第49話「意外なプレゼント」

 結局、ダックヴァル商店では大儲け。

 純利益220万アウルム相当の商品と反魂香、そしてコーンウォール迷宮内のどこかの鍵らしい魔法鍵マジックキーを得る事が出来た。

 

 これに味をしめたイザベラ。

 もっと『特別なこの部屋』にて商品を買いたがったが、意外にもダックヴァルが、きっぱりと断った。


「悪いが、俺は店に来る奴へ公平にチャンスを与えたいのでな」


 よくよく聞けば、ダックヴァルは道楽でこの部屋を運営しているという。

 

 当初は極悪非道な酷いおっさんだと一方的に思っていたが、大儲け出来るってのは嘘じゃなかったのだ。

 まあ、鑑定と解呪がちゃんと出来ればっていう条件付きだけど。

 それにダックヴァルは基本的に損はしない。

 俺は改めて、このおっさんに商人のしたたかさを見たのである。


 さて軍資金は、確保出来た。

 次に重要なのはこの店に来たふたつめの目的、オリハルコンの情報収集だ。


 当然、聞き役はジュリアである。


「おっちゃん、最後の用事なんだけど、最近コーンウォール迷宮で見付かったオリハルコンについて聞きたいんだ」


「ああ、良いぞ」


 簡単にOKしてくれたダックヴァル。

 あら?

 最初とはえらい違い。

 でもこれは今日積み重ねたやりとり、つまりコミュニケーションの賜物って事かな。


 それだけ、俺達とダックヴァルには『絆』って奴が出来たのだろう。

 言い方はベタで微妙だが、やっぱり人との繋がりは大事だ。


「ねぇ、持ち込んだ冒険者の話とか知っている?」


 ジュリアが聞くと、ダックヴァルはあっさり答える。


「ああ、知っている。奴等はクラン大狼ビッグウルフというCランククランさ」


 更に詳しい話をするダックヴァル。

 クラン大狼ビッグウルフは、コーンウォール迷宮を拠点にして稼いでいる男性冒険者のクラン。

 俺達が貰った魔法鍵マジックキーを持ち帰ったのも彼等だという。


 となると、お宝のオリハルコンは一体どこで見つけたのだろう?


「ああ、コーンウォールは地下5階まである迷宮だが、その最深部の宝箱にあったそうだ」


 迷宮最深部の宝箱?

 う~ん、本当かな?


 何でも、その宝箱は数日ごとに新たな中身が入れられているという。

 それって、誰かが趣味で入れているみたいだ。

 まるでGAMEの宝箱。


 続いて俺は、魔法鍵の事も聞いてみる。


「さっきも言ったが、見えないという扉を彼等も見つけられなくてな。仕方無く売ることにしたそうだ」


 う~ん……

 やっぱ、違和感ありあり。

 扉が分からない鍵なんて、売ってもたかが知れている。


 それよりいつか冒険している間に、謎の扉が見付かる機会チャンスが来るかもしれない。

 焦ってそんなはした金を得るより、扉を見つけて開ける事が出来れば!

 莫大な富を手にするのも可能。

 それまで所持していれば良いだけの話。


 しかし物知りなダックヴァルも、俺の疑問には答えてくれなかった。

 ジュリアがまたいくつか質問するが、もう重要な情報はなさそうだ。


 聞く事を全て聞いて満足した俺達は、ダックヴァルに別れを告げる事にする。


「おっちゃん、ありがとう!」

「親爺、世話になったな」


「いろいろ済みません」


 ちなみに最後の言葉は俺……

 俺は基本的に小心者。

 謝らなくても良いのに、ついつい謝罪してから物を言う癖って何とかなりません?

 一旦別れを告げたが、ダックヴァルはいきなり俺だけを呼び戻した。

 そしてジュリア達から見えない物陰に誘い、こっそり囁いたのだ。


「おい、トールと言ったな。俺に会ったのも何かの縁だ。はなむけにこれをやろう」


 ダックヴァルから渡されたのは、今回獲得した銅製の守護の指輪とほぼ同じものであった。


「あの銅の魔法指輪マジックリングを売らないでおけ……ほら……あの可愛いふたりと上手くやれよ……いっそ、両方嫁にしちまえ」


 ああ、ジュリア、イザベラのふたりを嫁にか……

 そうなったら天国だけど、ジュリアが絶対に黙っていないだろう。

 イザベラみたいな悪魔を、人間の嫁にするのってちょっと怖いし。

 

 だけど、ここまで気を遣ってくれるなんて、おっさん……結構良い奴じゃあないか。


「あ、ありがとうございます」


「良いって、良いって。お前達は商人としてこれから遠くへ旅をするんだろう?」


「まあ、ゆくゆくはそうなると思います」


「実はな、このヴァレンタイン王国の王都セントヘレナと冒険者の街バートランドには俺の兄貴達がそれぞれ店を出しているんだ。ぜひ訪ねてやってくれ。末弟のサイラスが宜しく言っていたとな」


 はあ……ダックヴァルって3兄弟!?

 何だか、凄そうだ……


「ありがとう、ダックヴァルさん」


「サイラスって呼べ。暫く経ったらお前達にまたあの部屋を使わせてやろう」


 俺はサイラス・ダックヴァルに改めて別れを告げると、ジュリアとイザベラの下に戻ったのである。


「遅かったね、何か言われたの?」


 ジュリアは勘が良い女の子だ。

 俺がダックヴァルに何か言われたのか、気になるようである。


「後で話すさ……」


 俺はそう答え、ジュリアを安心させる為に「にっこり」と微笑んだのであった。

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