第五十話「最後の弱音」

 チャラカ平原――


 そこにはヴォルマルク率いるビザンツ帝国軍十万と、フラッド率いるドラクマ王国フォーカス連合軍七万が対峙していた。



 帝国軍本陣――


「ほう……臆せず現れたかフォーカス……。その勇気だけは褒めてやろう――」


「殿下、こちらの布陣は整いました!」


「うむ、分かった。下知げちがあるまで控えていろ」


「はっ!!」


「お前の化けの皮を剝がしてやるぞフォーカス。無能なお前と烏合うごうの衆で、俺に勝てると思ったか?」


 ヴォルマルクは愛刀を握りしめ、その瞳に憎悪と闘志をみなぎらせるのであった。



 フォーカス連合軍本陣――


「フラッド様! 布陣を終えました!」


 カインと偵察に出ていたディーが戻ってくる。


「ありがとうカイン。ディー、野暮用とやらはすんだのか?」


【ああ、バッチリな】


 ディーの背後には、今回の作戦の要である大小様々な魔獣鳥が控えている。


「フラッド様、将兵たちは皆、フラッド様のお言葉を待っております」


「分かったゲラルトすぐ行こう。だが、しばし待ってくれ。エトナ、ディー、ちょっとこっちに……」



 フラッドは肩にディーを乗せ、本当は置いてきたかったのだが、無理を言ってついてきたエトナ連れて、他の者に声が聞こえない場所まで移動した。



「怖いよ……っ! 正直シャレにならないくらい怖い……っ! 殺すのも殺されるのも嫌だ……!!」


「お気持ちは察します、フラッド様はお優しいですから……」


 震えるフラッドを優しく抱きしめるエトナ。


【腹をくくれ主】


「みんなの前ではなんとか有能風に装ってるけど……っ! 内心はガクガクのブルブルだ……っ!」


「その素直さがフラッド様の魅力ですよ」


【そうだな。戦や殺し合いは誰もが恐ろしい。たまにネジのハズれた奴もいたりするが】


「ここだけの話、勝てるかな……?」


「まぁ、カインさんを信じるしかないですね。どのみち負けたら死ぬんですから」


【だな】


「そう……そうだなっ……! ちなみにだが、ヴォルマルクって俺のこと好きじゃない……? 今回の戦は奴の本意じゃないってことも……」



「ありえませんし、絶対好きじゃないです」


「マジか……これが片思いってやつか……」



「フラッド様、とにかく勝つことだけ考えてください。今回は前世と違って逃げるだけじゃない。立ち向かえるし、勝つこともできるんです。私もいます。ですから、フラッド様は、ご自身がやれることをやり切ってください。最悪の場合、また二人で逃げればいいだけですから」



「エトナ……」


【私も忘れてもらっては困るな主よ。残念だが来世からは私もついていくぞ】


「ディー……」


 二人の言葉にフラッドは覚悟を決めたように頷いた。


「ありがとう……エトナ、ディー……! 俺、やれる限りはやる……っ!」


「それでこそフラッド様です」


【さすがは我が主だ。大将は余計なことをせず堂々と構えているだけでいい。後は部下が上手くやる】


「ああ、行くぞっ!!」


 そうしてフラッドはフォーカス軍全軍の前に姿を現した。


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