第47話「あり金勝負」

 未鑑定商品の部屋に置いてある、商品棚をくまなくチェックした俺達。

 結局、真鍮製の指輪ひとつ、銅製の指輪ひとつ、銀製の指輪とアミュレットを各ひとつずつ、そして正体不明の香のようなものをひとつ購入した。

 

 呪われた商品で安いと言っても、元は上質の魔道具。

 魔道具はやはり高価なモノで、金額はしめて40万5千アウルム。

 つまり金貨40枚と大銀貨5枚の大金となったのだ。

 ※約40万円強。


 ちなみに謎の香は、大量購入の特典としておまけで付けて貰ったもの。


 支払いは、俺とジュリアの所持金、ほぼ全部でまかなう。

 全財産を使って行った、思い切った賭けである。

 当然、イザベラの解呪魔法ディスペルがあっての勝算だ。


 店主のダックヴァルは鑑定はともかく、解呪を絶対に頼まれると思っているらしい。

 まさかイザベラが、魔法を行使出来ると思っていないから。


「ふふふ。で、どうするね。俺が鑑定と解呪ディスペルをやろうか? 当然の事ながら別料金だがよ」


 ダックヴァルは意味ありげな笑いを浮かべている。

 俺は、ふと思う。

 こいつの鑑定料と解呪魔法の発動料金ってすげえ法外なんだろうなぁ……って。

 

 そして、この部屋のからくりがやっと分かって来た。

 未鑑定で呪われた商品という事で持ち込んだ冒険者から滅茶苦茶な安価な値段で買い叩く。 

 ここでもう、店が損をする事は無い。


 商品に利益を少しだけ乗っけて、売る。

 一見、割安で買えば大儲け出来そうな雰囲気となる。

 客は特別とか言われていい気持ちになってこの部屋へ案内される。

 呪われた商品の安さと品質へ飛びつく。

 

 だが、自前で解呪が出来る者は少ない。

 またもや、ダックヴァルは解呪及び鑑定の手数料が取れて、二重に大儲け。

 

 へぇ!

 凄い、凄いよダックヴァル。

 俺は逆に感心してしまう。

 大が付く先輩商人として、ダックヴァルの持つしたたかさにである。


 そんな事をつらつらと考えていたら、ジュリアがきっぱりと言い放つ。


「お断り! 鑑定はあたしとトールが受け持って、解呪の方はイザベラがやるよ」 

 ジュリアは「冗談じゃないわ」という表情だ。

 性悪なごうつく店主の思い通りにはならない!

 と、いう主張が顔にはっきりと出ていた。

 

 ダックヴァルは、興味深そうに笑う。


「ほう! 若いお前達3人がやるのかね。大丈夫か? 鑑定はともかくとして、解呪に失敗して呪われても俺は責任を持たないからな」


「あたし達なら、絶対に大丈夫さ」


 念を押して聞くダックヴァルに対して、ジュリアは強気で返す。

 俺はともかく、見た事がないイザベラの解呪は心配な筈だ。

 しかし、ここで弱気や隙は見せられない。

 百戦錬磨なダックヴァルに、容赦なくつけ込まれてしまうからだ。

 

 事が決まってから、公的な『儀式』が俺達を待っていた。

 万が一トラブルがあって、後で揉めない様に恒例として行っているのだろう。

 ダックヴァルから、『念書』にサインするように求められたのだ。


 客が自ら行った解呪に失敗して、最悪死亡した場合……

 自己責任だから、店とダックヴァルを、絶対に訴えないという凄い内容の念書だ。

 だが意外。

 何故か念書には、『代表』として俺の名前を入れるという。

 

 あれ?

 代表ってジュリアじゃないの?


 不思議に思った俺が聞いたら……

 

「駄目! リーダーは、トールだもの」


 きっぱり言われてしまう。

 俺がリーダー?

 いつ、なったの?

 全然ピンと来ない。 


 そんなやりとりをしていたら、イザベラが口を開く。


「さあて! もう解呪して良いのかな?」


 イザベラはさっきから待たされて、手持ち無沙汰にしていたせいだろうか。

 彼女独特の深い赤色の瞳を輝かせている。

 やる気満々!

 と、いう感じだ。


「よし、ちょっと待て……今、魔法の掛かったトレイの上に運ぶから、そこでやってくれ」


 どうやって商品を運ぶのかと思ったら、ダックヴァルは分厚い革製の手袋を装着して商品を掴んでいた。

 何か、強力な防御魔法が付呪してあるようだ。

 そうやって呪われないようにした上で、俺達が選んだ商品をトレイの上に載せたのである。


 成る程……

 あのように、便利な手袋があるのか。

 呪いに耐性がない俺とジュリアには、ひとつずつあった方が良いかもな。

 

 やがて商品は丁寧にトレイに置かれた。

 軽く息を吐いたダックヴァルは、俺達に向き直る。


「準備は出来たぞ。さあ、どうなるかな? うへへへへへ」

 

 気持ち悪い笑い方しやがって!

 完全に俺達が失敗すると思っている。


 冗談じゃない!

 

 俺は憎たらしい髭親爺を睨み返していたのであった。

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