第157話「ソフィアの本音」

 俺達は羽衣の力で15分程度飛行する。

 広大な空を悠々と飛ぶのは本当に気持ち良い。

 どうやら嫁ズも一緒みたいで、歓喜の波動が伝わって来る。

 大好きな女の子達と鳥になって空を飛ぶ……

 何か、俺って異世界へ来てから、凄い体験ばっかりで感動。

 

『だからぁ、僕のお陰でしょ』


『…………』


 何か声が聞こえたけど華麗にスルー。

 

 まもなく……

 ベルカナから約40kmほど離れた距離にあるペルデレの迷宮が見えて来た。

 上空から見ても遺跡の広さはかなりのものだ。

 先ほどまで居たベルカナの街ほどはないが、半分くらいの面積はあろう。

 その中で迷宮の入り口がある創世神の神殿跡は街の中心だと聞いている。


 ペルデレは危険で普段は人が近付かない遺跡だとは聞いてはいるが、既にフレデリカ達が先行しているし、宝物目当てで一山当てようという輩が居ないとも限らない。

 羽衣の効力を見られて良い事はひとつもない。

 俺達は遺跡から少し離れた場所へ人の気配に注意しつつ降下して行ったのである。


 荒廃し廃墟となった街に降り立った俺。

 何となく、心にぴゅうっと風が吹く。

 なので、つい……


「夏草やつわものどもが夢の跡……だなぁ」


「何じゃ、それは?」


 崩れた建物を眺めながら俺がぽつりと呟いた。

 それを聞いて、質問して来たのはソフィアであった。

 芭蕉の句に込められたはかなさを感じ取ったらしい。


「俺が聞いた事のある、昔の詩のようなものさ。いにしえの戦場ももう時が経って草が生い茂り、一時の夢のようだったと言う意味だと思うよ」


 俺は曖昧な記憶を頼りに、俳句の意味をソフィアへ説明してやった。

 しかし彼女の反応はとんでもないものである。


「ふうむ、驚いた……トールが詩を詠むのか?」


「え? ま、まあな……」


「意外だのう、そのようにロマンチストとはな。夜はまるで情欲のけだものであるお前が……」


 はぁ!?

 情欲の獣?

 って……失礼な!

 第一、自動人形オートマタのお前にはまだ何もしていないだろう?

 ……ちょっとだけ……おっぱいがあるかなって、触ったくらいじゃあないか!


 俺がそのような抗議をすると、ソフィアは慌てた。


「じょ、冗談じゃ!」


「…………」


 無言攻撃……


「…………」


 &ジト目攻撃……


「ま、まあ、その……わらわも早く本当の身体で夫である、そなたにしっかりと抱かれたいという事じゃ!」


 俺に抱かれたい?

 は?

 何、その雑誌のタイトルみたいな台詞セリフは。


「え? そ、そうなの?」


「ここまで来たら正直に言うぞ! 他の妻達のように激しく、容赦なくな! あ、ああっ! 遂に言ってしもうた! こんなもの乙女の言葉ではないぞ! は、恥ずかしい!」


 ソフィアはそう言うとうつむいてしまう。

 

 何、コレ?

 

 俺は、はっきり言って驚いた。

 彼女が俺にここまで惚れていたと分かったからだ。

 その瞬間、俺は今迄以上にソフィアが愛しくなって来たのである。


 ソフィア……お前って可愛いな!

 あ、ああ、萌えた!

 俺は今、お前にすっごく萌えてしまったぞ!


 ソフィアの言葉を聞いていた俺の嫁ズは、尚更ソフィアに同情的である。

 最近は皆が少しでも早く、本来の身体に戻してやりたいと願っているのだ。


「トール! アマンダには悪いけどソフィアの件が優先だからね!」

 

「はい! 当然ですよ、私達は家族なのですから」


 きっぱりというジュリアに対して、アマンダは大人の対応を見せる。

 普通なら少しは躊躇するものだ。

 腹違いとはいえ、アウグストは実の兄?弟? と妹のフレデリカが行方不明になっているのだから。

 

 ジュリアとアマンダの折り合いをつけようという気持ちが働いたのであろうか、そこへイザベラが割って入った。

 

「まあまあ、私達が両方助ければ、全く問題ナッシング!」


 朗らかに言うイザベラを見てジュリアとアマンダの両名が大きく頷いた。

 現状でやらなければならない事は多々ある。

 だが、家族皆で幸せになれば全ては丸く収まるのである。

 

 そんなイザベラを見ているとソロモン72柱の悪魔を思い出す。

 彼等の中にはぎくしゃくした人間関係を調整する能力を持った悪魔が居たという。

 もしかしたら……イザベラもその能力を持っているかもしれない。

 それにいつも前向きなのが彼女の良い所だから。


 俺はそんな嫁ズを好ましく思いながら、不気味に開く迷宮の入り口へ向ったのであった。

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