第十一話「教皇アリス」

 神聖ベルクラント教国は都市国家であり、周囲を城壁で覆われた巨大都市が国家として機能している。


 都市の中央には唯一神サク=シャや純白の唯一女神をまつる大聖堂に、政庁であり教皇や枢機卿すうききょうたちが居住するアルビオン宮殿がある。


 フラッド一行は巨大な城門をフリーパスで抜け、アルビオン宮殿へと到着する。


 外周を鉄柵と衛兵によって厳重に警備された宮殿は、外装も内装も芸術的で豪華で荘厳そうごんな造りである。


「おお……流石はアルビオン宮殿……何度来ても圧倒される美しさだ――」


「何度来ても……?」


「何度も見ても。の間違いでしょう。フラッド様が実物のアルビオン宮殿を見るのは、今回が初めてですが、幼少の頃より書籍等で何度も、大聖堂図やアルビオン宮殿図を見ていらっしゃったので」


 フラッドの失言をエトナがフォローする。


「なるほど、そういう意味でしたか」

「ははっ、言葉足らずで申し訳ない」


 エトナに肘で小突かれたフラッドが笑って誤魔化す。


「それでは、ここからは徒歩で参りましょう。教皇猊下がお待ちです――」



 セレスに案内され謁見えっけんの間に通されるフラッド一行。


 そこには玉座に座った第五十代教皇アリス=クロムウェル五世と、ベルクラントの中枢を担う高位枢機卿たちが一堂に会し、フラッドを待っていた。



「教皇猊下、フォーカス辺境伯がお越しになられました」


「お初にお目にかかります教皇猊下、ドラクマ王国が臣、フラッド・ユーノ・フォーカス辺境伯でございます」


 ひざまずくフラッドに教皇が鷹揚おうように頷く。



 教皇アリス――

 一年前、五歳にして全サク=シャ教徒の長となった幼女教皇。


 現在六歳。


 百センチほどの身長に、雪のような白い肌と髪に、真紅の瞳という女神の相に、髪型は横髪の長いショートボブ、大きな瞳に小さな鼻と薄桃色の唇、年相応の可愛らしい容姿を持つ。


「よくもとめにおうじてくれた、ふぉーかすきょう。こころよりれいをいうぞ」


「ははっ(これで会うのは二度目? になるが、やはりただの幼女にしか見えないな……)!」


「きょうこうのなのもとに、きょうをかんげいしよう。しんたくのきゅうせいしゅよ」


おそれ多くございます」


 教皇アリスの横に控えていた好々爺こうこうやという相貌そうぼうの老神官が教皇に耳打ちする。


(あっ! あいつ、予知夢でサク=シャ軍率いてた神官のじいさんだ! 確か名前は……なんだっけ?)


「ふぉーかすきょう、きけばどうちゅう、おそわれたじゅんれいしゃをたすけてくれたとか」


 セレスが前に歩み出て跪く。


「猊下、申し上げます。フォーカス卿は、道中野盗に攫われた巡礼者を救うため、御自ら使い魔のディー様と共に、野盗十人を瞬く間に無力化し、捕らえられていた四人の巡礼者を救出してくださったのです」


 セレスの言葉に神官たちが声を上げる。


「おお……流石は神託の救世主っ」

「噂は真であったか……」

「それにしてもまた野盗か……」


「いまのはなし、まことであるか? ふぉーかすきょう」


 問われたフラッドが答える。



「はっ! 正確に申し上げますと、セレス殿の魔法で攫われた巡礼者の居場所や賊の数、配置を割り出すことができました。そのおかげで奇襲を仕掛けることができ、さらに使い魔ディーの活躍があって被害者たちを救うことができたのです。賊のほとんどを倒したのは、私ではなくディーでございます。ですので、称されるべきはセレス殿、そしてディーでございます」



 自分の手柄を簡単に人へ譲り、おごらない謙虚な姿勢に神官たちが感嘆かんたんの声を洩らす。

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