも、オリハルコンに関しては一般的な事しか知らず、所有者の情報も持っていなかった。
そんなこんなで、オークションの時間も迫って来た。
結局、俺達は3軒の店を回って商業ギルドへ戻ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
商業ギルド、午後3時……
時間がもうない。
まず、俺達はオークション出品の申し込みをする。
ダックヴァルから仕入れた魔道具を、オークションでの競売にかける為だ。
結局、上代の65%で買い取ろうというダックヴァルの申し出はあったが、オークションでの経験を積むのが大事。
加えて、あわよくば上代以上の売却を狙うのが目的なのである。
ここで急に!
俺に対して例の『勘』が働きかけた。
邪神様の声ではない。
これも改造された能力なのか?
その勘とは……
賢者の石と反魂香を絶対に売るな……という俺への警告だった。
いや、これは警告ではなくアドバイスだな……
今後、このふたつのアイテムが運命を左右するキーアイテムとなるのか?
詳しい事は分からない。
俺は素直にアドバイスに従う事に決めた。
おお!
そういえば「売るな」で思い出したぞ。
ダックヴァルからの忠告って奴だ。
賢者の石と反魂香、そして……
俺は急ぎ、ジュリアとイザベラへ、オークションの出品中止を申し入れたのであった。
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