第二十四話「刷新」

 カインの執務室――


 カインが(本来ならフラッドがやるはずの分も含めた)書類仕事をしていると、執務室のドアがノックもなしに勢いよく開かれた。


「カイン! いるか!!」

「フラッド様! いかがしましたっ!?」


 入ってきたフラッドを見ると、カインは即座に作業をやめ、嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。


 カインは自身が仕事を覚えてから、フラッドと接する機会が減って寂しくなっていたのだ。


「!! なんて可愛い奴なんだ……っ! よーしよしよし!!」


「あっ……ありがとうございます……っ!」


 フラッドがカインの頭と顎を撫でると、カインはくすぐったそうに微笑んだ。



「フラッド様、本題を忘れてません……?」



 エトナの言葉に、フラッドはカインに会いに来た目的を思い出した。


「はっ! そうだカイン! 実は折り入って話がある!」

「はいっ! なんでしょう!」


「我がフォーカス量の食料備蓄率を増やしたいと思う! できれば今の数倍にしたい!」


「なっ、なるほど!」

「できるかっ!?」

「無理ですっ!!」

「判断が早いっ!!」


 カインは処世術もマスターし、必要とあればおためごかしも阿諛あゆ追従ついしょうこびへつらいもするが、自身が尊敬し、絶対の忠誠を誓っているフラッドに対してだけは、その顔色を見て事実を曲げるようなことは言えない、真っすぐな少年に育っていた。


「何故だっ!?」


「戦争をしているような有事なら、他の予算を削って無理をしてでも可能ですが、現在のフォーカス領は、王国内での標準的な備蓄率は満たしておりますので、これ以上の備蓄に割く予算がないのです……」


「むむっ……! そう言うと思ってこれを用意した! 見ろ! ここにある全ての部署を解体し、全ての人員を俺の名の下に解雇するのだ!!」



 そこにはゲラルトに集めさせた、クランツと共に利権を貪っていた領内政治機構の部署や人物が記されたリストがあり、さらにそこへフラッドが自身の前世の記憶(自分を裏切った人間は全員覚えている)を加味し、エトナがさらに添削した解体・解雇リストがあった。



「こっ、これは……」

「どうだ? これでかなり予算は浮くだろう?」


「確かに、これなら大幅に予算が浮きます……。フラッド様がおっしゃられる食糧の備蓄も問題ないかと……」


 そもそもなんで急に備蓄なんて急ぐのだろう? と思うカインであったが、フラッド様のことだ。きっと自分には及ばないほどの深いお考えあってのことだろう。と、思考放棄していた。


「だろう? 今すぐに執行だ!」

「はっ、はいっ!」



 汚職部署――


「おっ、横暴だ! どうして我々が解雇されなければならないのだ!?」

「そうだ! このフォーカス領に長年尽くしてきた我々になんて仕打ちだ!!」

「ストライキだ!! 絶対に認めんぞ!!」



 抗議する汚職役人たちに、ゲラルトは無言のまま剣を抜き、机に突き刺した。



「「「「ひっ!?」」」」


「フラッド様からは、抵抗するなら汚職罪で逮捕せよ。という命を受けている。連行されるか、素直に職を辞すか、選べ――」


 そうして大量解雇が行われ、フォーカス領では無駄な予算の大幅削減がされたうえに、汚職に塗れた人事の刷新さっしんもされたのだった――

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