第151話「アマンダの両親」

 とりあえず全属性魔法使用者オールラウンダーの事は分かった。

 生活魔法のみ使用可能という、凄くしょぼいレベルだけど、俺も全属性魔法使用者オールラウンダーに該当する事も、含めて。


 話し終わってから、ミスリルの剣を愛おしそうに撫でているアマンダ。

 彼女の愛用の品らしい

 剣を撫でるアマンダは、何か思い出に浸っているようだ。

 綺麗な灰色の瞳がどこか遠くを見ていたからね。


 暫し経って俺が話を続けて欲しいと頼むと……

 アマンダは相変わらず、花が咲くような笑顔で頷いた。


「私は魔法剣士なのです。この剣に様々な属性魔法を付呪エンチャントして、戦います」


 おお、付呪魔法エンチャントか!

 万能の魔法剣士っていう奴。

 いかにもファンタジーぽくって、凄く良い響きだ。


「魔法は他に回復系が得意です。旦那様や皆様が傷ついたらしっかり癒して差し上げますよ」


 へぇ!

 回復魔法も使えるのか!

 アマンダは本当に逸材だよ。

 クランを離脱する事になったアモンと比べて、タイプや役割は全く違うけど完全に戦力の穴埋めをしてくれそうだ。


 俺は満足して何気に他の嫁ズを見渡した。

 すると彼女達の反応は様々。

 竜神族として覚醒したジュリアは、シーフ兼攻撃役として自分の立ち位置を認識していて余裕である。

 イザベラも魔法の使い手として攻撃役兼強化役で不動。


 問題はソフィアである。

 

 彼女の立ち位置は強化役兼回復役。

 加えて最近は回復魔法を売りにして、俺には『癒し系』をアピールして来たからアマンダの加入は完全にキャラ被りだ。

 まあソフィアは完全にツンデレタイプ。

 なので、俺的にはアマンダとは競合しないのではあるが……


 しかしアマンダを意識してか、ソフィアの気合の入り方はもの凄い。

 落ち込むより、前向きに頑張ってくれる分には構わないし、俺にとっては余計に可愛く思える。


 その後……

 

 このベルカナの事情に詳しいアマンダに聞くと、ジェトレと同じく共同浴場があるという。

 で、あれば今夜はアマンダと初めての夜だし、身体を清めておきたい。

 そこで俺は全員を誘って、共同浴場へ出掛けたのだ。


 え?

 超が付くエッチな奴だって?

 いやいや、当然でしょう! 

 これは男の最低限のたしなみですって。

 清潔な男は基本的にどこでもどんな女の子にも好かれるのだと資料本で読んだ俺。

 やはり汚らしい不潔な男よりはこざっぱりした清潔なさわやか男がベスト!

 これは絶対に常識ですよ。

 逆を考えたら……

 分かり易いでしょう?


 入浴後の待ち合わせは、前回のジュリアナンパ事件の失敗をしないように心がける。

 俺は入浴時間を10分延長した上で、帰りの約束の10分前に入り口で待機したのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 白鳥亭へ戻った俺達は夕飯を摂ると、明日に備えてそれぞれの部屋に引っ込んだ。

 今夜の部屋割りは俺とアマンダ、他の嫁ズ、そしてヴォラクの都合3部屋である。

 ジュリア達が気を利かせてくれたので、今夜だけ別部屋。

 今後は夫婦全員同じ部屋で寝る。


 と、いう事でアマンダとふたりっきりは今夜だけである。


「アマンダ……お前をずっと大事にするよ」


「嬉しい! 旦那様」


 俺が囁くとアマンダはしがみついて来た。

 この子……やはり滑々すべすべの肌だ!

 ……ああ、堪らない。

 可愛いな、アマンダ。

 すげぇ、そそられる。

 

 今までに居ないタイプの嫁だったので余計に新鮮だ。

 そっと触ると……

 む、胸も!

 俺の期待通りの形と大きさだし……感動だ!


 ……まもなくふたりは自然に抱き合い、『夫婦』となったのである。

 しかし、ここで意外な事実が発覚した。


「アマンダ、お前! ……は、初めて……だったのか?」


「当たり前です! 私、そんなに軽い女じゃあありません!」


「怒らないでくれよ、俺は嬉しいのさ! だってアマンダは凄く、もてそうだったから、さ」


 そう言うと、アマンダはにっこり笑った。

 俺を真っ直ぐに見つめて来る。


「私は……貴方だけです。これって運命の出会いなのですから」


 うわぉ!

 こんな所も最高に可愛いや!

 俺のアマンダ!


 優しくキスをすると、機嫌を直したアマンダは寝物語に両親の事を話してくれた。


「昔、父のマティアスは冒険者でした。エイルトヴァーラの一族はソウェルを多く輩出していましたが、父は候補に上がりながらもソウェルの地位に全く執着が無く、世界各地を放浪していたのです」


 ふうん……アマンダのお父さんが元冒険者ねぇ。

 だったら、このアマンダに、フレデリカ、そして行方不明のアウグストも……

 全員が冒険者に近い事をしているから血筋なんだろうなぁ。


「父があるクランと組み、失われた財宝を求めて、とある迷宮に潜った時です。凶悪で強い魔物、そして恐るべき罠の数々、クランは壊滅状態に陥り、深い迷宮の奥で父はたったひとりになってしまったのです」


 アマンダパパの危機ピンチって奴か?

 それで、それで?


 俺が続きを催促したので、アマンダは嬉しそうに話す。


「そんな時、迷宮で父はひとりのデックアールヴ女性に会いました。彼女も所属していたクランが全滅し、途方に暮れている所を父と出会ったのです」


「それがアマンダの?」


「はいっ! 私の母です」


 やっぱりね!

 俺が相槌を打つと、アマンダの口がますます滑らかになった。


「父と母は力を合わせて迷宮を生き抜き、遂に脱出しました。生命を懸けて苦楽を共にした男女が恋に落ちるのは当然の事でした」


 ここまで話すと、アマンダの顔に少し暗い影が差す。


「父には幼い頃から決められた許婚いいなずけが居ました。だけど本当に愛しているのは私の母だとその話を断り、何とデックアールヴである母と結婚しようとしたのです」


 リョースアールヴとデックアールヴの結婚!?

 そりゃ、大反対されるに違いない?

 ましてや、エイルトヴァーラ家は身分の高い家柄らしいから、尚更だろう。


「案の定、父の願いは家中全員が猛反対の上、却下されました。父と母は無理矢理別れさせられたのです」


 その時にはアマンダの母は……

 既にアマンダを身篭みごもっていたそうだ。

 しかし、その身重の母をエイルトヴァーラの家は僅かな金を持たせて放りだしたそうである。


「でも父はその後も私を気に掛けてくれました。母に多額のお金を届けて生活に不自由なくしてくれた上で、最後にはあの宿を贈ってくれました」


 父の事をとても良く話すわりには、アマンダは余り母の事を話さなかった。

 何か、わだかまりがあるのかもしれない。


 俺は微笑むアマンダをしっかり抱き締めながら、ゆっくりと眠りに落ちて行ったのであった。

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