第185話「リア充特大炸裂!」

「おいおい、ハンナ!?」


 俺は、しっかり抱きついて甘えるハンナに少々戸惑っていた。

 何故? こうなった?

 そんな俺の気持ちを見通すかの如く、ハンナは叫ぶ。


ご主人様ぁマスター! ハンナはこの前、愛して貰ったその日からこうなる事を夢見ていたのですぅ!」


 え?

 愛した?

 俺がハンナを?

 いつだよ、それ?


 俺は、思わず声に出して尋ねる。


「え!? 愛して貰ったその日って?」


「はいっ! 今と同じく、頭を優しく撫でて貰った私は今迄味わった事のない幸せを感じましたぁ!」


 ああ、そうか!

 これって……

 神力波ゴッドオーラのせいなのか!

 まあ、それだけじゃないと思うが……一応、納得!


 しかし!

 抱きついて甘えるハンナを見たフレデリカが、地団駄踏んで悔しがる。

 そして、遂に禁断の愛称を叫んでしまったのだ。


「い、嫌ぁ! 駄目だよ、お兄ちゃわん!」


 フレデリカの叫びに、すかさず反応したのが父マティアスである。

 だって、フレデリカの兄と言えばアウグストだもの。

 普通は、誰もがそう思う。


「え? お兄ちゃわん! ってお前の事か? アウグスト」


「いや、僕じゃありませんよ! 父上!」


 思わず問い質すマティアスに対して、アウグストは困惑したように首を横に振った。

 そしてフレデリカ自身も冷たい眼差しを向け、アウグストを指差し、はっきりと言い放ったのである。


「お父様、『これ』とは違います」


「はぁ? これとは? この僕が『これ』って……」


 妹に『これ』呼ばわりされて、アウグストはがっくりと項垂れてしまう。

 そんなアウグストを無視してフレデリカは完全にカミングアウトしたのである。


「こちらの人が……私の命の恩人でもある、トール・ユーキ様。彼が私のお兄ちゃわん、そして愛しい旦那様ですっ!」


 フレデリカのまさかの宣言に驚愕したのは母フローラであり、マティアスは頭を抱えてしまう。


「フレデリカ! あ、貴女は!? 一体何を言っているの?」


「まさか! まさかぁ!」


 しかし、フレデリカは堂々と言う。

 全然臆してはいない。


「はいっ! ハンナよりもず~っと先に、私がお兄ちゃわんのお嫁さんになる約束をしていましたからっ!」


 フレデリカの言葉を聞いて、非難の目を俺に向けたのはマティアスである。


「トール! おお、お前という奴はぁ! アマンダだけでなく、フレデリカまでも、私から奪う気か!」


 非難される俺の前に立って、フレデリカは凄い事を言ってしまう。


「お父様! 私はもうお兄ちゃわんに女の子の一番大事な物をあげちゃいました!」


「えええっ!? い、一番大事な物ぉ?」


 フレデリカの衝撃の発言を聞いたマティアスは、がっくりと膝を突いてしまう。


 ああっ!

 そりゃ、父親ならこのような反応になるよ。

 だが、俺はまだフレデリカを抱いてはいないぞ。


 ここで俺は、「ちらっ」とアウグストを見た。

 

 ほれ! 俺達の結婚をフォローするって約束だろう?


 しかしアウグストの奴、両親の反応を見てぶるぶる震えてる。

 ダメだ、こりゃ。

 

 そして、遂に激怒したのがフローラである。


「フ、フ、フ、フレデリカ! な、何てふしだらな!」


 大声を出して、愛娘を非難する母。

 対してフレデリカはしれっと言う。


「ふしだら? 何それ? お兄ちゃわんはスパイラル様の御使いなんだよ」


「ん、まあ! 貴女は何を言っているの!」


「お母様こそ何? ふしだらなんて、そんな失礼な事を言ったらお母様にこそ天罰がくだると思うけど……もしかしてお父様もお母様も神様に逆らうの?」


「うううう……」


「はう……」


 深い信仰心を盾にされて、言葉を失うふたり……

 ここでフレデリカは、更に駄目を押した。


「それでふたりとも私の結婚を認めないの? そんな事したら呪われるよ!」


「フ、フレデリカ! お前はトール……様が命の恩人だから感激して舞い上がっているだけなんだ!」


 必死に翻意を促すマティアス。

 しかし、フレデリカの反撃は容赦ない。


「ふ~ん……お父様ってアマンダお姉様の事は許してもフレデリカの事は許してくれないの?」


 今度は、アマンダの事を引き合いに出したフレデリカ。

 しかしアマンダの呼び方が変わっていたのを、マティアスは聞き逃さなかった。


「は? フレデリカ! 今、お前何て?」


「アマンダお姉様ですよ、お父様! 私、反省しました。それもみ~んなお兄ちゃわんのお陰なのです。ふつつかな私の事をきちんと叱ってくれましたから。フレデリカはあんな良いお姉様が居て妹として幸せです」


 フレデリカの言葉を聞いたマティアスは、とっても複雑な気持ちなのだろう。

 姉を尊敬する気持ちを持ったのと、俺に惚れ込んだ愛娘の姿が被ってしまうのだから。

 考え込んだマティアスは一般論で反撃した。


「ううう……だがフレデリカ! お前がこの人間の妻になればこのエイルトヴァーラの血を継ぐ者が……」


 しかし!

