第十七話「サラ・ファーナー」

 クランツ邸・地下牢――


「はぁ……」


 そこではサラ・ファーナーが独居房の中、一人ため息を吐いていた。


「ここで終わりなのかな……。カイン……最後に一目でも、アナタに会いたかった……」


 これまでのクランツとの会話から、自分は絶対に助からないこと、それもそう遠くないうちに自分は殺される。そう理解していたサラは全てを諦めていた。


 サラ・ファーナーの人生は、決して幸福とは言えないものであった。


 孤児として生まれたサラは、その美しい容姿を気に入られ、孤児院からベルティエ侯爵家に女中として引き取られる。


 その後すぐにお手つきとなり、現ベルティエ侯爵の子を身ごもりカインを出産する。


 カインが五歳になるまでは、共に屋敷の屋根裏で暮らしていたが、サラの存在に堪えかねた侯爵夫人によってサラだけ領地追放され、今後二度とベルティエ領の土を踏んではいけない。カインのことについて口外してはいけない。破った場合両者の命はない。と、脅されカインと生き別れになる。


 そして流れ着いたフォーカス領で一人寂しく人目を忍んで暮らしていたが、クランツという変態家令に目をつけられ地下に監禁されて今に至る。



 もう人生に何の希望も見出せない。


 朽ちて死んでいくだけだ。



「フォーカス領領主、フラッド・ユーノ・フォーカス伯爵だ!! 皆を解放しに来た!! 生きている者は返事をしてくれ!!」


 そう思っていたのに――


「お前たち! くれぐれも丁重に!」


 その声と共に大勢の重い足音が聞こえ、入り口に近い牢屋から同じく監禁されていた人の歓喜の声が響いてくる。その声の連鎖が徐々に近づき――


「えっ……?」


 思わず驚いてしまうほど、サラにとって自分たちを助けに来てくれた救世主は、あまりにも輝いて見えた。


 艶めく金髪とどこまでも澄んだ青い瞳は、おとぎ話に出てくる王子様のような、むしろそれ以上の絶世の美男子そのもので、日の入らぬ地下であっても輝いて見えるほどに。


「サラ・ファーナーか!?」

「はっ、はいっ……!」


 サラは返事をするのが精いっぱいだった。


「エトナ!」

「はい、フラッド様」


 エトナと呼ばれた少女が牢の鍵を開け、枷を外してくれる。


「サラ・ファーナー。探したぞ」

「さっ、探した……? 私を……?」


 まさか、ベルティエ家の関係者か? そうサラが身構えると、目の前の息子に年が近い美少年は澄んだ瞳を向け、悲しげに歪ませると、サラを抱きしめた――


「詳しくは言えないが、事情は知っている。辛かっただろう……サラ……」


「そっ……そのような……っ、こっ……とは……」


 目の前の少年がどのような意図があるのかは分からない。が、今の言葉は嘘ではないと理解できて、サラは何故か涙が止まらなくなった。


「う……あ……ああ――っ!」



 クランツ邸・ロビー――



「さて……これで監禁されていた者は全員か……」


「はっ! クランツの証言からも間違いはないかと!」


 無事サラ・ファーナーを確保できたフラッドは一安心しつつ、このままでは彼女たちに申し訳ない。と、いきどおりを感じていた。


「被害者の彼女たちとクランツ以外は皆下がれ」


「「「「はっ!!」」」」


 フラッドの言葉にエトナ、ディー、ゲラルト以外の者は外へ出て行った。


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