第115話「姉夫婦からのプレゼント」

 機嫌が良くなったアルフレードルから渡されたものは書面で、どうやらどこぞへの紹介状らしかった。

 裏面はしっかりと封蝋シーリングワックスが施されている。

 

 ええと……これ、宛名は?

 ……文字が読めねぇ!

 これは、悪魔語?

 

 残念ながら、俺にはこの文字が全く読めない……こんな時は……


「イザベラ」


「了解!」


 俺は笑顔のイザベラに書面を渡し、宛名を読んで貰った。


「ええと……ディアボルス悪魔大学学長オロバス殿って……トール、これって王国で有名な学者だよ」


 オロバスって、これまた有名な悪魔。

 確かバリバリの武力派ではなく、天地創造の秘密を知るインテリ派の悪魔。

 その悪魔が、この王国では有名な学者?

 するとガルドルド魔法帝国の事を知っている?

 どうなんだろうか?


 そんな俺の考えを見抜くように、アルフレードルは言う。


「オロバスが、どこまでガルドルドの事を知っているかは正直、余には分からぬ。だがこの王国で最高の知識を持つのが奴だ……何なりと聞いてくるが良い」


 有益な情報が得られるかどうかは、悪魔王にも分からないらしい。

 でも、この申し出は最高の対応だ。

 

 怖ろしい義理父の愛情?

 何かまた裏がある?

 いや、ここは素直に喜ぼう。

 1年で肉体が崩壊するソフィアの為に少しでも早く手懸かりを掴まなくては!


 ――更にアルフレードルは悪魔王国内の商会宛にいくつか紹介状を書いてくれた。

 これは俺達が王のお墨付きで商売を出来るようにする為だ。


 折角、悪魔王国ディアボルスの御用達商人になったのだ。

 よ~し、商売、商売!

 頑張るぞぉ!

 あれ、俺って……完全に商人仕様になっているなぁ。

 これって絶対にジュリアの影響だ。


 俺は微妙な心持ちでアルフレードルに跪いて深く頭を下げたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アルフレードルに謁見した俺達は『拝謁の間』を出る。

 すると、あるカップルに呼び止められた。

 

 見れば……イザベラの姉のレイラ王女と隣国の悪魔王ザインの息子エフィム王子である。

 俺にとっては義姉、義兄夫婦にあたる。


 結婚式の時に初めて会って挨拶した時に感じたが……

 姉のレイラはイザベラに面影が良く似てはいるが、もう少し表情を柔和にしてふくよかにした癒し系的美人。

 反対に夫のエフィム王子は細面の苦みばしった二枚目であり、人気若手タレント某に良く似ていた。

 

 はっきり言って美男美女のお似合いカップル。

 転生前の俺ならレイラが俺のどストライクでもある事から、「リア充――爆発しろ」と必ずエフィムを呪ったであろう。


「イザベラ、トール、お前達にぜひ話があるのよ」


 俺達はとりあえずレイラの部屋に招かれた。


 15分後――レイラの部屋


「懐かしい、この部屋! でも姉さんもあと1週間でトルトゥーラ王国に旅立つのだものね」


 イザベラとレイラの姉妹を中心に話は盛り上がる。

 というか、もう暫く会えないであろうふたりに存分に話して貰うエフィムの配慮らしい。

 

 良い人だ!

 いや凄く良い悪魔じゃないか、エフィム。


 聞くとエフィム王子のトルトゥーラ王国でも結婚式をやるらしいのだ。

 

 え!? 

 俺達、出席しなくても良いの?


「良いのよ、トール」


 心配するが、イザベラが首を左右に振る。


 話を改めて聞けば、俺の心配は全くの杞憂であった。

 双方の国でやる結婚式は『当地の身内』だけで執り行うらしい。

 だから、今度はエフィム側の親族と一族郎党で行うわけだ。

 

 おかしいとか突っ込みは無しです!

 悪魔の結婚式だし、異世界だし……まあ、良いじゃあないですか。


「お前達に3つ贈り物がある。今回俺達の為に頑張ってくれたお礼だ。本当にありがとう!」


 エフィム・レイラ夫妻からひとつめの御礼とは……金貨3万枚と、金貨2万枚相当の宝石ジェムであった。

 

 おお!

 こりゃ、凄い!


「義父様がお前に出した金貨5万枚に合わせたのだ」


 こういうのを『悪魔流』と言うらしい。

 改めてイザベラに聞いた所、あの金貨5万枚は無利子・無期限という事で俺にくれるのと同義であるそうだ。


「そしてこれは俺個人からプレゼントだ。アモンが仲間から抜けると聞いたものでな」


 エフィムはそう言うと、ぱちんと指を鳴らした。


 ほぼ無詠唱の召喚魔法をそれも数秒で発動させたらしい。

 ……恐るべき悪魔王子エフィム。


 ――何かが来る。

 それも冥界からだ。

 巨大な魔力波オーラも感じる。

 どんな奴が……来るんだ?


 俺はついイザベラを庇い、地の底から湧き出る瘴気と魔力波が漏れ出す地をじろりと睨んだのであった。

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