 この論点もフレデリカの方が、遥かに上手であった。

 様々な突っ込みに対して、万全な回答案を用意しているに違いない。

 兄アウグストを見て、すらすらっと答えたのである。


「エイルトヴァーラ家の跡継ぎ? それはこれ……じゃなかった、お兄様にお任せします! お兄ちゃわんはエイルトヴァーラ家の大事な跡取りであるアウグストお兄様まで連れ帰ってくれたんですよ! ねぇ、アウグストお兄様。長男のお兄様がエイルトヴァーラ家を継ぐのは当たり前だし、私の結婚に関しても賛成ですよね?」


「う、うん……」


 妹の押しに仕方なく頷くアウグスト。

 俺に勝負で負けた引き換えの『約束』もあって、全くの無抵抗だ。

 

「ほらぁ! お父様、お母様、今の聞きました? 可愛いお嫁さんを貰って家を継ぐって、アウグストお兄様がしっかり約束してくださったわ!」


 兄の言質げんちを取って得意顔のフレデリカであったが、とうとうフローラが爆発した。

 美しい妖精のような顔が鬼のような形相になっている。


「ゆ、ゆ、許さないっ! アマンダなんて汚らわしい女はどうでも良いっ! それより私のフレデリカが何で人間なんかの妻にっ! 神の御使いだろうが何だろうが許さないわっ!」


「ああっ! フローラっ! ややや、やめなさいっ!」


 慌てたマティアスが止めるが、フローラは怒りのあまり俺に突進してビンタを食らわそうとした。

 だがフローラの動きなど、今迄戦った敵に比べたらしれたものだ。

 俺はビンタをしようとしたフローラの手をがっちり掴むと、倒れ込んで来た彼女を抱きかかえた。


「え!?」


 思いもかけない展開に戸惑うフローラ。

 彼女の感情が籠った魔力波オーラ=波動が伝わって来る。


 よおしっ!

 今だっ!


 俺は抱きすくめたフローラへ、ハンナ同様結構な量の神力波ゴッドオーラを注ぎ込んでやった。

 これは効く!

 凄く効く筈だ。


「ああ、きゃああああっ!?」


 俺に抱きすくめられ、大きな悲鳴をあげる妻を見たマティアスが大声をあげた。


「ああ、フローラぁ! どどど、どうしたぁ!?」


 しかし……


「あ、あはぁ……きき、気持ち良いぃ……もっとぉ」


「は!?」


 とろんとした妻の顔を見たマティアスは、目が点になっている。

 しかし、俺にとってはここが勝負どころだ。


「フローラさん! 俺とフレデリカの事は認めて貰えるね?」


 俺の言葉が、気持ちの良い夢の中で聞こえているような感覚なのだろう。

 

「あ、あう……は、はいぃ! い、今の波動で……あ、貴方はフレデリカの事をとても大事にしてくれると……あ、はん……わ、分かりましたぁ」


 フローラは、思わず素直に答えてしまう。

 さっきの鬼のような表情は一変し、恍惚状態。

 美しい妖精顔に変貌している。


 よし! やった!

 これでクリアだな!

 しかし母親の様子を見て、嫉妬の炎を燃やしたのがフレデリカだ。


「もう! お母様ったら! いつまでお兄ちゃわんに抱きついてるのっ! どいてっ!」


 何と母を突き飛ばしたフレデリカは、俺に思い切り抱きついた。

 続いたのが放置されていたハンナである。


「ああっ! フレデリカ様! ハンナのご主人様マスターでもありますよぉ!」


 こうなったら!

 他の嫁ズが黙っていないのは当然だ。


「ああっ! トールは皆のトールよおっ!」


 大きな声をあげ、抱きついて来たのはジュリアである。

 イザベラ、ソフィア、そしてアマンダも負けじと続く。


 ああ、俺は幸せだ!

 改造&転生して本当によかったぁ!

 邪神様、ありがとうぉ!


 嫁ズ全員に抱きつかれた俺は今、至福の時を過ごしていたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る