第十八話「成敗」

「ゲラルト、お前も下がれ」

「フラッド様……」


 心配そうな表情を浮かべるゲラルトに、フラッドは苦笑を返す。


「すまない。だが、法を曲げてでも、自分に嘘はつけないみたいだ」


「…………」


 自嘲じちょうの笑みを浮かべるフラッドに無言のまま頭を下げ、ゲラルトも外へ出た。


「なっ! なにをする気だっ!? 私は素直に投降しただろっ!?」


 不穏な空気を感じ取って後ろ手を縛られたクランツがもがく。


「黙っていろ、ディー」


【了解】

「ぎゅっ!!」


 魔獣形態のディーがクランツの口を塞ぎ動きを止める。


「法の裁きを受けさせれば、コイツに私刑を行うことはできない。だから、これが最初で最後の機会だ。もしここでクランツが死んでも、俺はお前たちを罪には問わない。エトナ」


「はい。フラッド様」


 そう言ってフラッドがエトナから受け取ったのは、クランツの愛用していた鞭であり、フラッドはそれを美女たちに差し出した。


「遠慮は無用だ。お前たちにはその権利がある」


「むぐー!! むごごー!!」


「申し訳ありません……領主様っ……! それでも私は……っ」


 戸惑う女たちの中、先ほどクランツに打擲ちょうちゃくされた女がフラッドの手から鞭を手に掴んだ。


「構わない。存分に恨みを晴らせ」


「……っ。ありがとうございますっ……!」


「まっ、待て……っ! こんなことをしたらどう……」


「どうなってもお前だけは許せない――!!」


 女は思い切り鞭をクランツに向けて放った。



 ベチィッ――!



「ぎゃああああああああああ!!!!」


 一打受けただけでクランツが悲鳴を上げ、のたうち回る。


「この程度でっ……! 今まで私たちが何百何千この鞭を受けたと思っているの……!」


「わっ、私も……!」

「アタシもっ……!」


「まっ、だっ……本当に死んでしま……ぎゃああああ!!」


 触発されたように被害者の女たちが鞭を手に取り、次々にクランツを打擲し続けた。


「サラは打たなくていいのか?」


「はい……。私は打たれたことはありませんので……」



 クランツはサラだけは鞭打ちも凌辱もしなかった。理由はサラがVIPであるから。ということだが、詳細はクランツにしか分からない。



「そうか……」


 フラッドは頷いて、クランツに監禁されていた女たちを見た。

 そうして女たちがクランツを打ち終えるのを待って口を開いた。


「皆、もう一度言うが、俺はフォーカス領領主、フラッド・ユーノ・フォーカス伯爵だ! このクランツは俺の部下、当家の家令だった! 故に、今回の件は俺に責任がある! 皆、どうか許してくれ!」


 頭を下げるフラッド。


「そっ、そんな頭を上げてくださいっ!」

「領主様は悪くないです!!」

「全部こいつが悪いんですよ!!」


 サラを始めとした被害者の女たちは頭を上げてくれるように懇願こんがんする。


「……ありがとう。そう言ってもらえると俺も救われる。皆の今後のことについてだが、行き場が無い物は全員我が屋敷、フォーカス邸で客人待遇で引き取る! その傷を治せるように医者を呼び尽力する! もし治癒できなかったとしても、嫁にも行けないと悲観することはない! ここにいる皆はこの俺が生涯面倒を見るからだ!! 傷を理由に断るような小物の世話になるくらいなら、俺の下で生涯暮らせばいい!!」


「ご領主様……」

「あっ……ああっ――」

「なんて……」


 フラッドの提案に被害者の女たちは涙を流した。



「さぁ行くぞ! 今後、お前たちにあるのは明るい未来のみだ!!」



「…………」



 サラは夢でも見ているような心地で、解放されたことに歓喜する被害者の仲間たちとフラッドを見た。


 なんて素晴らしく立派なお方なのだろう。暗愚、バカ領主だと聞いていたが、全て誤解だと分かった。


 自分はこの方にお仕えしよう。いや、したいのだとサラは理解した。


 吊り橋効果なのか、どこか放っておけないように見えるフラッドに対する、カインへ向けられなかった母性なのかは判らないが、それでも、今初めて自分は自ら望んで仕えたい相手に巡りあったのだ。と―― 

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