【二巻制作決定!】やり直し悪徳領主は反省しない! ~二周目は好き放題の平民生活を目指したら、なぜか名君扱いされるんだが!?~

桜生懐

プロローグ

「どうしてこうなった……?」


 処刑台の上に立つ金髪碧眼の美青年、フラッド・ユーノ・フォーカスは、絶望に顔を歪めていた。


 ぼろきれのような囚人服に、魔法封じの首輪、手枷てかせ足枷あしかせを着けられ、目の前には斬首台があり、その横では大斧を持った処刑人が控え、刑の執行を待っている。



「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」



 処刑台を囲むように押し寄せた見物人たちが、口々にフラッドの処刑を叫ぶ。



「このクソ領主!!」「クズが!!」「報いを受けろ!!」



 浴びせられる罵声、だがフラッドは、何故今自分がここまで糾弾きゅうだんされているのか、理解できていなかった。


「流石に言い過ぎじゃないか……? 俺は領主として……伯爵として、務めは果たしてきたはずなのに……」


 なにがダメだったというのだろう? 


 飢饉ききんの対策が甘かったこと?


 いや……麦がダメなら米とか虫を食えって言ったし……。そもそも天災を俺一人の責任にされても……。


 帝国の侵略に上手く対処できなかったこと?


 いや……他国からの侵略なら領主じゃなくて国の責任じゃね……? 


 自領で起きた反乱を鎮圧できなったこと?


 いや……そもそも反乱なんて起こすほうが悪いだろう……? 


 そのような回想にも似た思いが、フラッドの脳内をよぎる。



「うん……やっぱり俺悪くなくね……? クランツも大丈夫だって言ってたし……」


 だがその領内の統治を任せていた家令かれいのクランツは、反乱軍に寝返り今や敵となってしまっていた。


「前に進め!!」

「ぐっ!?」


 処刑台への歩みを止めていたフラッドを衛兵が蹴り飛ばし、立場も忘れイラっとするフラッド。


「コラっ!! いくら囚人とはいえ元領主、伯爵だぞっ?! もっと敬意をもって接するべきじゃないかっ!?」


「寝言をほざくなっ! まだ自分の立場が分からないのか!」


「黙って事態が好転するのか!?」

「……もういい、黙っていろ。おい」


 逆切れするフラッドに、処刑人の助手たちが手を伸ばす。


「まっ、待て! 今のはナシだ! やっ、やめろっ!!」


 叫びもむなしく、処刑人の助手たちがその両手を抑え、斬首台へ跪かせる。


「これより、圧政により多くの民を苦しめた大罪人、フラッド・ユーノ・フォーカスの斬首を執行する!!」



「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」



 観衆たちが声を上げる。


「まっ、待てっ! お前たち誤解だっ!! そもそも罪状がおおざっぱすぎるだろ?! なんだ『圧政により多くの民を苦しめた大罪人』って!! 主語が大きすぎて肝心な内容が端折はしょられてない?!」


 死にたくないフラッドは、脳をフル回転させ、得意の小賢しさを発揮し、皆を説得

しようとする。


「殺すことよりゆるすことのほうが大事だろう?! 皆、ここは一つ寛大な心で今までのことを水に流そうじゃないか!! 俺は皆をゆるす!! だから皆も俺をゆる……おぼぶっ?!」


 処刑人がフラッドの腹へ重い一撃を見舞った。


「お前が言うな。とにかく黙れ」

「げふっ……! ヴォエッ……!」


 腹を抱えてうずくまるフラッド。


「え、エトナッ……! エトナッ!!」


 万事休すと悟ったフラッドは、叫び、抵抗しながら自身の背後に控える従者、エトナを見た。



 黒い髪と金色の瞳を持つエトナは、フラッドと同じくボロボロの囚人服に、手枷足枷が着けられており、フラッドの次に処刑を待つ身であった。


「フラッド様……」


 エトナはフラッドの呼びかけに応えるようにその瞳を見返し、諦めてください。と言うように静かに首を横に振った。



「俺は、俺は殺されてもいい! だがエトナ、エトナだけは助けてくれ!!」



「ふざけんな!!」「お前らは同罪だ!!」「とっとと死ねクズが!!」



「エトナはクズじゃない!! クズは俺だけだ!!」


「フラッド様、もうどうしようもできません。せめて最後くらい、堂々とされてはいかがですか?」


「ああ……」


 フラッドの表情が絶望に沈み、処刑人が斧を振り上げる――



「嫌だ!! 死にたくない!! 死にたくなーーーーい!!!!」



 その叫びもむなしく、フラッドもエトナも処刑されたのであった――


 ――

 ――――

 ――――――


 フラッド・ユーノ・フォーカス――

 ドラクマ王国貴族、フォーカス伯爵家の嫡男ちゃくなんであり、両親である伯爵夫妻が流行病により死去したため、若くして家督を継ぐ。


 自分とその関係者だけがよければそれでいい。という短絡的な性格で、政務は全て部下に任せ、自身は遊興ゆうきょうふけり、王国内で大飢饉だいききんが発生したときも、多くの領民が餓死するなか、なんの対策もせず自身は今までどおりの豪奢ごうしゃな生活を送ったため、領民たちから恨みを買い、反乱を起こされ、帝国の侵攻を招き処刑される。


 後にドラクマ王国史を編纂へんさんした歴史の大家、パウサニアス・テルモピュライは、その著書の中でフラッドのことをこう評している。


 帝国の侵攻を許し、王国を滅亡させかけた大罪人でありながら、その人間性は極めて凡愚ぼんぐ。取るに足らない、語る価値もない小物。と――

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