第十話「救出」

 自分置いてけぼりで進む話に待ったをかけるフラッド。


⦅おいディー無茶だって!! 俺戦闘とか無理だよっ!?⦆


⦅大丈夫だ主よ。《生存本能》については聞いただろう? 行けるさ⦆


⦅行けないよ! いまいちよく分かってないんだから!?⦆



 ヴォルマルク戦後、自身の魔法である《生存本能》について説明を受けたフラッドであったが、いまいちよく分かっていなかった。


 そもそも発動中は意識と記憶が無くなるので、本当にそんな能力あんの? と、今だに半信半疑ですらあった。



「頑張ってくださいフラッド様。予知夢を乗り越えるために」


「エトナまでっ?!」


 仕方なく腹をくくったフラッドはセレスに先導される形でディーと共に野盗の下に急いだ。



【いるな……】


「まだ暴行はさていないようだ……」


「今がチャンスですね……」



【ではこうしよう。まず私が正面から突っ込む。奴らはきっと人質を捨てて大慌てで逃げるだろう。魔獣相手に人質が効くとは思わないだろうしな。主はこっちに逃げてきた奴等を頼む】



「……その作戦俺いる?」


 フラッドの疑問をスルーするディー。


【セレスは待機だ】


「かしこまりました」


「ディー一人で大丈夫なん……」


【では行くぞっ――!! ゴアアアアア――!!】


 本来の姿である巨体に変化したディーの登場に野盗たちが驚愕する。


「なっ、なんだありゃ!?」

「魔獣だぁ?!」

「どうすんべ!?」


 ディーは動揺する賊たちを瞬く間に無力化していく。


「とにかく逃げるぞ!!」

「女たちは?!」

「命の方が大事だろ!!」


 仲間がやられ混乱しながらも四方に散らばるのではなく、まとまってフラッドがいる方向に逃げてくる野盗計三人。


「うわっきたっ!」


「なんかいるぞ?!」

「殺せ!!」

「こいつをあの化け物のおとりにして逃げよう!!」


「ひえっ?!」



 野盗に狙いを定められたフラッドが恐怖で奇声を上げる。が、その野盗の殺意をトリガーにフラッドの《生存本能》が発動する――


「――――」

「…………」


 フラッドの綺麗な弧を描いた右足先蹴りがナイフを持った野盗の顎へ的確に叩き込まれ、男は声もなく崩れ落ちる。


「こっ?!」


 フラッドは無言のまま、流れるように驚愕する片手剣の男の鳩尾に頂肘を打ち込み、吹き飛んだ男は声もなく意識を失い――


「ひぃぃ?!」


 最後の一人が鉈をフラッドへ向けて振りかぶるも、フラッドはその腕を取って背負い投げを決め、最後の一人も気絶した。



「おっ、あえっ……?」

「お強い……っ。流石ですフォーカス卿!」


 敵がいなくなったことで《生存本能》が解除され意識を取り戻したフラッドは、セレスの言葉に「はは……」と曖昧あいまいな笑みで応えた。


 そうして十分も満たない間に、賊は全て捕縛され、人実は全員解放できたのだった。


「ありがとうございます!」

「この御恩は一生忘れません!」

「ああっ、神様っ……!」


 解放された女たちは皆抱きしめあって涙を流した。


「うん……よかった……(俺なにかしたか全然覚えていないけど)」


「私からもベルクラントを代表して感謝申し上げます、フォーカス卿。卿のおかげで攫われた巡礼者を救え、衛兵の誰も傷付かずにすみました」


「「「「感謝申し上げます!!」」」」


 頭を下げるセレスに衛兵たち。


「いえいえ、全てはこのディーと、神のご加護のおかげです。とにかく頭をお上げください。とにかく、皆無事でなによりです」


 フラッドの謙虚さに、セレスやベルクラント衛兵たちは感激を覚えたのだった。

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