第十五話「決行」

「集まったか……」


 深夜、フォーカス邸の前には完全武装した百人の兵士が整列していた。


「ゲラルト、よくこれだけ集めてくれた」


「いえ、全てはフラッド様、そしてフォーカス領のためです。兵の皆も同じ気持ちでございます。ひいてはフラッド様、お下知げちをいただきたく」


「えっ?!」


 まさかの無茶ぶりに動揺するフラッドへ、エトナが耳打ちする。


⦅フラッド様、なんでもいいですから、それっぽいこと言ってください。士気が下がりますから⦆


⦅でもやったことないしっ……! 緊張するんだがっ!!⦆


⦅前世のことを思えば、なんてことないでしょう⦆


⦅たっ、確かに……っ!⦆


 前世で逃亡時の一瞬も心休まることなく、常に追手が来ないかと不安だったことを思えば、これくらいなんてことない。と、エトナの耳打ちに頷き、フラッドは兵の前に歩み出た。


「皆よく聞け! 今から家令クランツの屋敷へ向かい、ヤツとその関係者を逮捕する! ヤツは血税を横領し汚職で財を成し、また、無辜むこの民を誘拐して殺害し、美女を見つけては地下牢に監禁し己のなぐさみ者にする、重犯罪者であるからだ!! この策は速さこそ全て! 皆! この我々の決起がヤツに伝わるよりも早く、ヤツが証拠を隠す前に、奴が逃げる前に捕まえるのだ!!」


 やってみたらやってみたで、特有の小賢しさを発揮し、スラスラと言葉が出るフラッドであった。



「「「「おおおおおお!!!!」」」」



「全員騎乗!!」


 ゲラルトの命に従い全兵が騎乗する。


「目指すはクランツ邸! 出撃!!」


「「「「おおおおおお!!!!」」」」


 フラッドも後ろにエトナを乗せ駆け出す兵の後ろからついていく。


 ディーは鳥に変身してクランツ邸に動きがないか警戒していた。



 クランツ邸・クランツの私室――



「……んん? なんだ騒がしい!」


 就寝していたクランツは外から聞こえる騒音に目を覚まし、不機嫌になりつつ呼び鈴を鳴らした。


「たっ、大変でございますっ!!」

「無礼者!!」


 バキャッ――!!


 ノックもせずに血相を変えて入室してきた執事を、クランツは水差しでぶん殴った。


「ぎゃあああ!!」


 砕けた水指しの破片が頭に刺さり、ピューピューと血を吹き出しながら執事が床を転がる。


「なにをふざけているのだ!! 殺すぞ!!」


「グボッ?!」


 腹を蹴られて正気を取り戻した執事がなんとか起き上がる。


「で? 何があった?」


「たっ、大変でございます! 領主自ら兵を率いてこの屋敷を包囲しました!! ゲラルト領兵長の姿もあります!!」


「な、なんだとっ!? なにが目的だ?!」


「ご主人様を逮捕しに来たとのことです!!」


「…………」


 あまりにも急な事態に、クランツは一瞬頭の中が真っ白になる。


「! どっ、どういうことだっ?! ゲラルトが私を蹴落とすためにあのバカをそそのかした……? いや、あいつにそんな野心はない……ならあのバカが自分で……? ちなみに罪状は!?」


「おっ、横領、汚職、誘拐に殺人と監禁とのことです!」


 クランツは視界が歪む思いがした。


「なっ、なんでっ……! いや、証拠がないっ!! あのバカがどうしてこんなことをしだしたのか理由は分からんが、あのバカ主導ならどうにでも丸め込めるはずだ……!!」



 ディーが現場を目撃していることに気付いていないうえに、未だフラッドのことを侮っているクランツは、自分が本気でフラッドの情に訴えかければ、誤解だと思わせられるだろう。と、この期に及んで事態を甘く見ていた。




 クランツ邸・ロビー――



 正門を守っていた警備兵を鎮圧したフラッドたちは、屋敷の周囲を固める兵を残し正面玄関から屋敷に入った。


「クランツ! 出てこい! 抵抗しなければ命まではとらん!!」


 領兵に守られながらフラッドがクランツへ投降を呼びかけると、二階から執事服に着替えたクランツが姿を現した。

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