第120話「悪魔大学」

 どんよりした王都ソドムの街中を抜け、やがて馬車はディアボルス悪魔大学へ到着した。


 この大学はソドムの街の外れに位置する広大な敷地の中にある。

 前世で大学に行けなかった俺には、キャンパスというものに少し興味がある。

 

 但しこの悪魔の大学は、キャンパスといっても街の外の砂漠と変わらない。

 岩だらけの荒野に過ぎない。

 前世でのイメージが強い、緑の芝生が青々とした爽やかなキャンパスとは全く違う。

 行き先である校舎は、敷地の一番奥にそびえ立つ建物である。

 石造りのいかめしい城砦のような雰囲気だ。


 おっと!


 言い忘れたが、バルバトスは俺達の為にある手立てを講じてくれていた。

 男性悪魔達の真の姿……本体は俺達人間の精神には、とても有害だと言う。

 ちなみに女性悪魔の本体は人化した時と殆ど変わらない。

 俺はイザベラの真の姿は見せて貰った。

 だが、却って野生的でエキゾチックな感じになった。

 だから全然OK!

 

 逆に刺激になって思わず夜に『頑張った』くらいである。

 

 え?

 どうだったって?

 そりゃ色々と最高でした!

 だってイザベラはあれだけの超絶美少女だよ。

 夢のような夜だった!


 ……え、えっと……

 話を元に戻そうか。


 バルバトスが俺達に支給してくれたのは形状がゴーグルに似た魔道具だ。

 これを顔に装着すると、俺達の目から見た悪魔の姿は全て人化したものに変換される。

 王宮で悪魔全員が各自、人化したのは、アルフレードルの命令があったから。

 人間社会に居る時は目立たない為に人化する。

 普通に考えても分かるが、悪魔は自分の故郷でわざわざ人化したりはしないのだ。


 バルバトスに先導されて校舎への道を歩いていると……

 キャンパスに居る学生悪魔達はあからさまに好奇の眼差しを向けて来る。

 

 それにしても様々な悪魔が居る。

 顔立ちも体格も千差万別だ。

 まあ男性悪魔はどうでも良い。

 ムサイだけだから。


 問題は女性悪魔達である。

 彼女達はは結構な美人、いや美悪魔揃いであった。

 イザベラよりは少々地味だが、凄い美人が一杯居たのだ。


 もしイザベラやジュリアの嫁ズが居なかったら、俺がデートに誘いたいくらいのレベルである。


 彼等、彼女達はひとめで人間と分かる俺達が余程、珍しいのであろう。

 もしかしたら研究材料として人間を課題にしている者もいるかもしれない。


 俺達はそんな中、キャンパスの中に設置された石で敷き詰められた道を歩いて行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おお、イザベラ様! ディアボルス悪魔魔法女子学園首席の貴女様が本校に進学されないのを聞いて何と落胆した事でしょうか!」


 ここは大学の学長室……会っている学長のオロバスは俺が資料本で読んだ通りの風貌だ。

 顔がとても長く、目がくりっとして口が大きい。

 はっきり言って典型的な馬面。

 だけど、全体から受ける印象は穏やかな中年男といった趣きだ。

 

 多分、俺の中二病の知識が影響しているに違いない。

 イザベラがこの大学へ進学しなかった事を、オロバスは大袈裟に残念がっていた。


 それにしても悪魔魔法女子学園なんて学校もあるんだ……

 俺の嫁イザベラは、『首席』という成績トップの生徒だったらしい。


 伝聞されるオロバスは天地創造の秘密を知る為に命を懸けた悪魔だという話は読んだが、実際目の前に居るこの世界の彼はどうなのだろうか?


 バルバトスが頃合を見て、俺を紹介してくれた。


「オロバス様、彼がイザベラ様の夫君であらせられるトール・ユーキ様です」


「おお、これはこれは! オロバスでございます!」


 オロバスが手を差し出して来たので、俺も握る。

 とりあえず、人間に対して敵意はないようだ。 


「トール・ユーキです」


「トール様ですか! ふむふむ、アルフレードル様も剛毅な! イザベラ様と、人間である貴方様との結婚をお認めになるとは! しかしバルバトス殿からの話も全てお聞きしました。であればこのオロバス、全面的に協力させて頂きましょう」


 おお、凄く好意的じゃないか。

 良かった!


 実際、俺達はオロバスに会う前に応接室で少し待たされた。

 なので結構心配だった。

 王宮の侍従長悪魔アガレスのような人間嫌いな悪魔で非協力的だったら、どうしようかと心配していたのだ。

 

 だけど杞憂であった。

 待つ間に、オロバスはアルフレードルからの書簡を読み、バルバトスは俺達がこの世界の為に働く話をきちんと伝えてくれたらしい。


 こうなると話が早い。


「実はいにしえに滅んだ、ガルドルド魔法帝国の手懸かりを追っています。王国きっての貴方の知識に頼ろうと伺った次第です」


 俺は早速、直球を投げ込んだ。


「ふむ、ガルドルド魔法帝国!? これは意外というか、丁度良い……実は私の専門は古代史、それも今、一番興味があるのがガルドルド魔法帝国の歴史と技術なのですよ」


 おおっと!

 渡りに船だ!


 オロバスが嬉しそうに話すのを、俺は期待を込めてじっと聞くのであった。

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