第13話「好きになった子が好み!」

「な、何故、俺の事をそんなに信用してくれるんですか?」

 

 俺が恐る恐る聞くと、ジェマさんは自信あり気に胸を張った。


「私の勘だね!」


 はぁ?

 勘?

 そんなんで見ず知らず&初対面の俺に、可愛い姪をエッチさせようとしたりする!?

 おかしくねぇか!


「えっと……」


「うん! きっとあんたはジュリアをしっかりと守れる強い男さ。昨日の出会いもスパイラル様の運命のお導きに違いないよ」


 運命のお導き?

 邪神様の?

 おっと、そう来ましたか!

 って事は、これって邪神様の加護って奴ですか!?


 なら……納得。

 邪神様の邪悪な……いや加護が働いたのか。


 まあ、これで話がまとまれば……僅かながらも、この世界の邪神様の信仰心が上がる。

 俺は彼の使徒としての役目も、しっかり果たすって事か?


 そんな事をつらつら考える俺に対して、更にジェマさんの話が続く。


「……それにジュリア。あんた、トールの事が気になって仕方がないんだろう? 昨日だって今朝だって、男嫌いのあんたがトールとは確り手を繋いでいるじゃあないか」


 え?

 男嫌い?

 このジュリアが!?

 一緒に村へ帰る時だって、ずっとにこにこしていたぞ。

 そんな素振り、一切見せていないぞ。

 

 ……そして昨夜は……あんなに俺に甘えていた……すげぇ、可愛い。


 俺は、思わずジュリアを見つめてしまう。

 ジェマさんの問いにもジュリアは答えず、可愛く俯いたままだ。

 その顔は、相変わらず真っ赤である。


「図星のようだね。何せあんたの命の危機を救ってくれた王子様だからね。きっとひとめぼれなんだろう?」


「…………」


「トールが夜伽を望んでいないのに、勇気を出して処女のお前が自ら抱かれに行った。ふふふ、あたしにはすぐに分かったよ」


「お、叔母さん!」


「良いかい、ジュリア。恋っていうのは女から行かなきゃ掴めない場合もあるのさ。頑張りな!」


 姪を励ましたジェマさんが今度は俺の方に向き直った。


「この50,000アウルムは要らない。逆にあたしからのお祝いで50,000アウルム差し上げるよ。少ないけどジュリアの持参金と命を助けて貰った礼金も兼ねてね。ああ、それからジュリア。言っておくけど、あんたが頑張って返そうと貯めたお金は私には不要さ」


 ジェマさんの意外な申し出にジュリアは更に驚いている。


「お、叔母さん……」


「何て顔をしてるんだい。あたしの姉さん、つまりあんたの母さんには、この宿屋を開店する時もとても世話になったんだ。それに可愛い肉親のあんたから、金なんて取れるわけがないだろう」


 ジェマさんの温かい言葉に、ジュリアは思わず泣き出してしまった。


「あ、あ、あ、ありがとう! 叔母さん、うわあああああん……厳しくされたけどあたし、叔母さんの事、母さんみたいに思っていたのよ」


 ジェマさんは泣きじゃくるジュリアを抱き締めながら、ぽつりぽつりと話してくれた。


 姪のジュリアの事を、実子のように愛している事。

 ジュリアが生きて行く為に、厳しく教育した事。

 元々、自分は感情表現が下手で、とてもぶっきらぼうな事。

 ジュリアがゴブリンに襲われたと聞いて心配し、俺が助けたのを聞いて涙が出るほど嬉しかった事。

 男嫌いの筈のジュリアが、俺にぴったりとくっついているのを見て驚いた事。

 そんなジュリアの様子にピンと来て、『夜伽』の話を俺へ特別に振った事などを淡々と話したのである。


「言っとくけど、あたしの大事なジュリアに普通は夜伽なんかさせないわ。それもこれも相手がトールだったからだよ」


「…………」


 俺はジェマさんに頭を下げると、ジュリアを見つめた。

 ジュリアも、熱い視線で俺を見つめて来る。


 その場で俺は、ジェマさんに意思決定を求められた。

 男の俺からジュリアに告白して欲しいって事で、一種の儀式のようになってしまう。


 以下、その時の会話である。

 女性と交際した事のない俺は不器用であったが、昨夜に続いて思い切って言うしかない。 


「俺はジュリアが好きだ、一緒に居て欲しい……その……俺の彼女になってくれ」


 俺の言葉を聞いても、ジュリアは俯いたままだ。

 

 あれ?

 返事がないぞ。

 ここは即答しないのが『お約束』なのかしらん。


「あたし……あたし……」


「嫌だったら無理にとは言わないけど。俺は暫くこの村で経験を積んでから旅に出るさ」


 俺が言葉を足して返事を促すと、やっとジュリアは答えてくれる。


「……昨夜言ったようにトールと一緒に居たい。あんたが好きなんだ、あたしをトールの彼女にしてくれる?」


「ああ、喜んでぇ!」


 某居酒屋みたいな俺の返事を聞き、顔をあげたジュリアはにっこりと花が咲いたように笑う。

 

 くう!

 愛し愛されるって、こういう事か!

 俺は初めての感覚に戸惑いつつも、込み上げてくる嬉しさに拳を握り締めた。

 思わず、全身が震えてしまった。


 ジュリア、これで君が俺の初めての彼女に正式決定!

 この瞬間、終わりを告げた。

 ずっと、人生の暗黒時代として綿々と続いて来た『俺の彼女いない歴17年』もね。

 

 まあ、出会いだけで考えれば特殊かも。

 確かにそうとも言える。

 ……夜伽から始まる恋って何だし、普通に出会って友達から恋人へなんて理想かなと思ってはいたけど……


 しかし! 


 俺はもうそんな些細な事にはこだわっていない。

 ようは、お互いに幸せならば良いわけだもの。


 ふたりの様子を見たジェマさんもにっこり!


「良かった! これで決定だね。ジュリアは我が姪ながら、頭の回転は速いし、身のこなしも鋭いよ。巨乳だった姉さんと違っておっぱいが全然無いのが玉にきずだがね」


 ああ、ジェマさんったら、「我が意を得たり」と言う感じだ。

 しかも、俺がジュリアの胸をちら見したのを察してか、彼女の胸の事を突っ込んでくれた。


「お、お、叔母さんたらっ!」


「あははは、これからトールに一杯おっぱいを揉んで貰えばいいんだよ。そうすれば姉さんみたいに大きくなる……かもよ」


 本当?

 ぜひやろう!

 彼氏の特権で優しく揉み揉みしてやろう!


「もう!」


 ああ!

 恥ずかしがるジュリアが可愛いし愛しい。

 

 もし前世の俺の趣味を知っていた奴が知ったら、「お前は優しい巨乳タイプが好きじゃないのか?」と言うかもしれない。

 

 確かにジュリアは胸が無い、微乳だ。

 ……でもそれが何なんだ。

 所詮は愛だ!

 そうじゃないのか?


 俺はいつの間にか、今迄の女性の好みに、拘っていない事に気が付いていた。


 好きになった女性が、俺のタイプだ!


 そんな言葉をのたまった、かつての友人の声が、俺の頭の中には響いていたのである。

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