第25話「竜の出現と新たな村」
「どちらにしても、こんな場所に長居は無用さ。早くジェトレに向おう」
……確かに、ここに、殺戮の事件現場に居ても仕方がない。
犠牲になった人達を葬ってやれなくて可哀そうだけれど、時間がない俺達も先を急がなくてはならない。
ジュリアに促された俺は、黙って彼女を背負うとまた歩き出したのである。
――30分後
背負われたジュリアがまたも警告を発した。
危険回避能力が発揮されたのだ。
俺にも感じる。
さっきより数倍凄まじい気配が。
「怖ろしい怪物が来る! 早く繁みに隠れて!」
俺は、急いで身近にあった繁みに身を隠す。
勿論、ジュリアも一緒だ。
その瞬間であった。
ぐはおおおおおおおおお~ん!
びりびりと、大気が震える。
身の毛もよだつような怖ろしい咆哮が、辺りに響いたのだ。
「ええっ!?
何と俺達の頭上、大空高く1頭の竜が上空に現れたのである。
全身を固い鱗に覆われた西洋風の竜。
背中に生えた巨大な羽を羽ばたきながら悠々と飛翔していた。
体長は楽に15m以上はありそうだ。
中二病の俺は凄く興奮してしまう。
うっわ!
お約束の竜だと?
本当にこの世界は、ファンタジーそのものだ。
「しっ、静かに」
ジュリアは俺を制すると、藪から出ないようにしてそっと上空を見上げる。
竜は何かを探しているように辺りを見回し、暫く飛翔していた。
そしてまた咆哮すると、あっと言う間に大空の彼方へと飛んで行き、見えなくなった。
「もう大丈夫みたいだよ」
「あ、あんなのが居るんだ?」
「ええ、私はたまに見るよ。目の前で何かを襲っているのを見た事はないけど」
いくらスパイラル神から与えられた身体とはいえ、あんな怪物には勝てそうもない。
触らぬ何とかにたたりなしとも、言うじゃないか。
完全に危険が去ったのを確認した俺達は、また旅を再開したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺は、早足で歩く。
何かから逃れようとして、必死に歩く。
先程の死体だらけの惨状と、怖ろしい竜の姿や咆哮が俺の頭から離れない。
「もう少しだよ。これなら、日が暮れる前に着きそうだね」
ジュリアの声も、俺の耳には殆ど届いていない。
いろいろな事が起こり過ぎて頭が一杯な俺は、歩く事で自分の気持ちを紛らわそうとしていたのである。
―――30分後
一心不乱に、超が付く競歩のようなペースで歩き続けた俺。
何と大幅に時間を短縮して、所要時間の半分以下でジェトレに辿り着いたのだ。
太陽を見ると時間は午後半ば、夕刻前くらいであろう。
「トール……着いたよ、ジェトレだ」
ひたすら歩いていた俺でも、行く先の地名を聞けばハッと我に返るものである。
タトラ村から約20Km……
深い森が一気に開けたと思うと、忽然と現れたその圧巻の姿は殆ど街と言って良い規模のジェトレの村であった。
人口は約5千人で、数多の人種が集うという。
今、俺達が居るこの国はヴァレンタイン王国というらしいのだが、ジェトレはこの国が建国される遥か前から存在する堅固な石造りの高い壁に囲まれた古い村なのだ。
これらの知識は、全てジュリアから得た物である。
村を目の前にして、さすがにジュリアは俺の背から降りたいという。
俺は、そっと彼女を下に降ろす。
ジュリアは、俺と一緒に正門に行こうと促した。
正門には、やはり門番達が居る。
タトラ村の門番のラリーよりはずっと装備がしっかりしていた。
リーダーらしき男は壮年の渋いイケメンであり、てきぱきと行列を捌いている。
彼がこの村に10人程度居る門番達を束ねる門番長であり、当然警護長役を兼ねているらしい。
ジュリアによると、ここで村に入る身分確認と手続きを取るという。
お、おう!
入村というか、街に入る手続きが俺が小説に書いた通りの感じじゃないか!
何か……感動した!
行列の最後方に並んだ俺達であったが、入村処置は門番の手際が良いせいか直ぐ俺達の順番になる。
何とジュリアは、この門番にも顔馴染みであった。
「おう、ジュリアじゃないか。良く来たな、で、この男は誰だい?」
やはり、よそ者である俺の事を聞かれたか……
「あ、ああ、ブレット。あたしの彼氏さ、恰好良いし、それに強いんだよ!」
恰好良いし、強い?
それって俺にとって、1番縁遠い言葉だ。
「ト、トール・ユーキです。宜しく!」
「トールっていうのか。ふ~ん、黒髪に黒い瞳ねぇ……おたくはヤマト皇国人かい? 装備や出で立ちからしてサムライには全く見えないが……」
ブレットと呼ばれた門番は俺にとって不可解な事を言う。
ヤマト皇国?
何じゃ、そりゃ!?
?マークを飛ばしまくる俺にジュリアが説明してくれる。
「ヤマト皇国というのはここから遥か東方にある島国よ。サムライというのはカタナという独特な細身の剣を
サムライの居るヤマト皇国って……まるで日本じゃないか。
「まあ、良い。ジュリアが連れて来るんだ。まさか村の中で暴れたり、犯罪を犯したりはしないだろうよ。村外の人間用の特別村民証を発行してやるから中に入れ。おいカール、手順を教えてやれ」
ブレットは傍らに居たカールというもうひとりの若い門番に顎をしゃくって奥に案内させた。
連れて行かれた特別村民登録室には魔法水晶が置いてあり、先に案内された何人かの者がそれに手を当てていたのである。
ジュリアが、俺にアドバイスをしてくれる。
「トール、手を当てるように言われたらその魔法水晶に手を差し出して」
「分かった」
やがて登録の準備が整ったらしい。
俺は係員の指示に従い、淡く光る透明な魔法水晶に手を当てたのであった。
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