第126話「伝説の魔道具」
ガワだけ美少年悪魔のヴォラクを、仲間に加えた俺達は王宮に戻った。
さあ、地上へ戻る準備をしなくては。
さしあたって必要なのは移動用の手段である。
駄目もとでも、何かお願いしておいた方が良いとイザベラは言う。
なので、バルバトス経由で悪魔王アルフレードルに申し入れをしてみた。
待つ事2時間、早速アルフレードルから謁見の許可が下りたので、例によって俺とイザベラは王宮の大広間へ向かう。
アルフレードルはいつものように玉座に座っていたが、俺とイザベラが顔を見せると立ち上がって相好を崩した。
何だよ?
珍しい。
鬼いや、悪魔のかく乱?
義父アルフレードルはとても嬉しいらしい。
紹介状の力を借りたとはいえ、愛娘の婿である俺が名だたる悪魔商会と提携の話を纏めて来た事が。
ソフィア救出という優先目的はあるが、それが結局悪魔王国の繁栄にも繋がるからである。
どうやらイザベラの姉、長女レイラとも話したようだ。
「余はお前達に期待しておる!」
アルフレードルの言葉を聞いた宰相のベリアルが不機嫌そうに眉を顰める。
あ~あ、これではRPGで良く居る悪大臣と同じパターンだ。
「移動の手立てを欲しいという、お前の願いを叶える。王家に伝わる
「古の神々の秘宝?」
「陛下! し、
アルフレードルが『秘宝』を授けようとした時に横槍が入った。
例によって、宰相のベリアルである。
「大切な王家の宝をいかに王女様とはいえ、軽々しく国外に出しても良いものでしょうか?」
ベリアルは良く言えば諫言をしたのだが、この場合はいかにも間が悪かった。
俺達が王国の――いやこの世界の全悪魔の為に働く事を知っているアルフレードルは不愉快そうに唇を噛む。
そして、この小賢しい宰相を叱責したのだ。
「馬鹿者! トール達は王国の、いや世界の悪魔達の為に働いてくれるのを説明された筈だ。このような時に活用してこそ宝の真の意味があるのだ。何故それが分からぬか?」
「は、ははっ!」
相変わらずその目は俺達への憎悪に満ちていた。
「ふむ……では話を続けようか。これは
アルフレードルが侍従長のアガレスに合図を送ると、既に用意が出来ていたらしい。
悪魔内務省の職員らしい若い悪魔が、結構大きな宝箱を運んで来た。
むう――こういうセレモニーも嫌いじゃあないけど。
肝心の『秘宝』ってどんなんだろう?
宝箱が静かに置かれると、アルフレードルが厳かに言い放つ。
「トール・ユーキよ、そなたに我が王国の秘宝である『鷹の羽衣』を与えよう。大いに活用するが良い」
鷹の羽衣?
ええっと……俺の中二病発病!
おおお、そ、それって北欧神話の秘宝じゃないか!
着用すれば鷹に変身して、大空を自由自在に飛べるって奴?
凄いや!
「トールの妻であるイザベラよ! そなたと女性の眷属達には白鳥の羽衣を授ける、これで夫をしっかりと助けるが良い! 頼むぞ!」
白鳥の羽衣も同様の性能を持つ。
着用すれば白鳥になって……以下同文。
「加えて王国から地上への移動については、王国内の転移門を自由に使う事を認める。ちなみにこの王宮の転移の間から直接各地の転移門へ向かう事が出来るぞ」
おおお、それも凄い!
あっという間に、世界の各目的地へ向かう事が出来る。
俺は……この広い異世界を存分に駆け巡るのだ。
「加えて王国国内の移動用としては馬車を1台、授ける。頑丈な馬と共にな」
はい、これも地味に嬉しいです!
アルフレードルから授かるものはこれで終わりらしい。
俺とイザベラは顔を見合わせると改めて跪いた。
イザベラが顔を下げたまま声を張り上げる。
「父上! いえ、陛下! 恐れ多くもこのようなご支援を賜り、トールの妻としてこの上ない喜びを感じております。誠にありがとうございます」
「ははははは! 何の! お前達には最大の助けをすると心に決めておる。このような事はきっかけに過ぎぬわ」
いつもの厳しさはどこへやら、ここに居る怖ろしい悪魔は娘が可愛いひとりの好々爺である。
そして……
「トール! お前は神の使徒でありながら剛直な悪魔達にこれほど好かれるとはな。ははははは!」
アモンやバルバトスの事を言っているのか?
俺だって彼等は好きだ。
「余もだんだんとお前が可愛くなって来たわ。魂を喰らいたいほどにな」
この親爺もか!
でも魂を喰いたい!?
俺は思わず両手を合わせた。
「それはご勘弁願います!」
「ははははは! 冗談……じゃ! ははははは!」
全然冗談には聞えなかった……
目が笑っていないから……
王宮の大広間には、アルフレードルの高笑いがいつまでも響いていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……謁見の後、
俺達はあてがわれた部屋で今後の打合せを行っている。
テーブルの上にはオロバスから譲って貰った地上の精密な地図が広げられていた。
アルフレードルから貰った美しい羽衣をジュリアとソフィアに渡すとふたりとも女の子らしくとても喜んだ。
そもそも白鳥の羽衣とは北欧神話に出て来る魔道具だ。
大神が配下の美しい戦乙女達に与えたといわれる。
試しにジュリア以下3人の美少女が羽衣を着た時の神々しさといったら。
神の遣いである
イザベラは悪魔の娘だから表現としてはおかしいかもしれないが、俺はそう感じてしまったのだから仕方が無い。
「すげーや、姐さん達! 滅茶苦茶、綺麗だな! こりゃ兄貴は男冥利に尽きるよな!」
べらんめえ調の美少年悪魔ヴォラクもすっかり俺達に馴染んでいる。
俺の事を兄貴、嫁達を姉御と呼ぶ不思議な奴だ。
傍らに居るバルバトスは渋い顔だが……
律儀で真っすぐなヴォラクは、俺達バトルブローカーのムードメーカーになりつつある。
彼の希望通り、いずれブネやラウムに負けない立派な商会を持たしてやるのが目標だ。
それは彼の為だけではなく、信用の出来る商会の設立が俺達の利益にも繋がるから。
「コホン! では次の皆様の目的地ですが……」
バルバトスが言い掛けるのを抑えて俺は念を押す。
謁見の時に見せた、ベリアルの憎悪に満ちる表情が気になったからだ。
「アルフレードル陛下の強さは重々承知で言っておく。ベリアルの動きには充分注意しろよ」
バルバトスが眉を顰めて俺に返した。
「もしや、奴が歯向かうと……」
「そういう事。俺の知っている
「……分かりました。他の方ならいざ知らず貴方様の仰る事ですから注意しましょう」
バルバトスは自分の上司である侍従長のアガレス、そしてアモンにも協力して貰うという。
今、悪魔王国ディアボルスが乱れては、悪魔世界の経済振興への道が遠くなる。
俺は真剣な表情のバルバトスに対して、再度注意するように念を押したのであった。
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