第九話「野盗」
フラッドたちが乗る馬車は前後をベルクラント衛兵が乗った馬車で厳重に守られている。
「なにがありました?」
「はっ! 巡礼者の馬車が野盗に襲われたようです!」
馬車の窓から顔を出したセレスが近衛兵から報告を受ける。
「なるほど……被害者は無事なのですか?」
「はっ! 女が何人か
「……何時か分かりますか?」
「今より少し前、少なくとも半刻は経ってはいないだろう、とのことです!」
深く息を吐いたセレスはフラッドを見た。
「フォーカス卿、申し訳ございません。問題が発生したようです」
「そのようですね」
「私の魔法なら、賊に連れ去られた巡礼者の場所を割り出せるかもしれません。そうなりますと、本来の予定が大幅に狂ってしまいますが……」
セレスが言い終える前にフラッドが応えていた。
「被害者の救出がなによりです! 予定? そんなのもはあくまで予定でしかありません。セレス殿は、どうか攫われた巡礼者の救出を第一に考えてください! それに、私たちの力が必要ならいくらでも協力いたします!」
予知夢だとセレスはフラッドにどうするか聞くこともなく、全てを衛兵に任せていたはずだったが、少し未来が変わったのか? なら、助けられるのなら助けよう! と、フラッドは思った。
「フォーカス卿……!」
フラッドの言葉に感動するセレス。
「では、お言葉に甘えさせていただきます……!」
セレスはフラッドたちと馬車から降り、襲撃された地点に残る
「……これなら、後を追えますっ」
「どうするのです?」
フラッドが疑問を浮かべる。
「私の魔法は自身を液体化することができるのです。同時に、血痕や体液など、まだ乾ききっていないものならば、追跡もできます」
言うが早いか、セレスは詠唱を始めた。
「神よ……原初の姿にこの身を戻し給え……上善は水の如し。永遠の相の下に――」
魔力に包まれたセレスは、着ていた神官服だけ残して液体となり、地面に落ちて水たまりを一瞬作ると、蒸発するようにそのまま消えてしまった。
「えっ? どうなったの……?」
「今は地中から血痕を追って、野盗の居場所を突き止めていらっしゃるのでしょう!」
「なるほど!」
近衛兵の言葉に納得するフラッド。
しばらくすると、フラッドの足元に水たまりができていた。
「戻りましたフォーカス卿。少し、こちらに背を向けていただきたく思います……」
水溜まりから響くセレスの声に応えるフラッド。
「? 分かりました」
フラッドや衛兵が後ろを向くと、液体から実体化した全裸のセレスが姿を現した。
色白の肌に、形の良い張りのある大きな胸と尻、くびれた腰、良く肉付いた太ももが露になる。
「うわわっ」
【これはこれは……】
慌ててエトナと女衛兵がセレスに上着をかける。
「それで……賊はいましたか?」
エトナから良いと言われ振り向いたフラッド。何故セレスが半裸なのか気になったが、空気を読んでスルーする。
「はい……巡礼者の女性四人が捉えられていました。賊の数は十人ほどです」
「分隊というところですな」
「ですね」
衛兵の言葉にセレスが頷く。
「どうしましょう? 重装の我々が動けば察されてしまうと思いますが……」
【仕方ない。私と主が行こう】
「えっ?!」
ディーの申し出に驚愕するセレスと衛兵と特にフラッド。
「しっ、しかし、フォーカス卿とディー様といえども……十人相手に二人では
【賊は私と主で倒す。十人程度なら物の数ではない】
実際野盗十人程度ならディーだけでも十分であった。が、フラッドに花を持たせてやりたいというディーなりの親心(使い魔心)だった。
「いえ、もしフォーカス卿になにかあれば……!」
【これも全て神の思し召しだろう。もし、ここで果てる運命ならば、神託に主の名が乗ろうはずがない。違うか?】
「そっそれは……そうかもしれませんが……」
【案ずるな、主は一騎当千とうたわれたビザンツ帝国のヴォルマルク皇子に、一騎打ちで完勝した男だぞ?】
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