第149話「家族の侮辱は許さねぇ!」
アマンダの悪口を言う奴等の真ん前に出て、俺はきっぱりと言い放つ。
「何か、こそこそと、つまらない事を言っていたようだが……俺の前でもう一度言ってみせろ」
「あ~?」
「何だ? 小僧?」
俺の言葉を聞いても、奴等は全然臆する所が無い。
やはり俺は完全に舐められていた。
昨日大立ち回りを演じたのに、不幸にもこいつらは居なかったようである。
「俺の嫁の事を今、何と言った? もう一度言ってみろよ、ああ?」
俺が陰口の事を指摘して挑発すると何と相手は激高した。
いわゆる逆ギレという奴である。
「てめぇみたいな下等な人間があいつを嫁にしただと? ふざけるなよ! それにてめぇこそ、つまらない言い掛かりをつけるんじゃねぇ、小僧!」
言い終わらないうちに片方の男が殴り掛かって来た。
だが、これは俺にとって大変
文句無く、正当防衛って奴になるからね!
「ぎゃぶ!」
俺に殴り掛かろうとしていた男は、いきなり身体を海老のように折り曲げると、口から胃の内容物を吐き、倒れこんで動かなくなる。
手加減はしたものの、俺が奴のボディに深々と
「な!?」
どうして相棒が倒されたのか、全く分からないもうひとりの男は呆然としている。
俺はそいつに向かって毒づいた。
「さっき言った事を、もう一度言ってみろよ、おら! てめぇの顔の真ん中に風穴開けてやるぜ」
「野郎!」
こいつも殴り掛かって来たから正当防衛っと!
まあ手加減はしてやろう。
相変わらず相手の動きは超スローだ。
先程俺は、相手のパンチを軽く当てさせていた。
こいつの拳も軽く受けてやる。
一瞬にやついた相手の腹に、数倍の威力のパンチをお見舞いしてやった。
「がふ!」
今度は、すぐ失神しないように更に手加減をしている。
倒れ込んだアールヴの男はさっきとは一変して、恐怖に満ちた表情で俺を見ている。
一瞬のうちに実力差を認識してしまったに違いない。
俺は奴の胸倉をぐいっと掴んで持ち上げた。
「ぐぐぐ、く、苦しい! ゆ、許してく、れ!」
「はぁ? 言っただろう……てめえは許さねぇよ!」
ぱんぱんぱんぱんぱんぱ~ん!
お仕置きの意味もある。
俺は軽快な音を立てて奴の頬を張ってやった。
必殺の連続ビンタ。
頬がすぐ真っ赤に腫れ上がるが、男は既に傷みを感じていないようだ。
多分、意識が朦朧としているのだろう。
「もう一度聞くぜ、さっき何て言った?」
「ご、ごめんな……さ……い」
「また言ったら……今度は、只じゃあおかねぇぞ」
「い、言……わな……い。 に、二度と言わない……」
男は何とかそう言うと、あっさり気を失った。
奴等は口に出さなかったが、面白そうに言っていた言葉……
それは『忌み子』である。
忌み子とは……世間から望まれずに生まれてきた子という意味だ。
どうせ、『あの話』から来ているんだろうが……くだらない迷信だ。
アマンダはこんなに可愛い女の子なのに……
優しくて思い遣りのある子なのに……
それを散々侮辱しやがって!
許さねぇぞ!
他の冒険者達もそれに近い言葉を吐いていたので、俺は大声で怒鳴ってやった。
「てめぇら、こそこそ、陰口叩きやがって! 文句があるなら来い! 叩き殺してやらぁ!」
俺の大声で部屋がびりびりと振動する。
何か口調がヴォラクのようになっているが、それほど俺の怒りは大きかったのだ。
ひそひそ話していた冒険者達は俺の怒りように怖れをなしてかシーンとして、じっとこちらを見ていた。
「そんな暇があったら自分の仕事でもしろぃ! 馬鹿がぁ!」
少し離れて見守っていた嫁ズが、俺の下に走り寄る。
皆、すっきりしたような表情だ。
ここで遠巻きにしていたギルドの職員が、やっという感じで恐る恐る近寄って来た。
そして俺の顔を見るとやれやれといった表情をする。
「はぁぁ……またお前か……」
「そっちこそ、お約束のタイミングでの登場だな」
青くなっている職員は昨日、カウンターの奥で違う方向を向いていた中間管理職らしいアールヴだ。
こいつはいわゆる、事なかれ主義の権化みたいな奴だろう。
そうこうしているうちに俺には馴染みのある気配が近付いて来たのが分かった。
「よう! ギルドマスター」
「ふう、トール。またお前か……って、何故アマンダが一緒に居る?」
迷惑そうに俺の顔を見ていたのは、アマンダの叔母でこの冒険者ギルドのマスター、クリスティーナ・エイルトヴァーラであった。
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