第196話「レベルアップ&超強力助っ人登場だぁ!」

 5年前にタトラ村を襲い……

 ジュリアの母を無残に殺した竜共が、またもこの村を襲おうとしているのだ。

 その時の数は、約100体だった。

 結構な大群である。

 エドヴァルド父がたったひとりで身を捨てて戦い、瀕死の重傷を負いながら、何とか村を守り抜いた。

 

 しかしこれから襲い来る竜の数はまるで桁が違う。

 俺の索敵によれば……何とその数は楽に1,000体! を超えているのだ。

 軽く10倍以上なのである。

 

 ちなみに竜神族は普通の竜よりも桁外れに強い。

 しかし数が多過ぎる。

 竜神族の中でもとびきり強い竜神王エドヴァルド父でさえ、死にかけながらやっと勝った。

 それも、たまたま運が……良かったのだ。

 常識的に考えてさすがの竜神でも、ひとりあたりが100体以上の竜を一度に戦って倒すなど……無理だ、不可能なのだ。

 

 勝算は……全く無い!


 多分、今の時点で竜神族のみなら飛翔して逃げられるであろう。

 しかし愛娘も含めた新たな家族、そしてタトラ村の村民達を見捨てて逃げるなど、誇り高い竜神族に出来る筈もない。


「済まない! 俺達が少人数でここへ訪れたのが奴等に漏れたようだ」


 申し訳なさそうに項垂れたエドヴァルド父であったが、目がぎらぎらしている。

 どうやら、何かを決意したようだ。

 それは5年前の決意と全く同じである。


「安心しろ! ジュリア、トール! 俺達は死んでも家族とこの村を守り抜く」


 そんな!

 死んでも?

 死んでもって!!!

 何、言ってるんだよ。


 今の俺には分かる。

 普段、こんな事を誇り高い竜神族は決して言わない。

 この人は……俺達を守って死ぬ気なんだ。

 あの時、自分の力が及ばず、最愛の妻を死なせてしまった償いをする気なのだ。


 俺は即座に決めた。

 もう……今迄の臆病な、引っ込み思案な俺ではない。


「親父さん! 貴方だけを戦わせるわけにはいかない。あなた方竜神は俺の大事な家族だ! 俺も戦うよ、全力で!」


「トール! 駄目だ。お前を死なせるわけにはいかない。俺達が敗れれば……すなわち死ねば、奴等は満足して去って行く。ジュリアだけ守ってくれれば良い」


 そんな事は!

 そんな事は決して――俺がさせない!

 させやしない。

 母に続いて父までも、目の前で死ねばジュリアが悲しむ。

 愛する嫁を悲しませない!

 皆も悲しませるものかっ!


 俺が強く、そう決意した瞬間である。


『ぱらららっぱぱっぱ~!』


 俺の心の中で、何ともこの場に似合わないゆるい音楽が鳴り響く。

 それもこれ、誰かの口真似だ。

 そして、この声は聞き覚えがあり過ぎる。


『い、いきなり!? ど、ど、どうしたんですか?』


『ははっ! 僕ね、すっかり忘れていたんだよぉ!』


 ああ、こんな時に、邪神様——スパイラルの登場だ!


『え? で、でも、忘れてたって? 一体何をですか?』


『ふふふ、どっかのゲームやラノべみたいに主人公へのレベルアップ告知をさ!』


『レベルアップ告知? ああ、良くある奴ですね』


『うん! 使徒として改造された人間の君がさ、この世界で僕の信仰心をぐんと上げてくれたのは凄い功績なんだよ。そして君自身、様々な戦闘経験を積んで滅茶苦茶レベルアップしたんだ』


 ななな、何ですと!!!


『今までさ、君って普通の戦いは勿論、悪魔や竜神と散々腕相撲しただろう? あれも含めて結構な経験値稼ぎになったんだよ、ラッキーだよ、うん!』


 へ!

 腕相撲も戦闘扱い……なの?


『そう! それでね! 君は僕の使徒から、晴れて騎士へ昇格! オメデト~!』


 騎士!?

 邪神の騎士って……何かピンと来ないなぁ。


『うん、分かる! 使徒の方が何かカッコイイものね。じゃあ具体的に言うよ。君が僕に改造されたてでこの世界へ来た時がレベル1、ゴブリンを倒した時のレベルさ。それが今や……レベル99!』


 はぁ!?

 一気にレベル99???

 何という、いい加減なご都合主義だ!


『ま、良いじゃない、細かい事はさ。だから君、空も飛べる! 飛翔フライトって、言えばね。そして君が神力波ゴッドオーラを使う度に倒れて、気にしていた魔力量も一気に100倍に増量の大サービスさ』


 うおおっ!

 何、それ!


『そして更にスペシャルな超大サービス! 僕からの応援としてスーパー大物戦士をふたりも派遣しちゃうよぉ! さあ、どうぞぉ!』


 邪神様の声がそう言うと、いきなり大空亭の床が2箇所、円形に眩く輝き始めたのである。

 これは……邪神様が発動した召喚魔法だ。


 やがて……すうっと、ふたりの人影が現れる。


 ひとりは……ごつい大柄なシルエットである。

 この影は!

 み、見覚えがあるぞ?


 おお……だんだん、影が実体化して来る。


 えええっ!?

 やっぱり!

 こ、こ、こ、これは!

 も、も、もしかしてっ!?


 輪郭がはっきりすると、見覚えのある寡黙な男がにやりと笑う。


「ふん! 久し振りだな、トール! 不出来な弟のピンチとなったら仕方がない、兄として来てやったぞ」


 ア、アモン!!!

 アモンがぁ、来てくれた!!!

 俺の最大のピンチに駆けつけてくれたっ!!!

 

 邪神様が送った超大物従士のひとりは、何と!

 アモンだったのである。


 そして、もうひとり!

 こちらは俺の知らない気配だ。

 アマンダとフレデリカに良く似たこの気配……

 そして小柄で華奢な体格ながら、悪魔王や竜神王を凌ぐこの凄まじい魔力量って、いったい何!?


「おおお、お祖父様ぁ!!!」


「ああ、偉大なるソウェル様!!!」


 フレデリカが手を伸ばして親しげに祖父と叫び、アマンダがいきなり跪いた人物の、その正体!


「ほほう! それがお前達の婿か? 頼もしそうな奴じゃ!」


 何と!

 彼は……噂のシュルヴェステル・エイルトヴァーラ

 現れたのは全世界のアールヴの長であった。

 

 荒ぶる大悪魔、戦鬼アモン。

 そして限りなく神に近い力を持つ伝説のアールヴ、シュルヴェステル・エイルトヴァーラ。

 

 邪神様が送り込んだふたりの超強力助っ人は、いかにも面白そうに、にやりと笑ったのであった。

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