第28話「お風呂でデート? いえ残念ながら男女別」
ドーラさんに教えて貰った部屋は、2階の一番奥にある鍵付きのふたり部屋である。
この絆亭はところどころ石を交えた木造3階建ての20室……結構な部屋数だ。
しかし部屋は簡素であり、ふたり用のベッドの他はテーブルがひとつと椅子がふたつ、そして古い戸棚がひとつあるだけの殺風景な物である。
この宿のシステムだが夕食と朝食が付き、1階で食べる事が出来る。
大空亭もそうであったが、トイレは共同であり、風呂は無い。
客は、裏の井戸で行水するのが基本である。
しかし、このジェトレ村には何と!
街中に、共同浴場があるという。
それって現代のスーパー銭湯。
旅行者は、
綺麗好きなジュリアは、ジェトレ村へ来る度に欠かさないようだ。
「とりあえずお風呂に行ってさっぱりしておこうか? ずっと歩いて来て、汗と
俺は前世ではそんなに風呂が好きというわけではないが、ジュリアが居れば別だ。
いわゆる彼女とスーパー銭湯で『うきうきデート』って事になるじゃない。
そんなデートって、俺は生まれてから一回もした事がないもの。
うっは!
超が付く楽しみじゃないか。
何か、大昔の歌みたいだしね。
俺が妄想の中に身を置いていると、しっかり者のジュリアから、宿における注意諸々があった。
「貴重品は必ず自分で持つ事! 万が一盗まれても宿は責任を持たないよ、良いかい? それに部屋を出る時は必ず鍵を閉めて、出掛ける時は必ずドーラさんに戻る時間を告げて行く事、例えば村の中でたちの悪い連中に絡まれたりして、あたし達が宿に定刻まで戻らない場合はドーラさんが衛兵隊に連絡してくれるんだ」
一通りジュリアの話を聞いた後、俺達はすぐ出掛ける事になった。
行き先はジュリアが言った通りに公衆浴場、つまり銭湯である。
「ドーラさん、あたし達お風呂に行って来るよ。今が午後4時だから遅くとも6時には戻るから……夕食もそれくらいでお願いね」
「ああ、気をつけるんだよ」
ジュリアは慣れた様子でドーラさんに声を掛けると、例によって俺の手を引っ張って宿を出たのである。
宿を出た俺達はまだ明るい中央広場を突っ切って歩いて行く。
こんなに早い時間でも
これから酒と腹を満たしに来る人々で中央広場は凄い人波になるそうだ。
「この野郎ぉ! ぶっ殺してやらぁ!」
「そっちこそだ! てめえは、俺の名を知らねぇのか!」
「知らねぇ! そんな糞みたいな名前は!」
いきなり大声が上がり、俺が吃驚して声のした方を向くと、何と喧嘩が始まっていた。
野次馬が輪になっているから、喧嘩の当人達は輪の真ん中にでも居るのだろう。
喧嘩の様子を見たジュリアが苦笑しながら言う。
「ここは冒険者も多いし、彼等は直ぐに自分の腕を自慢したり誇りたがるからね。その上、酒が入っていると益々始末が悪い。気が大きくなって詰まらない事が理由で喧嘩が起こり易いのさ。ただ衛兵が来た時の逃げ足の速さは皆ピカイチだけど、ふふふ」
ジュリアの言う通りだった。
衛兵が姿を見せると、それまで取っ組み合いをしていた者同士がさっと離れて速攻で逃げて行く。
でも、そんなくだらない喧嘩に巻き込まれたくはない。
とっても馬鹿々々しい。
真っ平御免だ。
俺達はそんな喧騒を避けるようにして10分くらい歩き、公衆浴場に着いた。
「良い? さっきも言ったけど貴重品は腕輪の中に入れておいて! 中は残念ながら女湯と男湯に分かれているんだ。ええと、今から1時間後にここで待ち合わせだよ」
ジュリアに念を押された俺は軽く頷くと『男湯』の入り口から中に入ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ではでは、俺の異世界スーパー銭湯リポ~トぉ!
果たして……この世界の公衆浴場は果たしてどうであったか?
そんな思いを胸に入ったこの異世界の『スーパー銭湯』は俺の期待以上の見事な施設であった事を伝えておく。
風呂というのは元々蒸し風呂から来る言葉が語源となっていると記憶している。
この異世界の公衆浴場はサウナに近いその蒸し風呂、そして湯屋と呼ばれる適温の湯を巨大な浴槽に入れた2種類の風呂がしっかりと備えられた豪華なものだ。
こんなのが何軒もあるらしい。
ちなみに広さは、蒸し風呂、湯屋それぞれ50mプールくらい。
えらく、広くね?
洗い場もちゃんと完備。
シャワーがあったら良かったが、そこまで贅沢はいえないもの。
これで入浴料が大銅貨3枚……300アウルム(円?)はとても安い。
タオルと石鹸は毎回ひとつずつ支給されるので身ひとつで行けるのもありがたいし。
ジェトレ村民達に大人気だと言うが、確かに頷ける。
本当はいわゆる家族風呂、つまりジュリアとふたりで入れる貸し切り風呂があったら更にベストだったけど。
まあ、それは先々のお楽しみ。
俺は蒸し風呂でたっぷりと汗を出し、洗い場で身体の汚れをしっかり洗ってから、湯船にゆったりと浸かる。
面倒臭がりの俺は元々風呂に執着など無かったが、これは癖になりそうだ。
良い気持ちの俺は、ふと場内の魔導時計を見た。
時間はこの浴場に入って、もう50分を越えようとしていた。
ヤバい!
つい、のんびり浸かっていたら、あっと言う間に約束の時間だ!
ジュリアを待たせて、怒られるのは嫌だから。
時間にルーズな者は、男女関係なく嫌われるから。
俺は急いで湯船から出ると、ダッシュで脱衣場に向ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます