第43話「無かった事に……」
『きゃはははは! もっとやれやれ! 修羅場だぁ~』
性悪な邪神様のあざ笑う声。
これって、もしや!
確信した。
邪神様が、絶対に何か細工したのだ。
悪魔王女とはいえ、イザベラは超絶美少女。
男として、気にならないわけがない。
ジュリアという、ちゃんとした彼女が居る。
それも今、目の前に居る。
不埒な行動はダメ。
そんな常識ある理性を、思いっ切りぶっ壊した上で、俺に潜んでいた男の欲望を暴走させた。
イザベラへ、熱いキスをさせた。
内緒だけど、衝動に駆られてつい舌まで入れちゃった。
俺は神の使徒。
いや寧ろ下僕。
ならば、抗えない、すなわち不可抗力。
絶対に、逆らえない。
だから、もう開き直るしかない。
糞っ!
こうなったら
ふたりとも、ばっち、来~い!
俺は思い切りジュリアを抱き寄せると、彼女の唇にも情感を込めてキスしていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それで何だったっけ?」
目の前には……店主の髭親爺が『復活』して座っていた。
まるで、何事も無かったかのように聞いてくるのを見て、俺はホッとして大きく息を吐く。
「はぁ~…… 宝石の鑑定金額の相談ですよ」
あれから……
この場を収集するのは大変だった。
幸い、フランクとかいう店員が部屋に来なかったから、『事件』は露見しないで済んでいる。
30分前に店主が倒れた直後に、時間は
焦った俺がイザベラに問い質したところ、彼女が発動したのは『魂送りの魔法』と呼ばれる怖ろしい闇魔法だという。
人間の魂を喰らう、悪魔特有の凶悪な魔法らしい。
俺にキスされて、脱力……いや、クールダウンしたイザベラがすぐに魔法を中断した。
その為、店主は命を落とさずに済んだのだ。
先日タトラ村のモーリスから購入し、所持していた治癒草があったのも幸い。 口に含ませ、俺の魔法で出した水で無理矢理飲ませた。
眠っている店主は
一歩間違えば、罪もない店主を殺してしまったかもしれないと思うと俺はゾッとした。
俺達は店主が寝ている間に、買取と販売の兼ね合いを改めて確認する。
こちらも、何とかクールダウンしたジュリアから、説明をして貰ったのだ。
「だからぁ……店主の言う通り、利益と人件費を考えたら決してアコギじゃないよ」
ジュリアは店主を擁護した。
200万アウルムの差額は、やはりちゃんとした理由がありそうだ。
「
俺が素早く計算して呟いた言葉に、ジュリアは大きく頷いた。
「他のあこぎな店だと、売りたがっているあたし達の足元を見て、半額の500万アウルムで買い叩かれるなんて話も良くあるよ」
「え? 半額で?」
「うん! それに
それじゃあ、もしかして……
「店主のダックヴァルさん……優良品だって見込んでくれたんで好条件を出してくれたんだよ。まあ彼の口の悪さが1番いけないんだけどね……だけどさ、いくらなんでも殺す事はないよ」
だが……
ジュリアの注意を聞いてもイザベラは少し不満そうだ。
そりゃ、彼女は悪魔の王族だ。
誇り高いイザベラが、あんな風に罵倒されては耐えられないだろう。
「だってさ! そんな理由なんて知らなかったんだし、馬鹿って2回も言われちゃ……私だって悪魔王アルフレードルの娘としてプライドがあるんだよ」
まずい!
このままでは、平行線。
ここは……俺が仲裁しようかな……
「ジュリアとイザベラ……この場合はどちらも正しいし……ここは痛み分けにしよう」
「痛み分け?」
「痛み分けって何?」
ふたりが俺の仲裁案を聞きたがったが、何という事はない。
アイディアは単純=シンプルイズベストである。
「惚けて……誤魔化そう……無かった事にするんだ」
―――こうして俺達は現在に到っているのだ。
「そうそう、そこの不細工な坊主のいう通りだ。お蔭で思い出したぞ。なあ、この
はぁ?
不細工な坊主って何?
「くくく……」
何だよ?
イザベラが笑ってる。
他人事だと思って……
「おい、誰が提示金額のOK出すんだ? その銀髪姉ちゃんじゃなくて、不細工坊主か?」
おいおい、また言ったよ。
汚い髭を生やした、あんたにだけは言われたくねぇ。
相変わらずこの毒舌だから、プライドの高いイザベラが怒ったのに同情も出来る。
ジュリアの言う通り、殺すのはやり過ぎだけど……
微妙な雰囲気の中で、ダックヴァルは何事もなかったかのように値段を提示する。
これで俺達は、巻き戻された時間の中でもう1度考えるって事だ。
そういえば自己紹介をしていなかったので、ダックヴァルと顔馴染みのジュリア以外は名前と冒険者レベルを名乗る。
しかし……
ここでまた、新たな展開が生まれたのだから……運命とは分からない。
「いや~、改めて見たらこの宝石は良いな。どうしても欲しい。もし売ってくれたらこれをつけるぜ!」
店主のダックヴァルは立ち上がると、突然席を外した。
暫し経つと戻って来て、何かをテーブルの上に置いたのである。
テーブルに置かれた物……
それは奇妙な形をした、古い金属製の鍵であったのだ。
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