第68話「クランの名は?」
怖ろしい悪魔と契約なんて!
いかにも嫌そうという雰囲気で言ったジュリア。
もう既に悪魔が家族に居るのに……勢いでうっかり失言をしてしまった。
しかしここで素直に謝るのが、ジュリアの良い所。
「御免……イザベラ。言葉の弾みでつい……」
だがイザベラは、大して気にしていないようだ。
自分達魔族がいかに人間に怖れられているかを、しっかり自覚しているらしい。
なので、全然怒っておらず、笑顔で言う。
「構わないよ、気にしないで。普通の人間から見れば悪魔との契約なんて怖ろしいものかもね。でも、人間の死霊術師程度が契約するのは大抵下級悪魔さ。上級悪魔は人間の魂など欲しがらず、人間の夢を喰らうのが好きなんだよ」
は?
何?
今度は俺が驚いた。
「え? ゆ、夢を……喰らうの?」
「ああ、夢だよ」
「悪魔が夢を? 凄く……意外だ」
「何、言ってるの。魂、魂ってクレクレになるのは今や悪魔の中では
え?
それって
何か、違う気がするし……魂を取られる事自体、人間から見たらとんでもないし。
そんな俺の怪訝そうな顔もスルー。
イザベラは、目を潤ませて熱~く語る。
「人間が叶えたい夢って、本来は甘くて素晴らしいモノだろう。上級悪魔はそんな夢を持つ人間と契約して力を貸して夢を叶えさせるんだ」
「そう……なんだ」
「うん! そして夢が叶った瞬間に味わう人間の喜びを喰らうのさ。私は夢を食べた事はないけれど、食べ慣れると魂なんか見向きもしないって言うよ」
ううむ……夢を喰らうなんて初耳だ。
悪魔って、もしかして獏の一種?
まあ、それは冗談だけれども、確かに始末が悪いかも。
人間が幸せを感じる、1番美味しい瞬間を持って行くんだからな……
盛り上がってそんな話をしていると、アモンがぶっきらぼうに言う。
「どうする? すぐに迷宮へ行くか?」
しかし俺は首を振る。
「いや……まず冒険者ギルドの支部に行って迷宮の情報集めだ。その後に店を見て不足している物資がないか確認した上で宿屋で作戦会議を兼ねた休息。それから出撃だな」
俺の言葉を聞いていたアモンが、僅かに微笑む。
馬鹿にしているとかではなく、余は満足って感じ。
あのさ、悪魔侯爵様。
何かこの前、俺を叱った時から先生ぶってない?
まあ、俺にはこの世界で師匠が必要とか邪神様も言っていた。
だから、別に良いけどさ。
「うむうむ……いつもよりは、慎重だな。少しは成長したようだ」
「そいつはどうも! さあ行こうか」
俺は傍らに立っていた衛兵に冒険者ギルドの場所を聞く。
そして3人へ、早く行こうと促したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コーンウォールのキャンプにある冒険者ギルドの支部は、思ったより大きかった。
やはり、迷宮によって生み出される冒険者の需要に応える為と言って良いだろう。
ジェトレ村の支部には及ばないものの3階建ての大きな建物でこのキャンプの中でも1、2を争う大きさだったのだ。
だが、この支部では迷宮関係以外の依頼は殆ど無い。
迷宮関係の依頼とは、大体がクランメンバーの募集なのである。
それだけ冒険者は消耗が激しい仕事なのだろう。
まさにハイリスク、ハイリターンだ。
冒険者ギルドに入るや否や、俺達はいろいろな冒険者に声を掛けられた。
ダントツの1番人気は、戦士として圧倒的な存在感のアモンである。
「ぜひウチのクランに!」
「いやいやウチに!」
次いで人気があるのは俺の嫁である超絶美少女ふたりだ。
「おおお! こんな薄汚い迷宮キャンプに! まさに掃き溜めに鶴だ!」
「うわぁ……あの銀髪の娘……身体のラインが少女から女になる寸前かな、たまらん!」
おいおい!
なんか危ない事を言っている奴が居るぞ。
冒険者ギルドに、男達の邪な欲望が満ち溢れる。
ジュリアは彼等に対して「しっかり釘を刺したい」と考えたようだ。
「駄目、駄目! あたし達売約済み! この人の妻だから!」
「私もよ~」
「はあ~っ! こ、こんな奴の嫁!?」
「おかしいぜ! 何かの間違いだろう?」
「騙されてるんじゃね?」
ジュリアとイザベラの言葉に、冒険者達は驚く。
1番弱そうに見えた俺が、超絶美少女ふたりの旦那。
違和感がありありなのだろう。
驚いた冒険者達の反応に、ジュリアが「ムッ」とした様子で返す。
「あたし達はクラン、バトルブローカーよ。リーダーはこのトール・ユウキ、れっきとしたBランク冒険者よ」
「
おいおい、クラン
戦う商人って……どんなクラン名なんだよ?
だがジュリアの言葉で、とりあえず俺達を誘ってくる冒険者は居なくなった。
俺はカウンターに行き、いろいろ話を聞いた。
丁度売っていた、コーンウォール迷宮の地図を小銀貨3枚で購入する。
買った地図によれば、コーンウォールの迷宮は地下全5階。
聞いた通り最深部には、例の『日替わり宝箱』があるらしい。
購入した地図には、各階ごとに出没する魔物までがちゃんと記載されていた。
何か、とっても便利。
でもこれじゃあ、ゲームそのものの世界だ。
俺の中ではまた例の中二病が、えらく大きな声を出して騒ぎ出したのであった。
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