第81話「秘密の扉」
ええっと……
俺はざわついた頭の中を整理する。
まず
そしてこの階のラスボスであるミノタウロスを倒したら、玄室が反響し石壁が光った……
これをどのように組み合わせて、秘密の扉を開けるのかという方法に関してだ。
その時である。
『そこな少年よ! 余計な事を考えず、
誰だ!?
俺を呼ぶのは?
俺の心の中に響いたのは凛とした張りのある若い女の声だ。
うん!
これも、念話だ。
俺は改めて認識した。
しかし念話を使えるイザベラが反応していないところを見るとやはり俺だけに直接聞えているらしい。
で、でもさ。
そんな俺の呟きが伝わったのか、声の主は苛立ちを見せる。
『ええい!
あのさ……
俺、創世神の使徒ではなくて、そのドラ息子の使徒なんだけれどもさ。
まあ……良いか。
俺は謎の声が指示する通りに、鍵を持って光る壁に近付いた。
ハウリングするような不快な共鳴音は相変わらず鳴り響いており、俺が鍵を持って近付くとますます音が大きくなる。
俺は光る壁の前に立ったが、相変わらず共鳴音が鳴り響くだけで何も起こらない。
魔法鍵を差し込む鍵穴も出現しない。
これではクラン
多分、この状態に加えて様々な条件が必要なのであろう。
『準備は良いか? これから
それって魔法の呪文とかの事か!
だけど俺……地味な生活魔法しか使えないぞ。
俺は改めて心に強く念じた。
相手に対して、碌に魔法が使えないって事実を伝える為に……
何せ使徒だ、何だと期待され過ぎたら、その反動って怖ろしそうじゃないか!
いつも目立たず平穏無事に行く――ラノベ作家なんて目立った職業になりたいなんて思っていた反面、それが俺の処世術だったから。
『悪いけど、俺……しょぼい生活魔法しか使えないよ』
『な、何を馬鹿な事を申しておる! 創世神の使徒たる、お前がそんな低レベルな魔法しか使えないわけがない!』
俺の自信無さげな言葉に、動揺する女の声……
やっぱり俺の事を凄く過大に評価しているぞ。
だ・か・ら!
俺はその
『細かい事を愚図愚図言うではない! 早よう、言われた通りにするが良い!』
ええ、分かりましたよ!
でも俺は所詮、凡才!
神様の息子に改造して貰ったチート能力で、
先にそう言っておくから、どうか怒らないでくれよ!
その時、俺の頭の中へ謎の女の声で言霊が響く。
どうやら、この通りに同じ節で詠唱すれば良いらしい。
「悪い、俺ちょっとトライするから」
俺は、「え?」って戸惑うクランメンバーへ目配せをしてから、詠唱を開始した。
「東西南北果てしなく! この大地を
俺は詠唱し終わってある違和感を覚えた。
創世神は良いとして……闘神って?
闘神スパイラルだとぉ!
そんな俺に、またいつもの声で念話が響く。
『ははっ、面白いねぇ! この先で君は新たな出会いをするよ。神にもなれると思い上がって滅びた愚かな魔法帝国の子孫にさ! まあ魔法帝国って驕れるものは久しからずって見本のような連中さ。君も気をつける事だね。僕が改造して与えた力は結構大きいから』
『お、おい! それにしても【闘神】って!?』
驚く俺にスパイラルはさも可笑しそうに言う。
『ははっ、君に言っていなかったっけ。僕は創世神から色々なものを受け継ぎ、任されているんだ。【戦い】もそのひとつさ。だから君はそこそこ強いんだよ。何せ栄えある僕の使徒だからさ……まあ君を見ていると相変わらず退屈しないよ、まったね~』
またもや一方的に電話をきるように邪神スパイラルは会話を打ち切り、声は聞こえなくなる。
はぁ……
俺って振り回されっぱなしの人生だなぁ……
まあ、良いか。
「トール! 見て! これ何? 扉?」
ジュリアの声で我に返る俺。
見ると、目の前に淡く青い光の輪郭に彩られた『扉』が出現していたのである。
「トール! さっき貴方が詠唱した
今度はイザベラが聞いて来た。
魔法使いだけあって、聞いた事のない
俺にも理由が分からないから、頼りない答えしか返せない。
「ああ、いきなり詠唱しろって声が聞こえたのさ」
俺の話を聞いていた、アモンが言う。
「ふむ! これぞまさしく魔法帝国ガルドルドの魔法扉だ。ミノタウロスの命、魔法鍵、そして魔法の言霊。これらを組み合わせて開く、隠された秘密の扉だな」
俺はそれを受けてあの名品・珍品の店ダックヴァル商店のサイラス・ダックヴァルから貰った魔法鍵を扉に近付けた。
すると……何という事でしょう!
丸い穴が出現したではあ~りませんか!
何てね!
多分、これが魔法鍵の鍵穴だろう。
『ここをこの鍵で開ければ良いのだろう?』
俺は先程聞えた声――若い女らしい声に呼びかけた。
しかしあれだけ
まあ良いか!
俺は魔法鍵を鍵穴に入れて軽く回してみる。
すると意外にも「がちゃり」と古めかしい音がして光の扉が消え失せる。
そして……
真っ暗な空洞が出現したのだ。
そっと空洞の中の暗闇を覗き込むと、全くの闇というわけではなく、ほんのり淡く魔導灯が点灯していて更なる地下への階段が続いていた。
「ほう! やはり『地下6階』への入り口だったのだな」
アモンがいかにも面白そうだという感じで呟き、そしてコホンと咳払いをする。
「もしもガルドルドの警備機能が俺の予想するものならば……ここからは俺が盾として先頭に立とう」
それって何だろう?
「あ、待ってよ! あの宝箱……どうするの?」
俺は扉に気を取られていたが、この地下5階には宝箱があった。
何者かがまめに中身を入れているという曰く付きのものだ。
どうやらジュリアは性格上、ずっと気になっていたようだ。
俺はジュリアに声を掛け、宝箱の傍に寄ってみた。
しかし案の定と言うべきか、宝箱には鍵がかかっている。
鍵穴が違うので、これは持っている魔法鍵では開きそうもない。
それに俺の『勘』が告げているが、強力な魔法の気配がある。
どうやら『罠』も仕掛けられているらしい。
下手に手を出すと『やばい』何かがある。
現在、俺達のクランには罠を外したり鍵を開ける、プロの『シーフ』が居ない。
『開錠』の魔法でもあればと思って聞いてみたが、誰も行使出来ないみたいだ。
残念だがここはひとまず諦めるしかない。
俺はゆっくりと首を横に振ると、ジュリアも苦笑して頷いた。
そうしている間も、アモンとイザベラは地下への階段を覗き込んでいる。
「さあ、トール。行くぞ!」
アモンの重々しい声に従い、俺達は階段に足を踏み入れたのであった。
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