第122話「富を与える悪魔」
ディアボルス悪魔大学で俺達は多くの情報を得た。
中でも、
そこにソフィアの身体を救う重要な鍵がある筈だ。
俺達は学長のオロバスへ丁寧に礼を言い、ディアボルス悪魔大学を後にする。
次に俺達は王都ソドムの街中に戻り、商館街区へ向かうのである。
「さあ、陛下から賜った紹介状に記された商会へ参りましょうか」
バルバトスはとても張り切っている。
俺達の問題解決の光明が見えたから。
その勢いで悪魔王国の厭世的な状態を打破するきっかけも掴みたい、その為には経済活性化しかないと。
目の前の、浅黒く日焼けした精悍な悪魔はそう考えているのだ。
しかし俺には若干不安がある。
「百戦錬磨の悪魔商人が、果たして人間の俺達をまともに相手してくれるかな?」
そんな俺の懸念にもバルバトスは楽天的だ。
「あなた方がお持ちの紹介状は恐れ多くも陛下の直筆ですよ、絶対に大丈夫です!」
自信満々に語るバルバトス。
でも俺はそんなに軽く考えてはいなかった。
俺は普通の人間では無い。
悪魔の宿敵である闘神スパイラルの使徒、すなわち彼等に忌み嫌われる存在だ。
この国に来た時に大暴れした経緯もある。
国王の紹介状の力で、一応話は聞いてくれるだろうが、素直に協力してくれるかどうか……
「で、相手の商会は?」
「はい! ブネ商会とラウム商会です」
ん?
ブネにラウム?
俺は資料本で得た記憶を呼び覚ます。
確か……ブネは富を与えるという悪魔、一方のラウムは窃盗の悪魔である。
う~ん……見事に真逆な悪魔同士だ。
「両商会とも、この王国では有数の規模を誇りますよ」
有数の規模を誇る商会ねぇ……
何か、ちょっと嫌な予感がする。
こんな時に起こる俺の悪い予感は確信に近く、ぴったりと当たるものだ。
そんな思いを持った俺を乗せた馬車は、商館街区へ入って行ったのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
まず俺達が会ったのは『ブネ商会』の会頭ブネである。
バルバトスに案内されてブネ商会の本館に入り、中に居た従業員の先導により会頭室を訪れたのだ。
会頭室で会ったブネは、小柄な体躯で丸顔に髭を蓄えた中年男である。
こいつは……契約者に富を与えて雄弁さと知恵を授け、死者の居場所を自由に定める能力を持つ。
そして風貌は人間、犬、グリフォンの3つの首を持つ大悪魔……
俺の持っていた資料本で読んだ限りでは、こんな感じの悪魔である。
この異世界ではこいつ……商人……なのか?
当然、目の前に居るブネは、バルバトスの魔道具の効能により俺達の目には人化した姿で映っていた。
商人らしく、やや甲高い声で明るく話すのはご愛嬌だ。
「あ~はははは! 良~く、いらっしゃいましたぁ! 私がブネでございますぅ!」
朗らかに笑うブネは一見、表裏の無い誠実な雰囲気を持っている。
しかし敵もさるもの、引っかくもの。
彼はそんな表情の裏で、悪意の牙を剝いていたのである。
邪神様から授けられた俺の
俺にはそんなブネの本音がまる分かりなのだ。
『はぁ!? 何だ、この薄汚く生意気な人間は!? それもあの憎きスパイラルの使徒と来てやがる! ぺっ!』
へぇ!
これだけ本音と建前が違う奴も珍しいぜ。
俺と同様に魔力波読みの能力を持つバルバトスも渋い表情だ。
ここまではっきりはしていなくても、ブネの悪意を読み取ったに違いない。
ブネの俺に対する悪態は更に続いている。
『アルフレードル様の紹介状が無ければ、こんな餓鬼は容赦なく引き裂いてやるところだぜ』
ふうん……俺を容赦なく引き裂くねぇ……
どうせ、出来ない癖に……
でもこんな奴に、一方的に言われるだけなのは……嫌だな。
そうだ!
俺は「にこっ」と笑う。
「ブネさん、貴方はとてもお強そうだ。ご挨拶がてら、『これ』しませんか?」
俺が腕を突き出して取ったポーズ。
それは例の『腕相撲』である。
思えばイザベラともアモンともいきなり『腕相撲』やったものな。
悪魔に言わせれば
「な!? 何!? 何ですとぉ!?」
「実は我が妻、イザベラと知り合ったのも『これ』でしてね」
俺は腕をさすりながら歯をむき出し、またも「にこっ」と笑う。
まるでお前の心の底など、お見通しだと言う様に。
唇を噛み締めたブネではあったが、無理矢理引きつった笑いを浮べる。
「ほ、ほう! それはそれは……イ、イザベラ様との馴れ初めは素晴らしい出会いですな! ほうっほほほ!」
名前を出されたイザベラは、腕組みをしてさも面白そうにブネを見詰めていた。
傍らのジュリアとソフィアも、同様の魔力波を出している。
「ははは、それよりもブネさんともあろう悪魔が、まさか逃げたりはしませんでしょうな? 生意気な私など簡単に引き裂いてやると仰るくらいですからな」
俺がすかさずそう言うと、ブネはびくりと身体を震わせた。
そして「何故?」と言う様に愕然とした表情で俺を見たのである。
暫く考えたブネは「ハッ」とした表情をした。
彼は
「さあ、どうぞ」
目の前の彼の机の上に腕を乗せるとブネは引きつった表情のまま、恐る恐る腕を持って来て俺は早速、彼と腕を組んで勝負を開始した。
それから1分後―――勝負は呆気なくつく。
どごんっ!
「ぎゃううううう! い、いでぇ~っ!」
「か、会頭!」
凄まじい音と響き渡る絶叫。
慌てて駆け寄るブネの部下。
しかし目の前で行われたのは悪魔が好む正々堂々の『腕相撲』の勝負なので俺に文句は言えないのだ。
「お前達悪魔は力が絶対と聞いている。俺はお前に対して『力』を示したが、それはお前を単に屈服させ、力のみで従えるのが理由ではない。俺達は本当にこの悪魔王国ディアボルスの為に何とかしようと、協力を要請しに来ているんだ」
「…………」
机に思い切り叩きつけられ、痛めた手と腕を擦りながら
返事が無いので、俺はそのまま話を続けた。
「バルバトスからお前はこの国でも屈指の商会の主だと聞いている。お前がこの国の為を思い、自らの商売の行く末を考えるのであれば、俺に協力しろ。さっきの腕相撲は神の使徒である俺が、お前達の為に働く覚悟の現われでもあるのだ」
俺の言葉を聞いて大きく目を見開くブネ。
どうやら俺の言葉に対して、良い意味で
まさか、俺がそこまでの思いを持っていたとは考えていなかった。
そう、顔に出ている。
ブネは俺の顔を見つめると、大きく頷いて了解する意思を示したのであった。
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