第156話「失われた迷宮へ」
失われた地――ペルデレ。
だが、その面影は残念ながら残ってはいない。
全くといっていいほど……
かつて冥界大戦と呼ばれた人間と悪魔の大戦争が起こった。
序盤は押され気味だった悪魔軍が、大反撃に転じた際に街を徹底的に破壊したのである。
シンボルであった創世神の神殿も悪魔達の容赦ない攻撃により、完全に破壊され僅かな痕跡が残るだけだ。
問題の迷宮は……その神殿跡にぽっかりとその入り口を開けている。
この迷宮に
黒く開いた穴はまるで足を踏み入れたら二度と戻る事の出来ない冥界への入り口……
当初、俺達はそのように聞かされ、実際そう考えていたのだ。
しかし!
奇跡ともいえる生還者は居た。
世間に対して
だが、俺達は知った。
知ってしまったのである。
アマンダの両親……
父マティアス・エイルトヴァーラと母ミルヴァ・ルフタサーリがたったふたりで助け合いながらしっかりと生還しているのだ。
この事実を知って、俺達が生きて帰還出来ないのではというプレッシャーは激減した。
帝国の王女であるソフィアを擁し、新戦力の魔法剣士アマンダが加わり、不完全といえども迷宮の地図を手に入れた俺達クランバトルブローカーには、少しだが追い風が吹き始めたと言えよう。
さあ、嫁ズの準備も整い、クランは漸く出発である。
突発的に来訪したアマンダパパの相手をしていたから、予定の時間より、だいぶ遅くなってしまったが……いろいろとプラス情報も得た。
「じゃあクランバトルブローカー、出発するぞ。ジュリア、良いな?」
「はい、旦那様! 皆、準備は良いわね?」
「「「はいっ!」」」
俺の号令に対して、はきはきとジュリアが答える。
竜神族に覚醒してから、ジュリアは変わった。
完全に変わった。
何か、こう嫁ズを
「俺も了解だぜ、兄貴!」
嫁ズとヴォラクの気合の入った返事を受けた俺は大きく頷く。
皆を促して『白鳥亭』を出た俺は、ベルカナの正門へと向ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
マティアスに聞けば、フレデリカのクラン『スペルビア』はこの正門を通っていないという。
彼女達は一見、このベルカナの街の外へ出た痕跡は無い。
正門にはアールヴの衛兵達ががっつり詰めており、厳しい監視の目を潜って通過するなど、普通は不可能。
フレデリカがクランのメンバーごと失踪してから、もうだいぶ時間が経っている。
時間が経っても見つからない。
口さがないアールヴの中には、フレデリカが街のどこかに隠れていると言い出す者も居た。
しかしそれはおかしい。
フレデリカはこのベルカナの街でわざわざ隠れる理由がない。
拗ねて家出をするのなら、単独かお付きの者ひとりくらいで充分。
わざわざクランを結成する理由がないのだ。
これ以上愚図愚図していれば、兄アウグストの安否に関わるのは確実。
それ故フレデリカは、何らかの方法を使った。
そして誰にも気付かれずにクランを率いて迷宮へ向かったのだろう。
つらつらと考えながら、俺はクランのメンバーと街の正門を出る。
それにしても俺達のクランは目立つらしい。
アモンが居た時もそうであったが、あからさまに見つめる奴の何と多いことか。
それはこのアールヴの街ベルカナでも一緒である。
俺達は正門を出て少し歩く。
ペルデレの迷宮まではこの街からゆっくり歩いて徒歩で約1日かかる。
時間が勿体ないのと、体力温存の為にまともに歩いて行くつもりなどない。
しかし悪魔王アルフレードルから貰った
全員で変化する事は出来ないのだ。
俺は考えた末に頼み込んで、またソフィアに収納の腕輪へ入って貰う。
ソフィアの所持する羽衣をアマンダに使って貰う事にしたのだ。
新参のアマンダは恐縮したが、現状ではそれしか方法がない。
「兄貴! ひとつ提案です」
「何だ?」
「俺がアマンダの姐御をしっかりと抱っこしながら飛んでも良いですぜ」
悩んでいた俺に対して、ヴォラクがとんでもない提案をして来た。
「へぇ~、……面白いじゃないか」
だが……当然の事ながら即座に却下する。
「何て、言うわけね~だろ!」
「ぐは!」
勿論、俺の気合を込めたグーパンチ付きである。
更に歩くと、やっと人目を避ける場所を見付けた。
街道から少し離れた森の中である。
相変わらず綺麗な白樺の林の中で、俺達は変化した。
改めて凄いと思う、羽衣の力。
アマンダは初めての変身体験に吃驚していたようだが、すぐに慣れたようだ。
こうして俺達は一気にペルデレの迷宮へ飛んで行った。
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