第59話「同行希望」

 俺達は今『居酒屋お喋りビストロ ロクファース』奥の個室に居る。

 店主の父バリー老人から色々と話を聞いていたのだ。


 驚くべき事に、こちらのメンバーには悪魔アモンが混ざっている。

 これには、理由わけがあった。


 バリーからオリハルコンの情報を貰う前に、俺は、アモンとじっくり話したのだ。

  

 『真剣勝負』の腕相撲で完敗。

 このままではおめおめと、魔界くにには帰れない。

 と、いうのが彼の言い分。

 

 帰国するには何か『手土産』が無いと駄目で、それにはあのオリハルコンが最適なのだと。

 イザベラの姉の為に俺達に助力し、オリハルコンを持ち帰れば……

 確かに、アモンの最低限の面目は立つだろう。


「トール、お前は確かに強い。お前に勝てなかった俺はイザベラ様の許婚いいなずけである資格が無いのだ」


「そうなの?」


「うむ、しかも人間如きに負けた俺は恥さらし。悪魔王アルフレードル様は絶対お許しにはならないだろう」


 人間如きに負けて、恥さらしか……

 だけど俺は、邪神様にいじられた改造人間。

 正確にいえば、まともな人間じゃあないものな。

 でも相手が相手だし……黙っていよう、うん。


「というわけで頼む。悪魔侯爵と言われて良い気になっていた俺だが、完全に目が覚めた。まだまだ修行せねばならん……」


「修行って? どうするの」


「同行させてくれ、当然見返りは考えてある」


「え? 見返りって何?」


「暫くはお前の指示に従い、働こう。オリハルコン探し以外でも全面的に協力する」


「う~ん」


「宜しく頼む! お願いだ」


 迷う俺に対して……

 頭を下げ、礼を尽くして頼み込むアモン。


 どうしよう?

 俺は迷った。

 仮にも俺は邪神様の使徒。

 世界の信仰心をあげるのが使命。


 真逆の存在である悪魔王女イザベラを嫁にしただけじゃなく、同じ悪魔のアモンを旅の仲間に加えるなんて……


 これって神どころか、悪魔のクランまっしぐら。

 と、その時。


『全然、OKだよ~。悪魔嫁に悪魔従士。神が悪魔を従える……すっげぇカッコイ~』


 ああ、軽い!

 邪神様が軽すぎる。

 深く悩み、考えた俺が……馬鹿だった。


 こうして悪魔アモンは俺達に同行する事が決まったのだ。


 縁が切れたアモンと再び一緒だと分かって、イザベラは相当ショックだったらしい。

 とっても、うんざりした顔付きであった。

 

 だけどアモンの同行をOKしたのは俺にも弱みと言うか、良心の呵責があった。 

 結果として、俺はアモンの婚約者イザベラを寝取った間男になってしまったから。

 寝取ったと言っても、エッチはまだなんだが…… 

 

 こうなったら毒を喰らわば、皿までだ。


 閑話休題……


 バリー老人の話は続いている。


「という事で、オリハルコンは旧ガルドルド魔法帝国では熟練の錬金術師達によって普通に作られていたらしい」


「旧ガルドルド魔法帝国?」


「そうだ。……但し製造方法レシピは秘中の秘で、厳重に管理されていたそうだ」


 これは良い情報だ。

 オリハルコンは天然の金属ではない。

 錬金術で人為的に作り出すものだったのだ。

 

 俺はすかさず皆を見回して言う。


製造方法レシピがあればオリハルコンは作れるのか。となると鍵はこの村の近くにある旧ガルドルド魔法帝国の遺跡の中にあるコーンウォールの迷宮だな。他のガルドルドの遺跡を探すには時間が無さ過ぎるし、コーンウォール迷宮では実際にオリハルコンの金属塊インゴッドが見付かっているからな」


 そのような俺の言葉に対して「これも忘れないように」とバリーは念を押す。


「後、絶対に必要なのは賢者の石だ。あれがオリハルコンを作る際の触媒になるからの」


 そうか!

 俺の内なる声が『賢者の石』を売るなとアドバイスしたのはこれが理由か!?

 そしてあの『謎の鍵』……


 ここでもし『賢者の石』や『謎の鍵』が手元に無ければ俺達の絶望感はもっと深かったに違いない。

 俺は少し「ホッ」としてバリーを見る。

 バリーは、そんな俺を戒めるのを忘れなかった。


「トールよ、安心しちゃいけない。コーンウォールの迷宮は危険だ。今や冒険者の成れの果ての無頼の人間達や怖ろしい怪物共の巣窟だから。お前とこの戦士の男は良いとしても、ジュリアちゃんやこの娘を連れて行くのは勧められないぞ」


 ううむ……

 迷宮ってそうだよな……

 薄暗く瘴気に満ちていて凶悪な魔物がうごめいている。

 魔物達は迷い込んだ獲物を虎視眈々と狙い、その奥には隠された秘宝が眠っている。

 それがお約束。


 秘宝を得るためには危険が伴う……

 その危険にジュリアやイザベラをさらしても構わないのかとバリーは問うのである。


 俺は腕組みをして目を閉じると、じっと考え込んだのであった。

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