第113話「お互いの決意」
錬金術師と鍛冶職人からなる悪魔王国ディアボルスの特別チーム——彼等にとっては本当に待ち望んでいたものが到着した。
俺の持ち込んだ『賢者の石』と『オリハルコン錬金のレシピ』を見て、色めき立ったのだ。
彼等はここまで苦渋の思いだったに違いない。
何せ第一王女の結婚を無事執り行うという国の威信がかかっている。
その上、国王はあの怖そうなアルフレードルなのだから。
もし、この特別任務をやり遂げられなければ、待っているのは悪魔にとっての死である魂の消滅……
もしくは軽くても永久的な魂の幽閉であろう。
怖すぎる!
悪魔族の錬金術師達はレシピを基にして昼夜貫徹で作業を行い、まずオリハルコンを鋳造した。
錬金術師が作ったオリハルコンを渡された鍛冶職人達が、ティアラと短剣を超特急で作り上げたのである。
輿入れ用のティアラと短剣が完成したと聞いた時の、イザベラの喜びようは尋常のものではなかった。
オリハルコン製のティアラと短剣の手配が、『家出』の口実とか、アモンには散々言われたのだが、優しい気持ちは本当だった。
イザベラは、やはり姉思いの可愛い妹なのである。
準備が整えば、待たされた分ほど事を行うのは早い方が良い。
そんな話になるのは、どの世界でも同じだ。
こうしてイザベラの姉のレイラは、隣国の悪魔王ザインの息子エフィム王子と豪華な結婚式を挙げた。
俺が、悪魔王アルフレードルに謁見してからたった5日後の事である。
アルフレードルに命じられた通り、俺は結婚式に出席した。
イザベラの夫として、親族のひとりとして出席したのだ。
人間の結婚式にも出た事のない俺が、いきなり悪魔王家の結婚式に出るとは思いもよらなかったが……
悪魔の結婚式も、人間同様にしきたりなど凄く多いようであった。
下手に動いたり、発言するとすぐボロが出る。
そう言われたので、俺は結婚式の最中は『地蔵状態』でずっと黙っていた。
そして式は……漸く終わった。
当然、時間はたっぷりかかった!
何と6時間コースだった……
さすがに疲れた……
これはスパイラルから与えられた頑健な身体でも、違う意味で
王宮内であてがわれた部屋に戻った俺は、大きく息を吐く。
「ふう!」
「お疲れ様、ありがとう!」
イザベラが俺を
彼女は実に優しい女だ。
アモンの助言もあり、ここ悪魔王国ディアボルスにおいて表向きはイザベラが正妻と言う事になっている。
アルフレードルは多分真実を知っているだろうが、何も言わなかった。
便宜上ジュリアは側室、
ジュリアはにっこりと笑って大人の対応を見せたが、ソフィアは俯いてしまう。
かつてガルドルド魔法帝国の王女だった誇り高い彼女にとって、侍女になれとは大変な屈辱であろう。
しかし、一瞬の沈黙の後、結局は口答えせずにその立場を受け入れたのである。
そのジュリアとソフィアはあてがわれた王宮の続き部屋に居る筈だが、その姿は見当たらなかった。
ふたりは一体どこへ行ったのだろう?
そういえば、このディアボルスで別れる事になったアモンの姿も見当たらない。
アモン……か
俺は一人っ子で兄弟は居ない。
そんな俺が今迄、凄く頼りにしたのがアモンであった。
婚約者であるイザベラを略奪するという最悪の出会いではあったけれど、俺は彼を師匠として、兄貴として、時には親友として接して来たのだ。
アモンは侯爵で、本来なら結婚式に出席する権利と義務があるらしい。
だが、今回は婚約者剥奪というペナルティで末席にさえ招待されなかった。
ちなみにジュリアとソフィアは他種族で身分が低いという理由から、真っ先に招待客リストから外されている。
それにしてもあいつら、どこへ行ったんだ?
勝手が分からない悪魔王国の王宮内なのに……
と、その時。
ジュリア、ソフィアを連れたアモンが部屋へ戻って来たのである。
「あふう、疲れたよぉ!」
「ジュリアよ! お前はさすがに竜神族だ、筋が良い」
「お、おい! アモンよ! わ、
3人は良い汗を流しましたという雰囲気。
何か運動をした直後のようだ。
ちなみにソフィアは
「ああ、トール、イザベラ! お帰りぃ~! ね、聞いて、聞いて!」
ジュリアによれば……
俺がイザベラの姉レイラの結婚式から戻って来る間に、ソフィアと一緒にアモンから戦いの基礎を教えて貰っていたという。
俺とイザベラが結婚式に出ているこの6時間――どう過ごすのか?
「ふたりとも貴重な時間を無為に過ごす事はない、俺でよければ喜んで協力しよう」
アモンは最初ふたりへ、こう呼びかけたらしい。
堅苦しい言い方だが、ジュリアは彼の『誠意』を感じたのだ。
言ってはいなかったが、俺達には普段、王家親衛隊の監視がついている。
嫌味なベリアルによれば『護衛』らしいが……監視役なのはみえみえだ。
なので例によって王家親衛隊の監視の下で、訓練場でもある闘技場に向ったそうである。
ジュリアはアモンの見立てにより、竜神族として目覚めた秀逸の索敵能力と俊敏さを活かしてシーフとしての訓練を受けた。
シーフの適性は当然の事ながら、優れた
「アモンからさ……俺はもう指導は出来ないけど、次回はトールと連携攻撃の訓練をするようにって……ふう」
ジュリアは、寂しそうに溜息を吐いた。
彼女もアモンに対して父や兄の様なイメージを持っていたのだろう。
そんなジュリアを見てソフィアも慌てて言う。
「わ、
片やソフィアは
元々、ガルドルド帝国皇帝の妹にして
イザベラと並んで、超一流の魔法使いなのは疑う余地もない。
「魔法発動の際の、魔力の省力化について良いアドバイスをして貰った……妾は、もっと優れた魔法使いになりたいのじゃ」
トール!
もっと、お前の役に立ちたい!
え!?
何ですと?
何か、聞こえた?
それは確かにソフィアの
目の前に居るソフィアはじっと俺を見つめている。
彼女から出る波動――
「おう! 俺もお前の役にもっともっと立ちたいよ!」
「な!? ななな、何を申しておる!」
俺がいきなり前振りもなく、返事をしたのでソフィアは吃驚した。
多分、これは本心を指摘された動揺という奴であろう。
素直な気持ちを吐露するソフィアが、俺には急に愛しく思えて来る。
だから今迄きつ~く言った分、優しくしてやりたいと思ったのだ。
「お前の役に立ちたいと言ったのさ。少しでも早くガルドルドの魔法工学の知識を持った人間を探し出して、お前を本当の身体に戻してやりたいんだ――お前の事は絶対に見捨てないからな」
「…………」
カタカタカタ……
何の音だろう……
俺が微かな音を聞きつけて周囲を見るとそれは俯いたソフィアが身体を震わせる音……
「あ、ありがとう……」
暫くして顔をあげたソフィアは真っ直ぐに俺を見つめ、
その瞳である蒼い美しい宝石には、俺の姿がしっかりと映っていたのであった。
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