第二十二話「再会」

 コンコンコンコン――


「フラッド様、エトナです。お連れしました」


「うん、ちょうどいいな。少し待ってくれ。カイン立て」


「はっ!」


 フラッドはカインを立たせると、両肩に両手を当てて、自分へ向くカインを入り口に向けて反転させた。


「ふ、フラッド様?」


「カイン、シャンとしろ。胸を張って背筋を伸ばせ。お前が立派に成長したことを見せるんだ」


「は、はい?」


 カインは不思議そうにしながらも、言われたとおり背筋を伸ばして入り口を向いた。


「よし、入れ」

「失礼します」


 そう言って入室してきたのはエトナとサラだった。

 エトナは入室すると静かにドアを閉める。



「「えっ?」」


 サラとカインが同時に声を上げ、互いを見て動きを止めた。



「かっ、カイン……?」

「かっ、母さん……?」


 サラは八年ぶりに会う息子に一目で気付き、カインも五歳以来に会った母に一目で気付いた。



「サラ、カイン、案ずるな。ワケあって俺は全てを知っているが、侯爵の味方というワケではない。むしろ逆だ。ここなら侯爵の目は届かない。今はただ、二人を別っていた時間を埋めあうといい」



「母さん……母さん――っ!」

「カイン……カイン――っ!」



 二人は信じられないものを見るようによろよろと互いに近づき、抱きしめあった。



「母さん、母さん……! 会いたかった……! ずっと……ずっと……!」


「カイン……! 私のカイン……!! こんなに大きくなって……!!」


 強く抱きしめ合い、涙を流す二人。



「これで、この二人は俺を裏切ることはないだろう。まったく、利用されているとも知らないで、バカなやつらだ――」


「お目目ウルウルにさせてなに強がってんですか。悪役なんて似合ってないですよ」


 今にも涙を流しそうなほど目を潤ませているフラッドにエトナがツッコむ。


「ぐす……っ! 仇でも敵でも、親子の愛とはなんでこんなに心を打つんだろうな……っ」


「……そうですね」


 そうして再会を果たしたサラとカインは、フラッドへの報恩のために、その身を尽くすのであった。



 フォーカス領・凶悪犯罪者用監獄・地下牢――


「痛い……痛い……!! 許さん……許さんぞフラッド・ユーノ・フォーカスぅぅっ……!!」


 収監しゅうかんされたクランツは、鞭打ちの傷に悶えながらフラッドへの怨嗟えんさの声を吐いていた。


「まだ生きていたか……」


 そこへ全身を黒のローブで覆った、男とも女とも判らない人物が現れた。


「おおっ……!! 待っていましたぞ……!!」


 クランツは謎の人物を見ると、光明が差したように目を輝かせ、這いずって鉄格子を握った。


「言われたとおりサラ・ファーナーをかんき……」


「黙れ――」


 謎の人物はクランツを威圧だけで黙らせる。その際にその首に装着されていた、自らの尾を食らう蛇、ウロボロスのペンダントが光った。


「役立たずの駒に用はない。余計なことを喋る前に消えてもらう」


「そんっ――」


 言い終える前に、クランツの首が鋭利な刃物で斬り飛ばされたかのように胴体から離れた。


「計画は修正だな――」


 そう言って謎の人物は、クランツを一瞥いちべつすることもなく、魔力に全身を包まれ霧のように消え去った――

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