第90話「墓所の奥で①」

 中身はガルドルド魔法帝国騎士であり、今は滅ぼす者デストロイヤーのゴッドハルト。

 彼を先頭に、俺達は王宮風に建築された巨大な墓所の中を進んで行く。

 ゴッドハルトによれば、この建物の一番奥に旧ガルドルド魔法帝国の王女、彼のいう姫君が眠っているという。


 だが、疑問がある。

 

 眠っているって一体?

 ガルドルド帝国が滅びたのはもう数千年も前……

 その姫君とやらはとうに亡くなっている筈なのだ。

 俺達がこんなに急いで玄室に向かって、何の意味があると言うのだろう?


 しかし、ゴッドハルトは少しの時間も惜しいというように、泡を食って先に進む。

 様子は尋常では無い。

 そんな彼の悲愴な姿に、俺達は口を挟む事は出来なかった。

 

 確かなのはゴッドハルトとの約束を果たせば、伝説の金属であるオリハルコンの錬金方法を教えて貰えるという事実。

 もし教えて貰えば、イザベラから依頼されたオリハルコン獲得のミッションが完了するという結末だ。

 まあ材料の問題だけはあるけれど。


 俺達は、墓所の巨大な門を開いて中に入る。

 

 だが、最初の部屋には特筆すべきものは無かった。

 しかし次の部屋には、敵が待ち受けていた。

 ゴッドハルトを一気に小型化したようなシルバーメタルゴーレムである。

 それも何体もだ。

 

 彼等は同胞?のゴッドハルトに対しても構わず、一斉に攻撃しようとした。

 多分、この墓所に侵入した者は敵味方構わずに、「問答無用で殺せ」と設定されているのであろう。


 しかし先頭に立つゴッドハルトが発揮する盾役タンクの力はもの凄い。

 ウチのアモンも顔負けである。


 相手が攻撃の素振りを見せると即座に両手を交差させて防御の姿勢を取った。

 小型シルバーメタルゴーレムはすかさず擬似魔法を放つが、ゴッドハルトの防御機能で呆気なく弾いてしまう。

 

 更に凄いのはゴッドハルトのパワー。

 同じ素材で造られた頑丈そうな敵を、たった一撃!

 豆腐のように軽々と粉砕したのだ。

 さすがは旧ガルドルド魔法帝国の『最終兵器』である。

 

 様子を見ていたジュリアが呆れて、「ほう」と溜息を吐いた。


「はぁ……あのさ、トール……良く、こんなのに勝ったねぇ……」


「本当にそうだよねぇ……」


 相槌を打つイザベラも含めて……こいつらめ!

 こんなのに良く勝ったって、良く言うよ。

 散々煽っただろうが、「戦え」って。

 まあ、良い。

 ここは寛容力の塊になろう、そうしよう。

 

 それから1時間も歩いただろうか?

 

 主にゴッドハルトが襲い掛かる敵をお掃除してくれたから、俺達にはまだまだ余力がある。

 1時間歩くといえば、少なくとも約3キロ以上は歩いている事になる。

 この墓所がとてつもなく広いのが分かるというものだ。

 

 ジュリアが疲れたと言うので、俺がまたおんぶしてやる。

 イザベラも、同じ事をねだったのはお約束。


 そしてまた歩く事、30分――


 俺達はようやくこの墓所の最後の部屋、つまり王女の玄室の前に辿り着いた。

 その部屋の入り口は思ったよりずっと小さく、天地左右で2m四方ほどしかない。

 はっきり言って約5m近い体躯を誇るゴッドハルトの入室はとても無理である。

 

 ゴッドハルトも当然それは分かっているらしい。

 俺に指示を入れて来た。


「ココカラハ、トール、オ前達ダケデ進ンデクレ。俺ノ身体デハ部屋ニ入レズ、姫様ノゴ様子ヲ確カメルノハ無理ダ……鍵ハ今アケル」


 でも……

 俺達だけで大丈夫かな?

 

「了解……でも罠とかないのか」


「ナイ、大丈夫ダ」


 そうか、なら行くしかない。

 ここはゴッドハルトを信じよう。

 と、俺が決心したら、『教育的指導?』が入る。 


「ソコノ悪魔達ハ控エテクレ。姫様ニハ敵デアルオ前達ハ刺激ガ強過ギル」

 

 え?

 イザベラ達はNGなの?

 まあ話の筋は通ってそうだけど。


 ゴッドハルトに言われた悪魔ふたりの反応は対照的だ。


「う~、ドケチ!」


 と、イザベラは苦々しげに舌打ち。

 まあ、気持ちは分かります。

 ここから先がメインイベントなんだもの。

 ……イザベラは俺と同じ、中二病っぽいから。


 そして……


「まあ仕方がないだろう、俺達は彼等から見れば不倶戴天の敵だったからな」


 アモンは納得したように頷いた。


「じゃあ、俺とジュリアで行こう。ゴッドハルトを信じてはいるが、ふたりとも何かあったらすぐ来てくれ」


「了解! 何かあったら呼んでね」


「了解だ」


 俺が直ぐフォローをしたので、イザベラは即座に機嫌を直す。

 やっぱり美少女は笑顔が一番。

 ちなみに、いつも通り寡黙なアモンの表情は変わらない。


 ゴッドハルトが手を伸ばして、これまた鋼鉄製の扉を開く。

 不思議なのは鋼鉄なんてあっという間に錆びるのに、ここでは全然錆びていない。

 やはりゴーレムの鋼の加工同様、魔法帝国の技術の賜物だろうか?


 俺は用心して、ジュリアを後ろにかばいながら、開いた入り口から恐る恐る中へ入って行ったのである。

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