第183話「シスコンアールヴの謝罪②」

 アールヴが土下座をするなんて見た事も聞いた事もない。

 アウグストの父マティアスだってそこまではしない。


 しかし俺の目の前でアウグストは土下座をして頭を地に突けていた。


「本当にふたりを頼む! 僕はアマンダ姉と同じ位にフレデリカも大好きなんだ。父上には僕からも説得するから!」


 おっとぉ!

 

 何と、アウグストがアマンダとフレデリカの父、マティアス・エイルトヴァーラに対して俺との結婚を了解するように説得してくれるという。

 おお、今迄の態度が何という変わりようだ!

 だがこいつは、相当のシスコンだな……


「どうだろう? ふたりを必ず幸せにすると約束してくれないか?」


 頭をあげて、俺を見るアウグスト。

 しっかり言質を取ろうとしている。


 アウグストの奴、本当にアマンダとフレデリカの幸福を願っているんだな。

 でも俺には他の嫁ズが居るのを、彼は知っているのだろうか?


「ひとつだけ伝えておきたい。俺の嫁は他に何人も居る、それは承知だな?」


「ああ、さっきアマンダ姉とフレデリカとは話して来た。傍に居た兄上の奥方達とは凄く仲が良さそうだ。逆に安心したよ! あの様子なら貴方は妻全員へ愛を平等に与えていると確信した!」


 アウグストは、アマンダとフレデリカ両名とは既に話して来たらしい。

 どうせ、本当に俺の事が好きか、確認する為しつこく聞いたのだろう。

 微笑ましいというか、心配性というか、超重度のシスコンというか……

 まあ、良いや……細かい事は……


「そうか! だったら約束する! 俺はお前の言う通り、嫁全員を大事にするよ」


 了解すると、アウグストがホッとするのが分かる。

 いつまでも弟に土下座なんかさせてられない。

 俺は手を伸ばして彼を立たせて、椅子に座らせてやった。


「兄上! 貴方の言葉を聞いて安心したよ」


「おお、任せろよ、嫁全員がっつり愛してやるぜ」


「ははは、兄上ったら完全にハーレムだよね! 本当に羨ましい! さあ僕もこれから商人の方の修行をしなくちゃ! 友人に商家の息子が居るからね。僕が商人の修行をする事に関しては兄上からも父上へ頼んでくれないか?」


「よっし! OKだ。それにもう兄上なんて堅苦しい言い方は無しで『兄貴』とでも呼んでくれないか?」


「ああ、僕もOKだ! これからも仲良くして欲しい、兄貴!」


 アウグストはアールヴらしい白くて華奢な手を差し出した。


 おお、こいつ思ったより良い奴だ。

 これから長い付き合いになるし、仲良くするのに越した事はない。

 

 俺も即座に手を出して、がっちりと握手したのであった。


 アウグストとの話が終わってから数日間、また俺は忙しくなった。


 アウグスト、アマンダ、フレデリカの父マティアス・エイルトヴァーラはベルカナの街で子供達が無事に帰還するのを、首を長くして待っている筈だ。

 依頼の完遂もあるので本当は直ぐにベルカナの街へ戻りたかったが、これからの事業への様々な準備や手配に忙殺されたのである。

 その中でも1番大事だと思われたのが、転移門の組み合わせによる移動手段の充実であった。

 悪魔が既に設置した転移門と真ガルドルド魔法帝国の転移門を組み合わせて、この異世界にとてつもない交通網を組んでしまおうという壮大なものだ(一応)。


 但し、このルートを多くの者へ明かしてしまうと何かと不備が生じてしまうという判断に俺達は達した。

 特に悪魔王国へ容易く行けると判明すれば、何かとまずくなるだろう。

 余りやり過ぎると邪神様が世界のバランスを崩すから、世界を滅亡させるとか言い出すと困る。

 なので、万が一システムの存在が知られても、外観からは分からないようにしたのと俺を含めたキーマンとなる者が付き添わないと起動出来ない仕組みにし、その都度必要な者に使用を許可する形にしたのである。


 設置自体は俺の収納の腕輪にテオちゃん達魔法工学師に入って貰い、設置箇所へ鷹の羽衣で飛ぶという方法でまめに転移門を設置して行った。

 目立たないように、当然の事ながら設置作業は夜中にこっそりが基本である。


 こうして、このペルデレの迷宮を基点として、アールヴの街ベルカナ、ヴァレンタイン王国の王都セントヘレナ、バートランド、ジェトレ村、そしてジュリアの故郷であるタトラ村も一瞬にして行けてしまう事になった。

 当然、悪魔王国の転移門数箇所付近にも転移門を設置し、乗換えをすれば、あの独特な異界にも渡れるようにしたのだ。


 そんなこんなで、いよいよベルカナへ戻るという日の前日……

 俺はアマンダとフレデリカから結構いじられていた。

 姉妹からいじられる内容は父マティアスとの『対決』である。


 アウグストの執り成しがあるとはいえ……

 ふたりの愛娘を同時に取られる父親が一体どのような反応をするのか?


 俺は不吉な予感に戦々恐々としていたのであった。

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