第十一話「後継者」

 魔獣保護令が発布されると、ディーの働きかけもあり、魔獣被害は激減していた。


 同時に凶悪魔獣を単独で狩りに行き、倒すどころか使い魔にして帰ってきたフラッドに対し、フォーカス領領民たちは、バカ領主と嘲笑ちょうしょうしていたフラッドへの評価を多少改めていた。


「まさかあのバカ領主がなぁ?」


「けど魔獣の被害が激減したのは事実だ」


「顔だけが取り柄ってワケじゃなかったんだねぇ……」


「そもそも魔石業者のクソ野郎共がいけねぇんだ。俺はアイツらが魔獣の子供を殺すのを見たぞ」


「威張りくさってた魔石業者もざまぁみろだ」


「けど魔石業者はバカ領主とつるんでたって話じゃないのかい?」


「賄賂が少なくなって切られたんじゃねぇのか?」


「「「「ぎゃははっ!!!!」」」」



 フォーカス邸・食堂――


「うむ……美味い……。ジャガイモの風味がバターとマッチして最高の味わいだ……」


 フラッドは昼食に出されたジャガイモ料理を食べながら、満足気に頷いていた。


「料理長、よくやった。これからも毎食一品は必ずジャガイモ料理を出すように。同じレシピでもいいが、俺がオーダーしない限り、できれば毎食違うものを出してくれ」


「か、かしこまりました……」


 料理長や使用人たちは、毎日喜んでジャガイモ料理を食べるフラッドに対し「ついに頭がおかしくなったのか?」といぶかしんでいた。


「どうだ、ディー? バカにしていたが、ジャガイモは美味いだろう?」


【ああ、確かに美味いな。そもそもバカにしていないぞ。魔獣はジャガイモを主食にする種もいるからな】


「だったらなんであのとき激怒していたんだ?」


【お前は友諠ゆうぎを結びに来た相手が、ペットのエサを差し出して「食べろ」と言われて喜ぶのか?】


「なるほどな……だが誤解は解けたろう?」


【ああ。十二分にな】


「それはなによりだ」


「ではフラッド様、そろそろ今後のことについて話し合いましょう」


「そうだな。さすがにゆっくりしすぎた」


 フラッドは昼食を終えると、エトナとディーを引き連れ執務室へ移動した。



 フォーカス邸・執務室――


「それで今後についてだが、とりあえず、俺が庶民になるために後継者を探したいと思う」


「それがよろしいかと思います。ちなみに目星はついているんですか?」


「それなんだが……。一つ妙案が浮かんだんだ……」


「……期待はできませんが、なんでしょう?」


「ふふふ……それはな……」


 もったいぶるようにフラッドが溜める。


「なんかイラッとするんで、早く話してもらっていいですか?」


 エトナにツッコまれつつも、もったいつけるようにしてからフラッドは口を開いた。



「反乱軍を率いていた、あのクソガキを俺の後継者にしてしまうのだ!!」



 フラッドの妙案にエトナは驚いたように、少しだけ目を見張った。


「そのクソガキ……というのは、カイン・ファーナー・ベルティエのことでいいんですよね?」


「そんな名前だったか? 顔は覚えているが名前はよく覚えてない」

 


 カイン・ファーナー・ベルティエ――


 フォーカス領と隣接するベルティエ領、ベルティエ侯爵の庶子。


 フラッドよりも三つほど年下で、艶めく黒髪にうれいを帯びた紫の瞳を持つ童顔の美少年。


 フラッドのことを激しく憎み、フォーカス領への侵攻を企てる帝国と内通して、フォーカス領で反乱を引き起こし、フラッドとエトナを捕らえ処刑した張本人。



「驚きました……。フラッド様とは思えない良案ですね……」


「はっはっはっ! だろう!」


「ですが、いいんですか? 前世でフラッド様を処刑した相手ですよ?」


「だからだ!! ヤツは今世で俺の下僕として前世の罪を償ってもらう!! 俺の後継者ということで俺が庶民になった後も、ずっとこの、責任だ責務だの頭が痛くなる貴族の世界で生き続けさせるのだ!!」


「てっきり復讐のために殺すかと思ってましたよ」


「確かに、俺はともかくエトナを処刑したのは万死に値する罪だ! が、この世界ではまだ悪事を働いていないからな。それに、殺すのはちょっとやり過ぎる感があって嫌なんだ!」


【臆病なのか優し過ぎるのか、どっちなんだ?】


 ディーの問いかけにエトナが答えた。


「もちろん前者ですよ。まぁ、フラッド様はお優しい面もありますから、一概には言えませんけどね」


「そもそも俺に親族もいなければ貴族間のコネもツテもないから、消去法であのクソガキのツラしか浮かばなかったのもある」


「友達もいませんしね」


「うっさいわ!!」



「まぁ、理由を聞いてがっかりですけど、確かに悪くありません。他領出身でありながら、ここフォーカス領で民をまとめ反乱軍を組織したこと。領主ですらない存在でありながら、帝国と対等な条件で内通できたこと。その後一気に蜂起ほうきして、フラッド様が対策する間もなく領内を掌握したこと。その後の統治も問題なかったようですし、指導力も政治力も非凡と評せます。実績も十分です」



「だが一つ解せんのは、奴はどうしてわざわざ他所よそからやってきて、俺を目の敵にしていのか? だ」


「ああ、それですか。カインがフラッド様を怨んだ理由は、ちゃんとありますよ」


「なんだエトナ、奴のことを知っているのか?」

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