第四十九話「クライマックス」
アリスがなにを行おうとしているか理解したチェザリーニが初めて動揺の表情を浮かべる。
「まさか……殉教!?」
まさかアリスが自身を排除するために、他害のために殉教を用いるなど欠片も思っていなかったチェザリーニが動揺する。
「どうか、わたしのあいするひとびとをおすくいください――」
アリスの体が発光する。
「やめなさいアリス!! どうしてそこまで私の邪魔をしたいのです?!」
チェザリーニが魔力放射の出力を上げるが、耐え続けるフラッドを崩せない。
「クッ!! 邪魔な!!」
「殉教……?」
絶句するエトナ。
「わたしのあいするひとびとを、おびやかすものたちのたましいをおすくいください。えいえんのそうの――」
「!! いけません!!」
結句を終える前に、エトナがアリスの両肩を掴んで無理やり自分へ向かせる。
「今、自分を犠牲にして私たちを助けようとしませんでしたか!?」
アリスが自分を犠牲にすれば、自分やフラッド様は助かるかもしれない。けど、それがなんだ? という、どうしようもない怒りがあふれるエトナ。
「えっ、えとな……?」
無理矢理殉教を中断させられたアリスは、初めて見るエトナの怒りに動揺する。
「しましたね!?」
「で……でも、そうしないと……えとなが……ふらっどが……っ」
「見くびらないでください! アナタみたいな子供を犠牲にして得られる命も力もいりません! 私も! フラッド様も!!」
「で、でも……わたし……ふたりに、しっ、しんでほしくない……からっ」
涙ぐむアリスを力強く抱きしめるエトナ。
「その気持ちだけで十分です! 私は神なんて信じていませんがフラッド様は信じています!! フラッド様はバカでアホで間抜けで小心者でお調子者で反省しませんけど、やり直した今は最強で無敵なんです!! あんな小物に負けることなんてありません!!」
「えっ、えとな……っ」
「強がるのはやめてくださいっ。アリス様は年相応の子供なんです……! わがまま言ってやりたいようにすればいいんです! なにが殉教ですかっ」
「ごっ、ごめんなさい……っ。あああ、うわぁ――」
エトナの胸の中で涙を流すアリス。いくら覚悟を決めていても、本当は殉教したくなかった。自分の願いでチェザリーニを傷つけたくなかった。けど大切な人が死んでしまうのはもっと嫌だ。感情があふれてぐちゃぐちゃになる。
「はっ、ははははは! なんて愚かな娘なのでしょう! アリスの殉教が成されれば自分だけは助かったかもしれないものを、一時の感情で棒に振るとは度し難いですね! けれどそれが人間です。お望み通り皆苦しまずに天へ送って差し上げましょう」
「そうでしょうね――」
エトナももう誰も助からないことは理解していた。自分もフラッドもアリスも。
けれど、アリスを犠牲にして自分とフラッドが助かるくらいなら、最後までアリスに希望をもたせたまま、皆で逝くほうがいい。
きっとフラッドもそう思ってくれているだろう。と、覚悟していた。
「フラッド様!! 聞いていましたね!? 私とアリス様が死んでもいいんですか!? 私の主なら気張ってください!!」
「ふらっどぉ! がんばぇ!!」
「はははははは! 無駄ですよ! これで終わりです!」
勝利を確信し嘲笑するチェザリーニだったが――
パアァ――――
消し飛んだ天井から、神々しい
「――――」
フラッドの髪色が金から白へと変わり、深紅の瞳は
「フラッド様……?」
「めがみのそう――」
エトナとアリスが驚きに目を見張る。
「――――」
純白の魔力に包まれたフラッドが右手をかざすと純白の魔力が照射され、チェザリーニの魔力が徐々に押し返されはじめる。
「はっ、はぁっ?! なんだそれはっ?! 女神の相だと?! 殉教は成されなかったはずなのに!?」
チェザリーニが驚愕の表情を浮かべる。
「フラッド様!」
「ふらどぉ!」
二人の声援に呼応するかのようにフラッドの輝きがます。
「ばっ、ばかなっ?! なんだこれはっ!?」
ぶつかり合う純白と漆黒と魔力。拮抗するように見えたのは一瞬だけ、白が黒を消し去っていく――
「ふっ、ふざけるなぁ!! なんだその力は!? 女神の加護とでも言うのか!? どうして私ではなくアナタのような者が神に愛される!?」
純白の魔力がチェザリーニの魔力照射を打ち消し、展開させていたバリアにヒビが入る。
「私は枢機卿如きで止まる男ではない!! 教皇になるのだああああああ!!!!」
バリアは突き破られ、神の雫は粉々に砕け散り、チェザリーニは純白に飲み込まれた。
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