真☆中二病ハーレムブローカー、俺は異世界を駆け巡る

東導 号

第1話「俺は神様に改造された!」

 俺は今、見知らぬ世界に居る。

 どこかの森の中だ。

 少し離れた木の上には、怯え震える外人少女がしがみついている。


 木の下には数頭の魔物が、獲物である少女を喰おうと待ち構えていた。


 哀れな少女を喰らおうとするのは、体長1mくらいなおぞましい猿のような奴等……

 日本には絶対居ないゴブリンの群れ。

 俺が助けようと大声を出したから、気付かれた。


 奴等が一斉に、こちらへ振り向く。

 俺に、視線が集中する。 


 何だよ、今更ながら思う。

 ゴブリンって、可愛くない。

 よく見ればすっげぇ気持ち悪い。

 黄色い歯をむき出しにしている。

 怒ってるよ。

 食事の邪魔をするなと怒ってる。

 

 こいつら、お前もバリボリ喰ってやると言うのが分かる。

 ああ、女の子を助けようなんて思わなきゃ良かった。


 また、吠えてる。

 サルがキーキーわめくなんて比べ物にならない。

 酔っぱらったおっさんの怒鳴り声なんか全然可愛い。


 ああ、走り出した。

 俺の方へ来る。

 向かって来る。

 このままじゃあ喰われちまう!

 だって、戦い方なんか知らないよ、俺は!


 こいつら、ザコの筈だろう。

 ゲームなら経験値だって碌に貰えないじゃないか。

 1回ボタンをぷちっと押せば消える筈。


 コントローラーで戦闘コマンド入力?

 戦闘用Aボタン、無い!


 リセットボタン?

 いや、コントローラー自体が無い!


 絶体絶命の辛い状況!

 だから、読んでいるラノベ本をパタンと閉じる?

 いや!

 これは架空の話ではなく、現実なんだ。

 頬をつねっても夢じゃない、目が覚めたままなんだ。

 

 どうする!

 いや、どうなる?

 俺は……一体どうなるんだ。


 人間が死ぬ前にはいろいろな思い出がよぎると言う。

 俺は……この世界へ来るまでの事を思い出していた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ……俺は、高校3年生の平凡男子。

 名前はトオル・ユウキ。

 某県某市在住。

 

 高3と言えば……高校生活の中でも、既に終盤へと差し掛かる。

 将来の事を、当然いろいろ考えなくてはならない。

 その上、今はもう夏休み。

 普通、この時期であれば大学に進学するのか、それとも専門学校か、もしくはどこかの会社に就職するのか、具体的に決めていないといけない。

 しかし担任の先生や親から提示された将来へのいろいろな選択肢を見せられても全く実感が湧かなかった。

 

 興味があるのはファンタジー系ライトノベル。

 一般の本など全く読まない俺だが、自分の作品を書こうと思った。

 その為に必要な勉強はした。

 剣と魔法のファンタジー世界関係の本は高校に入ってから始めたアルバイトで溜めた金を結構つぎこんだから。

 

 必死に何度も資料本を読み込んだ。

 それだけで何か自分が物知りになった気がした。

 単に持病の中二病に拍車がかかっただけなのにとんだ錯覚である。

 

 だけど漸く構想がまとまった。

 王道な中世西洋風、剣と魔法の世界が舞台だ。   

 

 よし!

 明日から書き始めよう!

 書いたらすぐにアップしてみよう。

 どれくらい読者の反応があるだろうか?


 俺はワクワクしながら、寝たのである。


 だが……その夜、見たのはいつものような夢ではなかった。

 妙にリアルな夢。

 不思議なのは、夢の中なのに俺はベッドに寝ていた。


 真っ白な空間にベッドに寝た俺が居て、傍らには背の高い老齢の男が立っていたのだ。

 見上げると、会った事もない白人男性。

 正統派二枚目という感じの、苦み走った格好良い男だった。


「トオル殿、おめでとう! 今回、貴方は選ばれました、何故なら異世界で暮らす適性があるからですよ」


 おお、低くて渋い声。

 でも何故、日本語?

 選ばれた? おめでとう?

 その台詞……いかにも怪しい。


 異世界で暮らす適性?

 ラノベが好きだから?


 ねぇ、どうして?

 俺は聞きたい。

 何か言いたい。

 

 でも俺は口が開かない。

 動かない。

 男の話を聞くしかない。

 

「…………」


「初めまして! 私はセバスチャン。ある方にお仕えしております」


 何も言わず黙る俺へ、セバスチャンと名乗った男は言う。


「貴方には仕事を頼みたいのです」


「…………」


「仕事と言うのはこことは違う世界へ行って頂き、実務をこなす事です」


 ここまで聞いて、やっと口が動いた。

 当然、質問しなきゃ。


「こことは違う世界? 異世界って事? 実務って何?」


「はい! 貴方の質問にお答えしましょう」


 コホンと咳払いしたセバスチャンは、具体的な説明をしてくれた。


「私のあるじというのは若い神なのですが、今回創世神からある世界を任されました。しかしその世界では主に対して信仰心が全く足りていません。貴方のお仕事は信仰心を上げて頂く事なのです」


「えええっ?」


 セバスチャンの主が神?

