第二十五話「カインの改革」
フラッドの執務室――
「進捗のご報告です」
「ご苦労カイン。順調か?」
パチ、パチ、と、サラに爪を切らせていたフラッドがカインに向く。
「はい。フラッド様のご断行のおかげで、フォーカス領の予算は大幅な余裕ができました。これでフラッド様がおっしゃられた、食料の備蓄も可能となりました。ですが……」
「なんだ? 遠慮はいらん、思うことがあれば言ってくれ」
「フラッド様、次は左手を」
「ああ」
サラへ左手を出すフラッド。
「食料の備蓄だけに回すには、大過ぎる予算なのです……」
「なるほど……(余った予算も備蓄に回せとは言いにくい空気だ)。目的の備蓄率を達成できるなら、残りは民に還元してやればいい(民に媚びておいて損にはならないだろ……)」
フラッドは給付金的なものを出してやれ。という実に安直な意味で言ったのだが、カインはそう解釈しなかった。
「!! つまり! 余剰金を用いて、公共事業を推進して領内を発展させよ。とうことですね?!」
フラッド様のことだ。最初からこのことを見越しておられたのだろう。汚職部署解体・役人の大量解雇も全てはこのためだと。風通しをよくしてから、領内の政治を一変させる。それこそがフラッド様の本当の狙いであったのだ。と、カインは受け止めていた。
「えっ(急に難しい話されても困るんだが)? そ、そのとおりだ!」
よく分からないが空気を読んだフラッドは
「カイン、俺の真意に気付いたからには、俺がなにをしたいか、理解できているな?」
「はっ大筋は……!」
「(マジか……俺なんにも考えてないのに……)ならその役目、お前に任せる。いいな?」
「ぼっ、ボクが……ですか……?」
まさか自分が指名されるとは思っていなかったカインが動揺する。
「ああ、お前以上の適任はいないだろう。頼んだぞ、カイン」
爪切りが終わり、次は爪を磨かれながらフラッドが微笑んだ。
「あっ、ありがとうございますっ!」
カインは感動していた。
実の家族(サラ以外)にすら冷たく疎まれていたのに、よそ者であり、血すら繋がっていないフラッドが自分をここまで信頼し、領内の政治を任せてくれるなんて、どれほど自分は果報者なのだろうかと。
「フラッド様のご期待に応えられるよう、励むのですよカイン」
フラッドの磨いた爪の粉をふーと吹きつつ、サラがカインへ微笑んだ。
「はいっ!」
改革中――
「商人ギルドや農民は領で保護します! 新規の鉱山は発見できませんか?」
「カイン、鉱山ならディーが見つけたぞ。あと、あのハルハ川、治水しておかないと危ないぞ」
「ありがとうございます! 貿易・交易はクランツに冷遇されていた商人たちの中で、大きなパイプを持つ者がいるので、その者たちに主導させましょう! 殖産興業を始めるものには補助金を出します!」
カインは旧来的な重農主義であったフォーカス領を、重商主義へ舵を切る大改革を行い見事に成功させた。
帝国領とも隣接するフラッド領で貿易・交易を促進し、殖産興業を勧め、商人の権利を認めると同時に農民の保護も行い、農地開発を平行させ、また、フラッドもエトナ協力のもと、前世の知識を活かして治水等の助言で貢献し、さらにはディーの魔獣ネットワーク情報により新鉱山も発見し、半年も経つ頃にはフォーカス領は空前の好景気を迎えていた。
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