第195話「悪夢、再び!」

 俺達を迎えに来たジェマさんは、夫であるモーリスさんを伴い大空亭へ戻った。

 ジェマさんが、結婚した事を敢えて言わなかったのは……

 やはりエドヴァルド父が、ジュリアを無理矢理故国へ連れ戻す話が重すぎたから。

 

 そもそもジェマさんは寡黙で控えめな女性だ。

 自分が幸せになった事を、ひけらかしたりしないのである。


 大空亭ではご機嫌なエドヴァルド父が、部下の竜神族10名と共に俺達の帰りを待っていた。

 部下達は男女取り混ぜて10名――老若男女全員が精悍である。

 加えて、年相応に美形だ。

 古武士という趣きのお爺さん、渋いお洒落なおっさん、かっこいい若手のイケメン、超美人の年上お姉さん、コケティッシュな可愛い美少女。

 この方々の正体が、全員怖ろしい竜だとは信じられない……


 俺達にカミングアウトしたモーリスさんは、改めてエドヴァルド父へ挨拶した。

 ジェマさんの亡くなった姉ミレーヌさんの夫であるエドヴァルド父は、モーリスさんの義理の兄に当たる。

 大きく深呼吸した上で自分の出自を伝えたモーリスさんに対して、さすがにエドヴァルド父も吃驚した。

 俺が邪神様の使徒だと聞いて驚いていたところへ、転生した元魔法帝国皇帝なんて、更にダブルパンチというところか……

 だが……

 これからジェマさんと共に生きて行く決意を告げたモーリスさんを、エドヴァルド父も大歓迎したのである。


 うん……凄いぞ、俺の家族って!

 嫁ズは竜神族、悪魔族、古代魔法帝国人の各美少女に、アールヴの美少女達。

 義理父が竜神王、悪魔王、そしてアールヴの上級貴族

 義理兄が、次期悪魔王と古代魔法帝国元皇帝、義理姉が悪魔王妃……

 普通の人間はジェマさんくらい。

 

 でも……

 俺自身は何も変わらない。

 家族だって、それぞれ大層な肩書はあるが、もうざっくばらんに話せる間柄だ。


 こんなに個性豊かな家族がたくさん増えるって楽しいぜ、これ!

 大変な事もあるけれど、ボッチよりもず~っと良い。

 俺はこの世界で肉親が皆無であり、天涯孤独なのだから。


 にんまりな俺へ、イザベラも「にこにこ」して話し掛けて来た。


「トール、これって仮の結婚式だよ。改めて本結婚式を悪魔王国でもやるからね」


「そ、そうか! あ、あれね?」


 俺はイザベラの姉の結婚式を思い出して少し脱力した。

 あの時は、一気6時間コースだったからだ。

 しかしこうなるとフレデリカも負けてはいない。


「お兄ちゃわん! 私達も素敵なアールヴ式の結婚式をあげようねっ!」


「あ、ああ、そうだな」


「一族の長であるお祖父様も絶対来るよ! 私の事、大のお気に入りなんだもの」


「ふ~ん」


 フレデリカからは彼女の祖父であるシュルヴェステル・エイルトヴァーラ

の事を何度も聞かされている。

 アールヴ族の長であるソウェルという称号を持ち、御年7,000歳になるという。

 ちなみに、フレデリカは完全なお爺ちゃんっ子。

 シュルヴェステルは、何でも我儘を聞いてくれるらしい。

 

 でもよくよく考えてみれば7,000歳って、凄いよ!

 信じられないくらいの長命だ。

 聞けば、アールヴの平均年齢は2,000年くらいらしい。

 それでも凄いのに一気に3倍以上。

 シュルヴェステル曰く、彼が生まれた頃には神や精霊などがそこら辺を歩いていたというから驚きだ。


 アマンダからも聞いたが、アールヴ族の中でシュルヴェステルの実力は抜きん出ていてその神や精霊に近いという噂である。

 ちょっと想像しただけでも、おっかない爺ちゃんだ。


 もしアマンダ、フレデリカとの結婚を許して貰えなかったらどうしよう…… 

 そんな事を考えると俺はガクブル状態全開である。

 

 それにアマンダの事をとやかく言われる可能性もある。

 もし何か言われたらフレデリカの立場を考えた上で、アマンダとは別々に結婚式を挙げよう。

 

 そんな事をつらつらと考えていたら、もううたげが始まる。

 とりあえず、ここに居る身内だけのささやかな結婚式。

 俺と嫁ズ、そしてモーリスさんとジェマさんの。

 ちなみに俺達が持ち込んだ様々な食材により、貧しいタトラ村では考えられないくらい豪勢だ。

 

 さあて、いよいよ乾杯!


 と、その時。


「お! おわ!」


 俺は思わず悲鳴に近い声が出てしまった。

 禍々しい殺意の渦が、大量なうねりをもってこの村へ押し寄せて来るのを感じたのである。

 今迄に感じた事のない怖ろしい気配。

 あの魔界での悪魔軍団を遥かに凌ぐ凄まじい力。

 

 こ、これは!?


「きゃああっ! こここ、これはっ!」


 俺に続いて、索敵に優れたジュリアもこの気配を察知したようである。

 大きな悲鳴をあげて、身体を震わせている。


「むううっ! そ、そんな!?」


 いつもは強気なイザベラでさえ、顔色が蒼ざめているのだ。


「うおっ!」 


 続いて大声をあげたエドヴァルド父が悔しそうに唇を噛んだ。


「閣下!」


 エドヴァルドさんの部下の長である、老齢の竜神が拳を握り締めている。


「むう! こうなったら俺達、竜神族が責任を持ってこの身を盾にし、村を守らなくてはならぬ。どうせ奴等の狙いは俺達だろうからな」


「「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」」


 エドヴァルドさんと部下10名が一斉に立ち上がった。

 もしかして……竜神族は自分達だけで戦うつもりか。


 俺以下、それなりの戦士がこれほど怖ろしいという相手……

 それは……考えられないくらい夥しい竜の大群であったのだ。

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