第182話「シスコンアールヴの謝罪①」
人間、ガルドルド、アールヴ、そして悪魔と4つのコミュニティ。
会議の末、お互いに協力補完しつつこれからやって行く体制がほぼ固まると……
後はこの迷宮で暮らしていた者達の処置である。
ぶっちゃけ、君達はこれからどうするの? という話だ。
各コミュニティにおいてリーダー格の者が対象者を集め、全員へ充分な説明を行い、質疑応答もする。
そして答えは出た。
……結局、ガルドルドの人工物へ魂を移した者のうち、元の身体に戻ったのは全体の8割弱程度となった。
ガーゴイルズ約100体のうち人間82体、自動人形アールヴズの悪魔が約30体のうち21体、そして巨人のアールヴ約100体のうち81体……
元の身体に戻らない理由は様々だ。
はっきりいって、以前暮らしていた世界へ戻りたくない、この新たな地下都市で生まれ変わってやり直したい、などの理由だ。
人間関係の煩わしさや経済的な理由なども大きい。
確かにこの迷宮に居れば3食の心配もしなくて良いし、与えられた機体さえもてば命も半永久的にもつ。
ちなみに3つめの道を取りたいと言う者も居た。
すなわち……
この迷宮を出たいが、俺達の作る新たなコミュニティとも一切の関わりを断ちたいという希望を持つ者だ。
彼等にも万全のケアをする。
人生をリセットしたい者はある程度の金を渡し、忘却の魔法を掛けて故郷の街の中へ戻してやるのだ。
行方不明の者が無事に戻ったという図式になり、本人は出発した後の事は何も覚えていないという決着の仕方だ。
しかし本来の身体に戻った者は、俺達が示した新たな仕事に就いて頑張りたいと言う者が殆どだったのである。
魔法工学師達が粛々と手術?を実施している間に、俺はあるキーマンと話をしていた。
テオちゃんに用意して貰った応接室でふたり、正対して長椅子に座っている。
そのキーマンというのは……
いち早く自分の身体に戻ったアールヴの男。
アマンダの弟、フレデリカの兄にあたるアウグスト・エイルトヴァーラ。
何と、あんなに俺を憎んでいた彼の方からサシで話したいと申し入れがあったのである。
こうなれば話は早い。
俺はアウグストを労わった上で、これから家族になる彼にある程度事情を話した。
この俺の正体が、邪神様の使徒である事などを……
すると吃驚した事に、アウグストは俺に頭を下げて謝罪したのである。
「済まなかった! 良く考えたら今回の勝負方法は僕に凄く気を遣ってくれたのだな……」
へぇ!
アウグストって、案外素直だな。
俺の話を理解してくれた。
アールヴの上級貴族の家柄出身で、やたらとプライドの高い慌て者だと思っていたのに……
「お前……いや、兄上の実力を見てよ~く分かった。さすがはスパイラル様の使徒だ」
「まあ……ね」
「うん! 僕が勝つのは無理! あれは人間の動きじゃないもの。まともにやっていれば僕は命をあっさり落としたかもしれない……そうしたら我が人生はこの迷宮で終わっていたからね」
「兄上って?」
何気にアウグストが俺を呼んだ言い方が気になった。
「ああ、貴方がアマンダ姉の夫君だから兄上だろう?」
ああ、そういう事か。
アマンダとフレデリカを嫁にした俺は、もはやアールヴとはがっつり家族だものな。
「アマンダ姉は僕の理想の女性だった。優しくて凄い美人でその上、強いと来ている。リョースアールヴとデックアールヴの間に生まれた子供が呪われているなんて迷信だって分かっていたし、本当の姉でなければ絶対に結婚を申し込んでいたよ」
え、ええっ!?
そこまでの『思い』だったのかよ!
こいつは姉の事が相当好きだったのだ……
「でもアマンダ姉は血が繋がった実の姉だ。アールヴの掟でさすがに姉弟の近親婚は固く禁じられている。僕は悩み抜いて、愛する彼女を忘れようとして死地であるこの迷宮に潜ったのさ」
成る程!
こいつ、こんな迷宮に潜るなんて、何故そのように無謀な事をしたのか?って思っていたけど、そういう理由だったんだ。
でもフレデリカは?
俺は今や可愛い嫁となったアールヴ美少女の事も振ってみる。
姉のアマンダだけしか眼中にないのなら、妹が可哀そうだ。
「じゃあさ、ぶっちゃけ言うけど……フレデリカは? 彼女はお前を本当に心配して、そのせいでだいぶ無茶したんだぜ」
俺は、フレデリカがベルカナの街で兄の捜索の為に迷宮へ一緒に潜る仲間を募っていた事、やっと集めた人間の仲間に裏切られた事、クランバトルブローカーと合流してここまで来た事などを話してやった。
追及すると、アウグストは力なく俯いて大きな溜息を吐く。
「はぁ……」
「どうだい?」
「ええ……妹には……フレデリカには本当に済まないと思っている。僕のせいでこの迷宮に潜って下手をすれば死んでいたかもしれないから」
「そうさ、あの子は結構な実力者だけど……この迷宮は特別だろう?」
「確かに……」
ここでフレデリカが姉のアマンダを冒涜したなんて言ったらすっごく揉めそうだから、事実は伏せておく。
まあ、嘘も方便って奴だ。
「でも僕以外の男性に、あんなに懐いているフレデリカなんて初めて見た。
「ああ、俺もあいつの事が可愛いし、大好きだ」
頷くと、アウグストがまたも深く頭を下げた。
しかし!
それだけでは終わらない。
何とアウグストは、俺の前で土下座をしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます