第二十六話「ジャガイモ」

 カインの経済対策が大成功し、大飢饉が半年後に迫った頃。



「確かに食料の備蓄はできた……。経済的にも余裕はある……。だが不安だ……っ!」 



 フラッドは自室で、エトナに耳かきされながら不安がっていた。


 もし飢饉が前世どおり到来したとしても、経済的にも食糧の備蓄量的にも問題ないのだが、それでも、運命の日へ近づくごとに、フラッドの不安は募っていた。


「対症療法しかできてませんからね。あと、あまり動かないでください。鼓膜やられますよ」


「なにかこう……もっと根本的な対策はないものか……」


 エトナの柔らかい太ももに頭を乗せながらフラッドが唸る。


「あの麦病自体をどうにかしたいと?」

「それができたら苦労しないんだが……」


「無理じゃないですか? 前世だと、王国最高峰の植物学者たちが研究しても、原因が判らなかったみたいですし、ましてや素人の私たちが、解決できるわけありませんよ」


「マジか……今更だが、予防とかできないのか?」


「無理でしょうね。なにせ、過去に類を見ない新型の植物病だったそうで……。ふーっ。次は左を向けてください」


 エトナがフラッドの耳に息を吹き、フラッドはごそごそと向きを変えた。


「新型の植物病?」


「はい。しかも、何故か麦病が流行したのはこのドラクマ王国だけで、帝国や他の隣国は大丈夫だったので、人為的に造られた病原菌説もでたくらいです」


「なるほど……。事実はどうあれ、打つ手なしだったわけか」

「はい。麦病自体はどうしようもありません」


「よく分かったが……なら麦病以外で打つ手があれば……。何かないものか……。むむむ……」


「浮かぶといいですねー」



 悩むフラッドとは対照的に、リアリストであるエトナは、飢饉対策は食糧備蓄以外に方法はない。と、割り切っており、その点においては淡白だった。



 その後もフラッドはアホな頭を振り絞って対策を考えるも、バカの考え休むに似たりなので、良案が浮かぶわけもなく、そのまま夕食を摂ることにした。


「今日は潰したジャガイモに、ひき肉と香辛料を入れ、混ぜたものを揚げてみました。名付けて、潰し揚げジャガイモでございます」


 料理長はここ一年でジャガイモに対する忌避感がなくなり、むしろ新しくジャガイモ料理を考えることが楽しみになっていた。


 最初はジャガイモを喜んで食べるフラッドにドン引きしていた使用人たちも、その美味しさに気付いた今では、喜んでジャガイモを食べるようになっており、それはカインやゲラルトも同じであった。


「美味いっ! 素晴らしい腕前だ料理長!」

「ありがとうございます!」


 下がっていく料理長。フラッドは料理に舌鼓を打ちつつも、飢饉のことが頭から離れなかった。


「美味い……流石はジャガイモだ。無限のポテンシャルがあるな……。逃亡のときお前に命を助けてもらった恩は忘れてはいないぞ……」


 このときフラッドは「あれっ?」と思った。



「……。そういえば……ジャガイモは麦病に罹ってなかったよな……? あれ?? エトナッ!?」



 フラッドは後ろに控えていたエトナを見た。エトナも以心伝心といったように頷く。


「はいフラッド様。私も今気付きました。天啓でございますね」


 エトナはパッと見、いつものように平然としているが「言われてみれば確かに……!」と、本気で驚いていた。



「カインとゲラルトは今どこだっ!?」

「完成した鉱山の視察に行っています。そろそろ帰ってくるはずですが」

「早馬を飛ばし、急いで帰還するように伝えてくれ!」

「かしこまりました」



 フラッドは急いで食事を終えると執務室へ行き、領内の食料生産量の資料に目を通し、ほどなくして慌てた様子でカインとゲラルトが執務室へやってきた。

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