第170話「お父様との対決フラグ」

「みんなぁ、ちょっと聞いてぇ!」 


 吃驚した俺と嫁ズの前で、フレデリカはガーゴイルズへ向かって手を挙げた。

 彼等は全員、じっとフレデリカを見つめてる。 


 大注目を浴びたフレデリカは、大きく息を吸い込んだ。

 そして一気に言い放つ。 


「私、この人と結婚しまぁ~す! 愛してまぁ~す!」


 フレデリカが、俺の嫁になると宣言すると、その場はシーンとした。

 氷付いたように空気がビキビキ強張こわばったのだ。

 何か、凄くヤバイ雰囲気……


 思わず俺はフレデリカをかばうようにして、身構えた。

 当のフレデリカは守ってくれる俺の行為に感激したらしく、相変わらず甘えている。


 これは、とてもまず~い状況だ。

 熱狂的なアイドルファンは熱い分、このようなアイドルの『裏切り』に過剰反応する事も多い。

 いわゆる――可愛さ余って憎さ百倍という奴。


 しかしここでフレデリカが意外な行動に出た。

 庇われて隠れていた背後から俺の前にパッと出ると、居並ぶガーゴイルズに向かって堂々と宣言したのだ。

 

 何を?って……

 

 何と!

 改めての熱愛宣言だ。


「もう一度言うわぁ! 私は彼を心の底から愛してる! 真剣なのぉ!」


 おおおおおっ!


 真面目な顔のフレデリカを見たガーゴイルズからは、凄いどよめきだ。


私の・・トールはね~! 見ても分かるだろうけど人間の平民なのぉ! ギルドの制止を振り切って、命懸けで私と兄上を探しに来てくれたのよぉ! そしてすっごく強いのぉ! この迷宮でピンチになった私を、指先ひとつでピ~ンと助けてくれたのぉっ!」


 おおおおお~っ!

 わああああ~っ!


 むむむ!

 ギルドの制止を振り切って命懸けで探しに来たとか……違うし。

 危機ピンチに陥ったフレデリカを、指先ひとつで助けたとか……デコピンはしたけど違うし。

 話が全然違う気がするが、ここで訂正を求めるほど俺は馬鹿ではない。


 フレデリカの『熱愛宣言』という機転で、ガーゴイルズは俺達を信用してくれそうだから。


 この異世界では地球の中世西洋と一緒で、囚われた『美しい姫君』を命懸けで助ける騎士ナイトが受けるのは同じらしい。


「みんな~! お願いだからトールを認めてあげてぇ! 私はねぇ、身分違いの愛を貫く覚悟なのぉ! でもぉ、絶対に幸せになるからぁ! それにトールはこれからお父様と対決して勝たなくてはいけないのよぉ!」


 おおおおおおおおおおっ!


 今度は凄い叫び声が迷宮内を埋め尽くした。

 ガーゴイルズは大声で叫び、興奮して足を踏み鳴らしている。

 だが何か……とんでもない話になっているような気がするぞ。

 自分の発言に対して完全に酔っているフレデリカに、俺はストップをかけた。


「おい! フレデリカ! ちょっと待て!」


「なぁに、お兄ちゃわん!」


「なぁに、お兄ちゃわん、じゃあない。俺がマティアスさんと対決ってどういう事だよ」


 俺の糾弾にもフレデリカは「しれっ」とした表情だ。


「だってぇ! アマンダ姉さんだけじゃなくて、私もお兄ちゃんのお嫁さんになったらぁ、あのお父様が黙っているわけないんだも~ん」


「確かに……愛娘ふたりとも旦那様のお嫁さんじゃあ、お父様は大爆発確定ね」


 アマンダまでじと目をして「しれっ」と言う。

 こちらは少し、妹への嫉妬が感じられる。


 え?

 お父様大爆発確定?

 ああ、やばい!

 やばすぎる!

 有力貴族のマティアスさんが怒ったら、アールヴ軍団に俺の追討命令が下るかも……


 いくら神の使徒の俺でもアールヴ全体を敵にまわしたくない。

 かといって……もう大きな流れには逆らえない。


「「「「「「「「「「フリッカ! フリッカ! フリッカ!」」」」」」」」」」


 またもや沸き起こるフリッカコール。


「フリッカァ! 幸せになれよぉ!」


「俺達、応援してるよぉ!」


「もし結婚してもフリッカは俺達冒険者の永遠のアイドルだぁ!」


「「「「「「「「「「フリッカ! フリッカ! フリッカ!」」」」」」」」」」


 ああ、今更これでは俺に拒否権は無い。

 絶対に無い!


 しらばっくれて、明後日あさっての方角を向くフレデリカを、俺は複雑な表情で見つめていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 フレデリカ親衛隊という思わぬ展開から、ガーゴイル軍団100体余りを味方につけた俺達クランバトルブローカー。

 こうなれば勝手知ったる何とやら!

 迷宮を知り尽くしたガーゴイルズに先導して貰えば、奇襲を受けたり、酷い罠にはまるリスクも小さくなる。


 だけど、俺は念には念を入れた。


 万が一何かあってもガーゴイルズに盾になって貰えば、俺達に害が及ぶ可能性が減る。

 その上で、俺は召喚したケルベロスを先行させ、ソフィアにも滅ぼす者デストロイヤーを出撃させた。

 イザベラにも悪霊を召喚させたのは言うまでもない。


 ケルベロスと滅ぼす者デストロイヤー&悪霊を盾役として俺達に直接の攻撃が及ばない数段構えとするのだ。

 当然の事ながら、ソフィアには罠の索敵も徹底させる。


 こうしてガルドルド魔法帝国の街並みを再現した迷宮を俺達は打てる手を全て打った状態で進んで行った。


 この街はやはりコーンウォールの街の造りと酷似している。

 そんな中、ジュリアの鋭い声が響く。


「旦那様! 何故かノイズがあって捕捉が遅れたけど……300m先に敵よ! 今度は人間やアールヴ仕様の自動人形オートマタ約50体! ええと、中身は多分悪魔達ね!」


 何!

 人間やアールヴ仕様の自動人形オートマタで、中身は悪魔!?

 ふうむ……

 悪魔が自動人形オートマタを選んだ理由は、ソフィアを例にすれば分かる気がする。

 多分、外見が美しいからだろう。

 ジュリアの報告を聞いて、さっと前に出たのがイザベラだ。


「旦那様、今度は私の身内だね。よっし出番だ! 任せといて!」


 いきなりイザベラを突出させるのは、とても危険だがここは彼女の意思を尊重してやりたい。

 まあ俺のフォローがあれば良いのだから。

 その証拠に俺がずいっと出て横に立つイザベラの顔を見たら、花が咲いたように微笑んだのである。


「うふふ、旦那様! 援護を宜しくね」


 ――5分後


 俺とイザベラは自動人形オートマタ軍団と正対していた。

 やはり、人間やアールヴの美男ばかりを模した機体であった。

 暫しの沈黙の後、イザベラが声を張り上げる。


「私は悪魔王アルフレードルの次女イザベラよ! まずあんた達と話をしたいの! 受けるなら代表の者が挙手をしなさい!」


 イザベラの呼び掛けに対して、相手陣営は直ぐに動かなかった。


 待つこと5分……


 短気なイザベラが痺れを切らしそうになった瞬間、美しいアールヴ男性を模した自動人形オートマタがおずおずと手を挙げたのであった。

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