第四十三話「反転攻勢」
「後ろからだ!!」
「ごぼっ?!」
「ぐふっ!!」
カイン率いるフォーカス軍は厳しい訓練で鍛え上げられ実戦も経験した最精鋭たちであるため、大司教の私兵たちとは一線を画す強さと士気と規律を有していた。
「今だ!! 全員!! 反転攻勢!!」
「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」
フラッドの
「フラッド様!」
「よく来てれたカイン!」
フラッドはカインを抱きしめ頬に口付けする。
「あっ、ありがとうございます!」
「カインはこのまま周囲を警戒していてくれ! 俺はアリス……教皇の下へ行く!」
「はっ!」
「フォーカス卿! 貴殿は命の恩人だ!」
「我が国を頼ることがあれば私にお話しください! 本国と繋ぐパイプとなりましょう!」
「聖人とは貴方のことだ!」
各国の大使たちから感謝されるフラッド。
「ありがとうございます。大使の皆様。ですが、全ては懸命に戦った兵たちのおかげ、感謝は私ではなく、兵たちお伝えください(自分の身を守っただけで、結果的に大使たちも守ることにはなったけど、ここまで感謝されるのはちょっと気が引ける……)」
「「「「フォーカス卿……」」」」
今ならいくらでも恩を売れるのに、そうしないフラッドの謙虚な態度に、大使たちは利害ではない恩義を感じ、今後、このことがフラッドを大きく助けることに繋がるのだった。
フラッドがアリスの下へ戻る。
「アリス安心しろ! 敵は撃退したぞ!」
「ふらっど! あっ――」
声を上げ、全身が魔力に包まれる発光するアリス。
「なんだっ? どうしたっ?」
「落ち着いてくださいフラッド様、これは……おそらく、神託が降りたようです……」
「神託だと?」
エトナの言葉にフラッドがアリスに視線を戻す。
光が収まり、アリスはゆっくり目を開き、口を開いた。
「しんたくおりた! ふらっど、えとな、ありす、きゅうでんへむかへ!」
「なんだって……?」
「大司教がいるというアルビオン宮殿のことでしょうか?」
「なんで急にこんな神託が降りたんだ? しかもご指名まで入ってるぞ……」
「どうします?」
「えっ、行きたくないけど?」
許されるのならすぐに皆を連れて逃げ出したいフラッド。
「かみのことば、ぜったい。ありすはひとりでもいく」
「アリス……」
「いく」
「でもな……」
「ふらっどはみんなとにげて」
「はぁ……っ! 仕方ないかっ! 元はと言えば神託のせいでここまで来たんだしな」
アリスの決意に折れるフラッド。
「どのみち、大司教を止めねばならないし。行くか――」
「……いいの?」
「もちろんだ。な、エトナ?」
「私はフラッド様が行くなら、どこまでもお供します」
フラッドはアリスを連れてカインと合流し、カインにアリスとリンドウの紹介をした後、神託が降りたことを告げた。
「なるほど……では部隊を二つに分けアルビオン宮殿を目指しましょう」
「二つに分ける?」
「はい。負傷者はこの離宮に残していかなければなりませんので、それを守る部隊と、宮殿へ向かう部隊です」
「……よしっ、それで行こう!」
「はいっ!」
カインが頷き、部下に通達する。
【大人気だな主、この短い期間で二度も神託で指名されるとは】
「流石は殿! サク=シャにすら一目置かれているとは、もはや人の物差しでは測りきれませぬな!」
「ホント、いつも変なことにばかり巻き込まれるんですから……」
「まったくだな! 決めた! これが終わったらゆっくり休むぞ! 旅行をしよう! 温泉に入って美味いもんとか食べる!!」
「いいですね、私は露天風呂に入りたいです」
「流石エトナ、分かってるな!」
【使い魔OKな宿を選んでくれよ?】
「当たり前だろディー!」
「このリンドウもお供しますぞ!」
「当たり前だ! リンドウもカインもサラもゲラルトもみんなで行くぞ!」
「フラッド様と温泉!? とても楽しいでしょうね……! 母さんも喜びます!」
「いいなぁ、たのしそー……」
しょぼんとするアリスにフラッドが「なにを言っているんだ?」という表情を浮かべる。
「アリスもセレス殿も一緒に行くんだぞ?」
「……っ! うん!」
アリスは泣きそうにも見える笑顔で応えた。
「ではフラッド様、お下知(げち)を」
「またか……」
しかし意外と慣れてきていたフラッドは、兵たちに向かって声を上げた。
「兵士諸君! 今より教皇猊下の
「「「「おおおおおおおおおおお!!!!」」」」
「「「「永遠の相の下に!!!!」」」」
士気が最高潮に高まったフラッド率いる大司教討伐軍はアルビオン宮殿へと向かった。
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