第二十一話「採用」

 フラッドはエトナとディーを呼んでコソコソと話す。


「いやいやいや、いくらなんでも急すぎるでしょ……? 確かに人間の護衛が欲しいとは言っていたけど、こんな都合のいい展開ある……?」


「どうするんですかフラッド様。あの手は押しが強いですよ。多分、断っても諦めないで後を追ってきますよ」


【武の心得があるというのも本当だろうな。肌を通して分かる。あの女、相当できるぞ】


「だからって出会ったばかりの素性もよく分からない東洋人を護衛になんてできないぞ……。もし仮にしたとしても、宮殿に入れられないだろう」


「とりあえず話を聞いてみらたどうですか?」


【うむ、裏があるようには見えんしな】


「分かった」


 フラッドが顔を上げ、リンドウを見た。


「とりあえず自己紹介がまだだったな、俺はドラクマ王国で辺境伯を務めている、フラッド・ユーノ・フォーカスだ」


「おおっ流石は殿との! 並のお方ではないとは思っておりましたが、大貴族であられたか!」


「殿? それで、リンドウ? は、なんでこの大陸にやってきたんだ?」


「はっ! 見聞を広めるために!」


「なんで行き倒れ出たんだ?」


「路銀が尽きたので!」


「なるほど、分かりやすい。実に簡潔明瞭な受け答えだ」


「お褒めに預かり恐悦至極!」


「ここベルクラントにいた理由は? 船で来たならどの国で降りたとしても、ここまで相当な距離があると思うが?」


 ベルクラントは大陸中央にある内陸国である。


「自分は純白教徒で、特に黄金の従者に憧れておりましてな。一度大聖堂とやらをもうでてみたかったのです。ま、路銀が尽き、あと一歩というところで黄泉路に着くところでしたが」


 わっはっはっと豪快に笑うリンドウ。


「確かに話すとかなりアシハラなまりがあるな……。敬語なんだかため口をきかれてるんだかよく分からん……」


「それは申し訳なし! この大陸に来るまでに治そうと努力はしたのですが及ばなんだ! 愛嬌あいきょうの一つと受け止めて下されば幸いにござ……です!」


 ござるやそれがしと言わないのはリンドウなりの努力の結果であった。


「うーん(悪いやつじゃないのは分かったけど、だからって今日初めて会った人間を護衛にするのもなぁ……)……」


「殿のご懸念は分かります。このリンドウが信用に足る者かどうか、案じておられるのでしょう?」


「まぁそうだな。護衛ってある意味俺の命を預けるワケだし」


「全て本心である。と、純白の女神に誓いましょう。このリンドウ・サオトメの名と八ツ胴にも懸けましょう。もし私の言葉に一片の嘘あらば、すぐさまこの腹かっさばいてご覧に入れましょう!」


(うーん……ここまで言ってるんだしなぁ。嘘をついてるようにも見えないし……)



 悩むフラッド。



「どうなると思います?」


【主は押しに弱いからな。結局折れると思うぞ】


 悩むフラッドの後ろでエトナとディーがフラッドの返答を予想する。


(けどリンドウがどこぞの国の間諜である可能性も否定できないし、でも世話をするなら最後までしろってなんかの故事であった気がするし……。いや、俺は難しく考えすぎているだけか? むむむ……はっ!)


 ハッとするフラッド。


(あるじゃないか! 俺には相手を善人か悪人か見極めることができる完璧なロジックが!)


 顔を上げ、まっすぐにリンドウを見るフラッド。


「リンドウ、お前はジャガイモを知っているか?」


「ジャガイモ? さきほど頂戴したヤツのことでしょうか?」


 アシハラ大陸からきたリンドウはジャガイモについての知識を持っていなかった。


「うむそうだ。ジャガイモという。味はどうだった?」


「初めて食べ申したが、死にかけていたことも相まって、今まで食べたものの中で一番美味く感じ申した!」


「だがあれは豚用の餌だと言ったらどうする?」


「なんと!」


「俺を恨むか? それでも美味いと言えるか!?」」


「恨みませぬし、ジャガイモは美味い! 武士に二言はありませぬ!」


 即答するリンドウ。


「ジャガイモがどう蔑まれていようと、このリンドウにとっては命の恩人に他なりませぬ!」


 曇りなき眼でリンドウが答える。


「合格! 採用!! お前は今日から俺の専属護衛だ!!」


「謹んで拝命仕る!!」


「えぇ……?」


【大丈夫なのか……?】


 流石に難色を示すエトナとディー。

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