第四十八話「カイン・カリギュラ・リンドウ・ネロ」

 カイン・ディーたち――



「チェザリーニ様……申し訳ありません……」


 カインの剣がクラッススの胸に深々と突き刺さる。


「互いに譲れぬモノがあるとはいえ、貴方は強かった。実力も想いも、敬意を表します――」


「こちらもだ……頼む……投降した者は……助けて欲しい……」


「確約はできません。ですが、できる限りは尽くします」


「かん……しゃす……る――」


 私兵団の指揮官であるクラッススが討ち取られ、今度こそ完全に瓦解がかいする私兵団。



【しまいだな】

【コーン!】


「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」


 兵たちが勝利の歓声を上げる。



「全隊その士気を維持したままアルビオン宮殿に向かいます!」


「「「「はっ!!」」」」



「ベルクラントの魔獣王殿、魔獣殿たち、助かりました。本当にありがとうざいます」


【コン!】


【ここまで来たなら最後までついていくといっている】


「分かりました、では行きましょう!」



 ベルクラント郊外――



「ふん、こんなものか。口ほどにもなかったな」



 フードの男の部下はカリギュラに傷一つつけることなく、消し炭となって死体も残さず全滅していた。


「ばっ、バカなっ……!?」


 想定外の事態に愕然とするフードの男。



「雑魚はもういないのか? では、お前の番だ」



「ふっ……甘く見ないでいただきたい……! 私は、世界を変革する選ばれし存在なのだ!!」



 フードの男が魔道具のようなものを片手に、秘めていた魔力を解放する。



「ほう? 先の雑魚よりはできるようだな――」



 カリギュラも雑魚には見せなかった実力の一部を解放させた――



 アルビオン宮殿正門――



「見事だ、ネロ殿――」


 リンドウは血塗れになりながらもネロの攻撃をギリギリで躱し続けていた。


「もう諦めろ、楽にしてやる」


 ネロが一時的に魔法を解除し、姿を現す。


「ふふっ。お情け感謝する。だが、私もまだ負けたワケではない」


「どういうことだ?」



「よく分かり申した。その魔法、人の身のみで勝つことあたわぬと。どれだけ五感を研ぎ澄ませようと、躱すだけで精一杯。時間が経てば経つほど不利。まこと、非の打ち所のない魔法、感服いたす」 



「…………一撃躱すだけでも驚嘆きょうたんに値するのだがな――」


 ネロが独り言つ。


「だったら、どうする?」


「私の本気をお見せし申す」


 リンドウが太刀を鞘に納め、居合の構えを取る。


「なるほど、魔法か」


「然り。我が魔剣、受け取られよ」


「いいだろう――」


 ネロの姿が消える。



「斬り結ぶ、太刀の下こそ地獄なれ。魔剣・合撃がっし――」 



 リンドウの体と太刀へ魔力が流れ込む。



(リンドウ殿の魔法、どのようなものだ……?)



 目の前の武人に油断も隙も無い。絶対に甘く見てはならない。そう自分に言い聞かせるネロ。



(何故納刀した? 神速で抜刀する魔法? それとも刀は関係ないのか?)



 どれだけ考えてもリンドウがどのような魔法を扱うか分からない。



(強化系? だが身体能力や五感が強化されても俺の魔法は破れない。危険だが……試すか?)



 リンドウの間合いから離れ、先ほど地面から拾っていた小石をリンドウに投擲するネロ。 


「…………」


 躱すこともせず、小石はリンドウの大袖に当たって落ちる。



(動かん……か。動けないのか……)



 このまま待っていても埒が明かない。



(しかし……俺も、待っていられる状況ではない――)



 リンドウに斬られた傷からはいまだ血が流れ続けており、ネロの体力を奪っていた。

 待てばリンドウの魔力が尽きるか、自身の命が尽きるかの勝負となってしまう。



(このままだと、俺が先に倒れるな)



 冷静に判断したネロは、多少の危険をおかしてでも勝負を決めることにする。



(どのような魔法を持とうが、避けられない一撃を見舞えばいい――)



 ネロは冷静に、リンドウの背後に移動し、剣を両手に握って大上段に構えた。



(終わりだ――!!)



 どのような強化系の能力であっても回避できない、ネロの必中致命の一撃がリンドウの首に打ち込まれ――



 ザン――ッ!!


「…………なっ?!」


 ネロの剣がリンドウに当たるよりも早く、その一撃を上回る速度で、振り向きながら抜刀した袈裟斬りがネロに打ち込まれていた――


「がはっ……! なにが……起こった? なんだ……その……動きは……っ?!」


 ネロが剣を落とす。


 ありえない。物理法則を無視したような速さと挙動だった。それに何故自分が背後にいると気付いたんだ?



「なるほど……だから魔法か……」



 胸と口から血を流しながら、ネロは倒れそうになる自分を踏みとどまらせリンドウを見る。



「うむ。間合い内で受けた攻撃に対する物理法則すら無視した完全反撃、それが私の魔法だ」



「完璧なカウンター……なるほど……。逆を言えば、攻撃されなければ、発動しないわけか……」



「いかにも」


「納刀し居合いの型を取ったのも、こちらの攻撃を誘うためか……。まんまと引っかかってしまったな――」


「だが、小石を投げられた時は見切られた。と、内心焦ったぞ」



 リンドウの正直な言葉にネロは笑った。



「はっ、ははっ……。アレ……だな……。お見事……だ――」



 仰向けに倒れるネロ。



「お前が……相手でよかった……」


「光栄だ、ネロ殿。なにか、言い残すことはあるか?」


「セレスに……すまなかったと……伝えてくれ……」


「承った」


 セレスが助かっていると確信している。ということは、やはり加減して斬った、ワザと逃したのだろうとリンドウは理解する。



「…………」



 ネロが薄れ行く意識の中で思うのは、チェザリーニのことだった。


 確かにチェザリーニは狂ってしまった。

 けれど、自分やセレスに向けられた愛情は本物だった。アリスへの、孤児たちへの先生の愛に偽りはなかった。と。



「先生……先に逝きます……。サク=シャよ……どうか……先生を……お赦し……ください――」



 それがネロの最後の言葉だった。


 息を引き取ったネロへ片合掌するリンドウ。


「ネロ殿、貴公はまことに強者であった。その魂が救われることを願わん。永遠の相の下に――」

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