第125話「商人志願」

 商品を全て取り扱う事が出来る! 

 ブネが豪語していた事を俺達が伝えると、ラウムはせせら笑った。


「何でも? 相変わらず節操の無い野郎だぜ! 余り奴を信用しない方が良いですよ」


 吐き捨てるように言うラウムだが、信用に値するかどうかではブネとどっこいどっこいだろう。

 はっきり言って怪し過ぎる。

 俺達からすれば、ブネとラウムを競わせて、上手くやるのは勿論だが、双方の得意分野を把握しておきたい。


「そこまで言うのなら、お前の得意分野を教えてくれよ」


「俺の得意分野ですか? 元々宝石商なので宝石、貴金属の類の扱いにかけてはブネなんかに絶対負けませんよ」


 宝石には基本的価値と共に時価があるとラウムは強調する。

 その機会を逃さず、大勝負に出るのが商人の度胸だと言うのだ。


 大勝負ねぇ……

 やはりラウムは成り上がりだけあって投機的な性格である。

 ブネの安全過ぎる経営方針とは真逆だ。

 しかし、そうやって今迄のしあがって来たのであろう。


 それにしても宝石か……

 財宝にしてもそうだが、悪魔の世界にも蒐集家というのが居るのだろうか?

 もし居れば、趣味の世界から近付いて親しくなれるかもしれない。

 悪魔から見れば不倶戴天の敵である邪神様=スパイラルの使徒でもだ。


「宝石や装飾品の他に得意分野は?」


「金属や錬金術の素材。もしくは嗜好品ですね……それも絹織物などの高級品かな」


 高級品の織物……か。

 となるとこいつ、さっきブネが言っていた稀少品である混沌布は扱えないのかな?


「突然だが、ラウム。お前、もしかして混沌布は扱えるのか?」


「混沌布ですか? ふふふ、ぼちぼち……ですかね」


 ラウムのこの言い方はだいぶ『含み』がありそうだ。

 当然取引しているという言い方なのだろうが……

 『禁断の裏ルート』かもしれない。


「ラウム、ぼちぼちというのは……どういう事だ?」


「ははは……トールさん、ぼちぼちはね、ぼちぼちですよ……」


 分かった! 王国の高官である悪魔バルバトスが居る前じゃあ、言えない『裏ルート』って事ね。


 俺は納得すると、小さく頷いたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 これで悪魔王アルフレードルに紹介された悪魔商会ふたつとは無事?『提携』出来た。

 

 ちなみに悪魔は契約には拘る。

 裏をかかれても困る。

 なので、双方ともきっちり契約書で提携を取り交わしてある。

 こっちの屋号は『バトルブローカー』で良いんだよな。

 

 交渉話が終わってラウムに見送られて、俺達は表へ出る。

 だが、簡単な別れの挨拶をしたら、ラウムはさっさと商会内へ引っ込んでしまった。


 まだ俺達にわだかまりがあるようだが、彼との絆を強くする為には実際に商売で実績を作るしかない。


 それを見越したのか、すかさずバルバトスが話し掛けて来る。


「トール様、とりあえず王宮に戻りましょう。その後、失われた地……ペルデレへ向かわれるのですよね?」


「ああ、そうだ」


 俺が返事をしたその瞬間であった。


「あんた達、ちょっと待ったぁ!」


 俺と正対したバルバトスの背後から美しい少年のような、いわゆるボーイソプラノのような声が聞こえてきた。

 すかさず俺達を守ろうと構えるバルバトス。

 しかし俺の動きはそれ以上に速かった。

 魔剣を構えて相手と『家族』の前に立ちはだかったのである。


「おいおい! お、俺はよぉ!?」


 蓮っ葉な言葉とミスマッチな美しいボーイソプラノ。

 その主は声同様、美しい顔立ちをした少年のような悪魔であった。


 ジュリアとソフィアが「へぇ」というような顔で反応している。

 ふ~ん、ふたりとも『面食い』なんだねぇ。


「言っておくが、あんた達に敵意はねぇよ! それどころかお願いがあるんだよぉ!」


 叫ぶ少年悪魔の魔力波オーラを見ると、確かに殺意どころか、悪意も感じられなかった。


「俺達はクランバトルブローカーだが……そうと知っての事か?」


「ああ、お、俺はヴォラク! あんた達の事情を、とある情報屋から金貨100枚で買って知ったんでぇ!」


「何!? 金貨100枚で情報を買っただと!?」


 ヴォラクの言葉に反応して、怒りの魔力波オーラを発し剣を抜いたのはバルバトスである。

 彼は鋭く光る剣の切っ先をヴォラクに突きつけると、低い声で問い質した。


「貴様、この方達の事は極秘情報なのだぞ。売ったのはどこの情報屋だ? 吐け!」


「ひ、ひいいいいい!」


 確かにクランバトルブローカーは極秘扱いだろう。

 しかし、この街に入る際にあれだけ派手に暴れたから……

 少なくとも俺の事は知れ渡っていると思う。

 

 俺は剣を納めると、怒髪天を衝くバルバトスを制してヴォラクの方に向き直った。


「ヴォラクと、言ったな……」


「あ、ああ……そうでぇ」


 悪魔ヴォラク――俺の記憶にはこいつの名もある。

 双頭の竜に跨った、天使の翼をもつ少年の姿をした悪魔。

 召喚者に財宝のありかを教える能力を持っている筈だ。

 その彼が一体、何の用だ?


「俺の……話を聞いてくれるのかい?」 


「ああ……」


 俺がOKしてやると、ヴォラクは小躍りして喜んだ。


「ありがてぇ! 俺はぁヴォラク! このソドムの街でよぉ『何でも屋』みてぇな仕事をしていたのさ」


「『何でも屋』……」


「ああ、そうよぉ! その仕事で必死になってなぁ、何とか金貨300枚を溜めたんだ。金貨100枚を情報屋に、100枚で商人の鑑札を購入して残っているのは100枚のみでぇ!」


 こいつ、何を言っているんだ?

 まさか?


 俺の予想通りであった。

 ヴォラクはいきなり俺達の前で土下座したのである。


「ずっと『何でも屋』をやっても上がり目はねぇ! 俺はよぉ、ちゃんとした商人になりてぇんだ! 頼む、俺を雇ってくれぇ!」


 俺は改めて土下座するヴォラクを見た。

 彼から発する魔力波オーラは王国の事情なんか一切考えていない自分のみの事だけだ。

 しかし真っすぐで純粋な魔力波は、かえって信じられると俺は思った。

 商人には必須である、上昇志向そのものだからだ。


「俺はよぉ! このソドムの街の事情も滅法詳しいし、凄く使えるぜい! 遠慮なくどんどんこき使ってくれ! 残りの財産である金貨100枚はあんた達に差し上げらぁ、まあ当座の生活費と保証金みたいなもんでぇ! これで俺は背水の陣、裸一貫で絶対にのしあがって見せるぜぇ!」


 力説するヴォラクを見て、ジュリアも彼を気に入ったようである。

 勿論、変な意味では無い。

 商人としての『根性』にまあまあ見込みがあると言う事だ。


 俺とジュリアは、お互い顔を見合わせて大きく頷いたのであった。

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