第十四話「決断」

 フォーカス邸・フラッドの私室――


「なぁにぃっ!? クランツがファーナー母を監禁していた!?」


「マジですか?」


 ディーの報告にフラッドとエトナは目を丸くした。


【ああ、大マジだ。どころか、美女十数人が地下に監禁されてたぞ】


「クランツのヤツ……そこまでいびつな性癖を持っていたとは……」


「アイツなら不思議ではありませんが、ファーナー母へのセリフは気になりますね……。お前はVIP、でしたっけ?」


【ああ、確かにそう言っていたな。証拠に、他の傷だらけの女たちに比べ、ファーナー母は手出しされていない様子だった】


「どういうことだ……? 俺が捜索を命じたのは今日の今日……だというのに、クランツはもっと前から、意図的にファーナー母を狙って監禁していた……。ということか?」


【そうなるな】


「あとはクランツ自身に聞くしかないようですね」



 フラッドは一旦椅子に深く腰を沈めると、大きくため息を吐いた。



「ふー…………。クランツ……父の代から使えた老臣……信用していたのにな……」



 エトナほど、とは言わないが、前世ではクランツを亜父あふのように思っていたフラッドは、内心傷ついていた。


「お気持ちは察しますが、今は絶好の機会。兵を連れヤツの屋敷に押し込めば、ヤツの悪事の証拠ごとファーナー母を手に入れられ、ヤツを断罪することができます」


【ヤツは魔獣である私からしても不愉快だ。主の使い魔でなければその場で殺していたぞ】



 二人の言葉を受け、フラッドは意を決したようにゆっくり頷いた。



「よし、やろう。クランツを断罪し、ファーナー母を助ける。ゲラルトを呼んでくれ」


【ゲラルトは信用できるのか?】


 ディーの疑問にエトナが答える。


「兵長は大丈夫だと思います。元々先代から仕える忠義深い武人ですし、前世で裏切った理由も、クランツが大体の原因でしたから」


「俺もゲラルトは大丈夫だと思う。良くも悪くも、裏表の無い男だからな」



 そうしてゲラルトが呼び出された。



「フラッド様、今はまだ捜索隊の編成を決めている最中でして……結果が出るにはまだ時間が……」


「案ずるなゲラルト。ディーのおかげで、ファーナー婦人の居場所が分かった」


「なんと! どこでしょう?」


「その前にゲラルト、お前に聞きたいことがある。お前は忠臣か? その命を俺に預けることができるか?」



 フラッドの問いに、ゲラルトは少しだけ驚いたような表情を浮かべると、真剣な顔つきでフラッドの瞳を見返した。



「フラッド様、この老骨は生涯の忠誠をフォーカス家に誓った身。この命、フラッド様にお捧げ致します――」


「分かった(前世で裏切ったくせに……)。ならゲラルト、この領の根幹こんかん関わる重大な話がある……」



 フラッドはクランツの悪行の全て、魔石業者との癒着や横領、地下に監禁された美女たちのことをゲラルトに話した。



「なっ、なんと……クランツがそこまでの外道だったとは……」


 あまりにも理解しがたい事実に呆然とするゲラルト。


「俺も驚いている。だが、事実だ。だからゲラルト、お前は自身の最も信頼の置ける部下、特にクランツとその関係者に情報を流さないような者を、今日の夜までに選抜してくれ」


「と、いうことは……」


「ああ、クランツ邸に襲撃をかける。無論、殺すためじゃない。奴を捕え、その罪を白日の下にさらし、ファーナー婦人を始め、捕らえられている女性たちを解放するためだ」


「かしこまりました! このゲラルト、命に懸けて選抜隊を組織します!!」



 ゲラルトが退出し、立ち上がったフラッドは窓から見える青空を見ながら呟いた。



「クランツ……全て偽りだったのか……」


【主……】


「フラッド様、裏切り者にかける情があるのなら、それら全てを、今フラッド様に忠誠を尽くす者にお与えください」


 寂し気な背中に同情するようなディーに対し、エトナは冷酷にも見える淡白さで情熱的であった。


「ああ、そうだな。ありがとうエトナ――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る