第十二話「フラッドの機転」

「猊下、フォーカス卿の行い、まことにサク=シャ教徒として立派なものでございます。後日、恩賞おんしょうをお与えになるべきかと」


「うむ、ちぇざりーにのいうとおりだ。ぜんいんにはぜんかを、あくいんにはあっかを」


 横に立つチェザリーニと呼ばれた男の言葉に頷く教皇。


「猊下、私はサク=シャ教徒として当たり前のことをしたまでです。もし私に恩賞を与えくださいますのなら、被害にあった巡礼者へお与えくださいますよう、お願い申し上げます(ホントになにもしてないのに褒美なんてもらえないよ……)」


 頭を下げるフラッドに神官たちが息をの飲む。


(あの表情……態度……本心だというのか?)


(高潔とは聞いていたが……)


(猊下からの褒美なら、神官ですら断る者は少ないだろうに)


 フラッドの言葉を受けた教皇が頷く。


「うむ。では、そなたのいうとおりにしよう。ではこよ、ははになにをのぞむ?」


「は……(はは? 母?)?」


「わたしはきょうこう。すべてのさく=しゃきょうとのははである。このぜんこうをほめぬはははいない」


「つまり……?」


「猊下はフォーカス卿の働きに、教皇、子の母として応えたく思っていらっしゃるのです」


 老神官の言葉にフラッドはなるほどと納得する。


「ほうようか? あいぶか? くちづけか?」


 教皇の言葉に動揺するフラッド。


「げっ、猊下、子は親が無事で健やかなことがなによりの褒美、それ以上を求めるのはわがままというものですっ」


「それではわたしのきがすまぬ。なにかのぞむことはあるか?」


 納得がいかない様子の教皇。


(特に欲しいモノなんてないけど……あっ、そうだ!)


 ピキンと閃くフラッド。


「猊下、では一つ望みがございます」


「もうしてみよ」



「神託をお聞きしましたが、私自身、ベルクラントになにが起きるのか、なにをどう助けるのか分かりません。今のところ雲を掴むような話です。なので、一箇所にとどまるよりは視野を大きく持ち、行動を制限せず、いろいろな物事を見聞きしたほうがよろしいかと存じます。ですので、ベルクラント内を自由に行動するご許可をいただきたく思います」



 フラッドの大胆な提案にざわつきだす神官たち。


 予知夢では国賓扱いのフラッドは、外出する際にも厳重な手続きをしなければならず、それが面倒で宮殿から出なかった原因の一つにもなっていた。


「フォーカス卿、大司教枢機卿を務めるチェザリーニと申します。もう少し具体的にお話しいただけますか?」


 教皇の側に控えるチェザリーニと名乗った老神官はフラッドの言葉の意味をちゃんと理解したい。という非常に柔らかな物腰である。


「具体的に申しますと、城内や都市の探索、そして猊下のお側にはべらさせていただくことです。もちろん、宝物庫や機密がある場所、足を踏み入れてはならない場所に入らせて欲しいとは申しません。あくまで、ご許可いただける範囲で、ということです」


「なるほど……。もう一つの、猊下のお側に侍る。とは、フォーカス卿が望めば、猊下の聖務に同行し、猊下が聖務を終えられた私的なお時間でも、面会できるようにしたい。というこでしょうか?」



「全て猊下や皆様がお許しくださる範囲で構いません。同じサク=シャ教徒とて、私はドラクマ王国の臣であります。このような提案をしましては、猊下や皆様に、もしや間諜かんちょうとして探りを入れているのでは? と思われてしまっても当然でございます。ですので、あくまで要望として、神託を重んずる一サク=シャ教徒してのお願いだと思ってくだされば嬉しく思います(そもそも教皇の暗殺を防ごうとしているんだから、裏もなにもない本音だし)」



「なるほど……よく分かりました――」


 にこやかに微笑んだチェザリーニが教皇に耳打ちする。


「ゆるす。ただし、ほうもつこやきんしょにふれてはならぬ。くわしくはおってつうたつする」


「ありがとうございます猊下(よっしゃ上手くいった)!」


 うやうやしく頭を下げるフラッド。


「かたくるしいあいさつはここまでによう。かんげいのうたげをよういしている。たのしんでくれ」


「恐悦至極に存じます」


 この後、フラッドに歓迎のパーティーが催された。

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