第127話「悪魔王国からの旅立ち」

 俺達クランバトルブローカーが向かう次の目的地……

 旧ガルドルド魔法帝国の秘密が眠る失われた地、『ペルデレ』である。

 

 行方不明者続出と聞いた『ペルデレ』は、コーンウォール迷宮攻略以上の困難が予想される。

 その為にはまず本拠地となる街を決めて、情報収集を兼ねて支度を整えようという話になった。

 コーンウォールと違って、打ち捨てられた遺跡であるペルデレ。

 冒険者が身支度を整えるキャンプは存在しないらしい。

 

 ちなみに『本拠地』を設けるのは、後々の為もある。

 悪魔王国の商業ルート構築という必要性からだ。


 地図を見ると、ペルデレから真南へ10kmほど下った所にその街はあった。

 人間ではなくアールヴと呼ばれるエルフが造った街である。

 北の大国ロドニアとアールヴの国の境にあるこの街は、人口が約2万人でこの世界では有数の規模を誇る。

 

 街の名はベルカナ……

 

 ちなみにこれはアールヴ達が呼ぶ呼称で、人間族であるロドニア人はベートゥラと呼ぶらしい。

 名前はどちらも白樺という意味だそうだ。


 周囲を白樺の広大な森に囲まれているせいで、このような名前がついたのであるが、国境にあるせいで双方の国の監視と平和維持、そして最大の目的である交易の為に作られたと街との事だ。


「この街なら、王宮から転移門ですぐ近くへ移動出来ます」


 バルバトスが胸を張るが、破壊されていない割には余り使われていないらしい。

 ちなみにこの街の主権は『白のアールヴ』が持っているという。

 

 白のアールヴとは、世間一般に知られているエルフの事。

 スリムで美男美女揃い、自然を愛してストイックな生き方を貫き、とても長命な種族である。

 彼等はリョースアールヴと呼ばれる、いにしえの神の元眷属なので死霊術や黒魔法をとても嫌う。

 そのような街なので、悪魔族とは取引出来る闇の商人が殆ど居ないのだ。


 ちなみに黒のアールヴと呼ばれるデックアールヴはその対極に位置する種族である。

 ストイックに生きるリョースアールヴに比べて魔法にも生活的にも大らかで奔放なのだという。

 体型もスリムなリョースアールヴ達に比べると若干肉付きは良いと言われていた。


 現実的に、この街で取引窓口を置くのなら……

 融通が利きそうな、デックアールヴの誰かを探すのが良いだろう。

 だが街の状況を見てからでも決して遅くは無い。

 または普通の人間をダミーとして、別の街を経由して交易しても良いのだから。


 俺とイザベラが謁見している間に、当面する旅の準備は全部整っていた。

 バルバトスとヴォラクが付き添ってくれた事もあって、ジュリアが中心になり必要なものを買い揃えてくれたのだ。

 このところ、アルフレードルの命令で親衛隊の監視も無くなったから、全く支障はなかった。


 もうすぐに、出発が可能である。


「じゃあ早速出発しようか」


「「「「おう!」」」」


 俺の出発の打診に対して、各自が迷い無くOKの返事をくれた。


「では……こちらです」


 バルバトスが、王宮にある転移の間へ案内する。

 聞けば、悪魔王国ディアボルスで転移門の使用は基本王族に限られていた。

 それも事前に使用目的を明確にした厳しい届け出が必要だという。


 という事は勝手にこの転移門を使ったイザベラは……凄いな。


 俺がそんな目でイザベラを見ると彼女は悪戯っぽく笑って「ぺろり」と舌を出した。

 そんな俺達を見ながらバルバトスがきっぱりと言い放つ。


「この転移門の間の入室は、王の許可制となっていますから、さすがのベリアル殿でも勝手には入れません」


 おお、さすがだな。

 奴の腹黒さを、ちゃんと見抜いているよ。

 確かに、あんな奴が地上へ来たら何をするか分からないからな。


 バルバトスが手をかざすとドアが左右にゆっくりと開いて行く。

 俺の前世で言えば、認証式の鍵になっているのであろう。

 一歩入った転移の間は、広さが30畳くらいある広い部屋だ。


 部屋の中は真っ暗。

 しかしバルバトスが指を鳴らすと、彼の魔力が反応したらしく備え付けの魔導ランプらしき明かりが「ぽうっ」と点灯した。


 床には複雑な図柄といくつもの難しそうな文字が描かれている、大きな魔法陣がひとつある。

 仕組みは全く分からないが、この魔法陣に魔力を通して転移門を使うのであろう。


 でもさ……この前って魔界へ帰る時、ここ使わないで来たよね。

 あんなに苦労して時間をかけて帰って来たのにさ。


 俺の不満そうな顔を見たのであろう。

 イザベラがにっこり笑って言う。


「うふふ、あの時は私が『家出』していたからね。出る時は良くても帰りは父上がロックして使えなかったんだよ」


 笑顔のイザベラが、魔法陣に俺達をいざなった。

 

 バルバトスは魔法陣の外で俺達を見守っている。

 俺達に同行したい気持ちがありありと出ていたが、ベリアルの監視や提携した商会との交渉の再調整などの仕事の為、彼は王国に残るのだ。


「ではお気を付けていってらっしゃいませ! おいっ、ヴォラク! 良いか、トール様達に一生懸命仕えるのだぞ!」


「分かってるって! こちとら約束したら命懸けても頑張るつもりだからよ。ぜって~、役に立ってみせるぜぇ!」


 何となく、皆でバルバトスに手を振った。

 当然ながらバルバトスも名残惜しそうに大きく手を振り返す。

 そして、俺に向かって叫ぶ。


「トール様! いつか私とアモンも入れてこのメンバーで世界を旅しましょう。絶対に約束ですよ!」


「ああ、分かった! 約束だ!」


 あいつ、バルバトス。

 凄く嬉しい事を言ってくれる!

 前世では本音で話し合える親友なんて……俺、全然居なかったから。

 え? ……でも、どうして? 

 いきなり、涙が出て来たぜ!


「あれ? トール泣いてるの?」


 俺の顔を見て不思議そうに聞くジュリア。


「いいや、目に心の汗をかいたのさ」


 俺は言い尽くされた台詞を言って、別れの涙を見せないように真上を向いたのであった。

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