 ある世界へ行く?

 信仰心をあげる?


 それってどうやるの?

 俺が神の教えとやらを説教して回るの?

 まるで、どこかのお坊さんじゃない。

 いや頼んでいる人が西洋人だから、教会の司祭みたいにかな。


 でもよくよく考えたら何だ、これ?

 突拍子もない。

 脈絡もない。

 

 絶対これ……インチキな宗教の勧誘だ。

 間違いないぞ!

 悪夢よ、早く醒めてくれ……

 と、いうか……まずは、ここから逃げなきゃ!


 俺は起き上がり、ダッシュで逃げようとした。

 

 しかし身体は全く動かなかった。

 まるで拘束されているみたいに。


 と、その時。


「うふふ、ダメダメ、トール君。まだ話は終わっていないよ」


 いきなり空間が割れてひとりの少年が現れ、俺を見て皮肉っぽい笑みを浮かべた。

 身長140㎝くらい。

 金髪碧眼。

 端整な顔は女のように美しい。

 まるであの大魔王になった堕天使。

 12枚の羽根が生えていたら完璧だ。


「スパイラル様、ご機嫌麗しゅう!」


 少年が現れると、セバスチャンが跪く。

 この少年がセバスチャンの主?


「そう! 今、セバスチャンが言った通りさ。ああ、まだ名乗ってなかったね、僕はスパイラル」


「スパイラル……」


 俺がそのまま名前を読んだら、セバスチャンから教育的指導を受ける。


「トオル殿、神に対して不謹慎だぞ! ちゃんと、様を付けなさい!」


「は、はい、スパイラル様」


 敬称で呼び直して貰って、スパイラルは満足そうだ。


「うん、宜しい! トオル君、じゃあ単刀直入に言おう。君には僕の使徒をやって貰う」


「使徒?」


「ああ、そう、使徒。良く神の使徒って言うだろう?」


 確かに神の使徒って良く聞く。

 神から派遣される、使わされた者って意味だろう。

 イメージは……天使。

 何か、神々しくて恰好良い。


「言いますね、何か響きがカッコいいです」


「そう! カッコいいだろう! じゃあ決定だね」


 え?

 俺、聞かれたから、つい使徒の感想を言っただけなのに?


「え? 決定?」


「うん! 君は僕の使徒になる事決定!」


「え、えええ~っ!?」


「どうせさ、君はこのままじゃクソつまらない人生だ、悲しい結末が見えてるもの。死ぬまで童貞のままだろうし、僕の使徒になった方がずっと良い、楽しいよぉ」


「…………」


 あの、クソつまらない人生って……

 神さまが、普通クソとか、死ぬまで童貞とかって言う?

 でもスパイラルには俺のジト目攻撃など通じない。

 完全に無効化された。


「はっきり言って君は不細工だし、足も臭い。その上、全体的なスペックも著しく低い。このままじゃあ使徒には出来ない……顔、身体、能力、全てにおいて改造させて貰おうかな?」


 すげ~言われようだ。

 でも、それより俺には気になる言葉がある。


「な? かかか、改造?」


「そうだよ~」


「じゃ、じゃあ! 使徒って、俺が、て、天使って事ですか? 羽根の生えた?」


「な、わけないじゃん。自分の顔をよ~く考えてみてよぉ、天使は皆高貴な雰囲気。君みたいな不細工をどう改造しようとムリ~、絶対にムリ~」


「…………」


「あと、忘れないうちに言っておくね。僕って、今迄戦いの神だったから、人間の改造ってした事がないんだ、楽しみ~、失敗したらごめんね~」


「え? か、改造が初めて? え、ええっ?」


 俺は思わず悲鳴をあげる。


「た、助けてぇ!」


 自分でも情けない悲鳴のあげ方だとは思うけど、仕方がない。

 本当に身の危険を感じているからだ。


「いひひ、大丈夫だよぉ、僕、初めてだけどさ、あまり痛くしないから~」 


 いひひって、何?

 初めてって、嘘だろう?

 目が怖い。

 すっげ~、邪悪な笑みを浮かべてる。

 これがイケメン少年の本性?

 成り行きとはいえ、こんな相手に俺の人生を賭けて果たして良かったのだろうか?


「嫌だ、嫌だ、嫌だぁ! 改造なんて、い・や・だぁ~っ」


 不気味な笑みを浮かべた少年の手が、俺の頬をぴたぴたと撫でる。

 冷たい手だ。

 体温が無いみたい。

 凄い、リアルだ。

 夢とは思えない。


 俺はいつの間にか気を失ってしまった……

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