第八話「馬車の中で」
馬車の中――
フラッドたちと特使は同じ馬車に乗りベルクラントへ向かっていた。
ベルクラントはドラクマ王国の隣国であり、王都から馬車で二週間もしないほどの距離にあった。
「今回は本当にありがとうございますフォーカス卿。ビザンツ帝国との戦の復興の最中というのに、ベルクラントの
セレスが頭を下げる。
「いえ、全ては陛下のご意向です。感謝なら、私ではなく陛下にお伝えください(だから俺がなにか粗相をしたら俺じゃなく国王に責任を求めて)」
「ふふっ、フォーカス卿はドラクマの国士無双と伺っておりましたが、どうやら本当のようですね」
「いえいえ、それは過大評価というものです……。ところで、ディーも一緒でよかったのですか?」
フラッドがチラリとディーを見る。
「はい。この世の全てはサク=シャが創造された。空も大地も人も魔獣もです。神の前では皆等しく尊いのです。それにディー様は現教皇猊下と同じく、女神の
女神の相とは、純白の女神のように、雪のような純白の肌と髪に、紅玉のような真紅の瞳を持つ者を指す。
「ベルクラントでは純白教徒も多いですので、女神の相を持ち、しかも人語を話せるディー様は神獣として大人気になりますよ」
【あまり見世物のようになるのは好きではないのだが……】
純白の女神や、女神の使徒である黄金の従者と翡翠の親友を信奉する者は、純白教徒と呼ばれ、純白教徒とサク=シャ教徒は同一の信仰であり、矛盾するものではない。
ベルクラントという国名も、純白の女神が生まれ育ったとされる聖地の名からとられてる。
「それは大丈夫です。ディー様はフォーカス卿の使い魔なので、フォーカス卿と同じく
【ふむ、ならばいい】
「私のような一従者がベルクラントの国賓とは、畏れ多いことです……」
「そのようなことはございません。フォーカス卿の大切なお方は、ベルクラントにとっても大切な方です。なので、もし非礼なことをされたらすぐに言ってくださいね。その者にはキツいお説教が待っていますから」
「……ふふっ、ありがとうございます」
セレスの裏のない言葉にエトナが微笑を浮かべる。
「確かモルガーナ特使は教皇猊下付き侍女長、でしたか?」
「はいフォーカス卿。私のことはセレスとお呼びください」
「……ではセレス殿、純粋な疑問として、どうして教皇猊下付きの侍女長である貴女が派遣されたのですか? ベルクラントには外交官も多くいらっしゃるはずですが……」
「はい。それだけこちらが本気だ。と、示すためです」
「本気だと示すため?」
「ええ。今回の神託は、ベルクラントではかなり重く受け止められています。今も神学者たちがその解釈を巡って、頭を悩ませているしているほどに。大げさでも誇張でもなく、フォーカス卿はベルクラントの救世主になる。もしくはそれに近い存在だ。と、いうのが今のベルラントにおける、フォーカス卿の認識です」
「そ、それはまた……」
思ったよりも重すぎる使命を科せられていたことに言葉が出ないフラッド。
「ですので、救世主をお迎えする者がただの外交官では失礼にあたる。と、教皇猊下直々に、もしくは教皇猊下に次ぐ位である大司教枢機卿を派遣するべきか。と、
「なるほど……そんなことが……(いやいや、俺の扱い重すぎないか……? そんな期待されても困るだけなんだが……?)」
自分がベルクラントを助ける、ましてや救世主などなろうともなりたいとも思っていないフラッドは内心で頭を抱えた。
「しかし私はご期待されているような存在ではありませんよ……? 本音を
フラッドの言葉にセレスは微笑で応える。
「フォーカス卿、謙遜でもない弱音を言える人は強いですよ。安心してください。神託は下されたのです。卿は望む望まざるに関わらず、ベルクラントを助けることになるのです。そう神は
「は、はぁ……?」
つまり神託、神が言うとおりなら、自分はやる気があるないに関わらずベルクラントを助けることなる。と、セレスが言っていることは理解できたが納得はできないフラッドは曖昧な相づちしか打てなかった。
(フラッド様大変ですね……)
(思っていたよりも主の責任は重大だったのだな……)
エトナとディーが心の中でそう思っていると、馬車が止まった。
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