第二十五話「野盗対策」

「有能なのですか?」


「はい。神童と呼ばれ、ベルクラント史上最年少で枢機卿になった男です。頭が良く、政治だけでなく、野盗討伐やスラム一掃作戦なども任されていたので、実戦経験も豊富で魔法も扱えます」


「それはやっかいですね(しかもベルクラントの元関係者とか、複雑すぎてちょっと考えるだけでも熱が出そうだ……)」


「奴らは基本は偵察用の分隊と本隊に分かれておりまして、分隊をいくら潰しても本隊は無事なまま、特にこちらが兵を動かしても分隊に捕捉され、本隊やその根城にたどり着けないのです」


「なるほど……。よく分かりました(つまりちょこまかした逃げ足の速いヤツらということだな?)」


 アホなフラッドは、なんか思ったより大ごとになってるしすごい注目されてる。という緊張もあり、あまりよく分かっていなかった。ただ、顔だけはいいため、一同は物凄く深い思慮のある知的な頷きに見えていた。


「実は私の使い魔であるディーから、提案がございます。ディー」


 頼む! という瞳でディーを見るフラッド。


【え(丸投げ……?)……?】


 まさかの丸投げに一瞬言葉を失うディーであったが、それも信頼の証か? とポジティブに考え口を引いた。


【ドラクマの魔獣王ディーだ。この姿では説得力がないため、本来の姿に戻らせてもらう】


 ボシュ――ッ!


 ディーが本来の巨体に戻ると枢機卿たちが驚きの声を上げる。


「おお! なんとっ!」


「女神の相を持ち、人語も話せ、魔法まで扱える魔獣……まさに神獣では……?」


「報告では聞いていたが……これはすごい……」


【お前たちの覚悟次第では、ベルクラントの魔獣王に協力を取り付けることができる。そうなれば、野盗のアジトの場所はいわずもがな、本隊や分隊の動向が手に取るように分かるようになる。野盗の裏をかけるのだ】


「帝国戦のとき、私も魔獣たちには大いに助けられました」


 フラッドが魔獣との連携がどれだけ重要かを説明しディーをフォローする。


「なるほど……。それは千人の味方を得るよりも心強いですね。それで、その覚悟、というものはどういうものでしょうか?」


 チェザリーニの言葉にディーが答える。


【協力を願うからには、相応の見返りを用意するのは常識だ。違うか?】


「違いません」


 頷くチェザリーニと枢機卿たち。


【まだ交渉を始めていないから分からぬが、最悪、教皇がベルクラントの魔獣の長に頭を下げることを求められるかもしれん。お前たちはそれを受け入れられるか?】


 場がざわつく。


「それは無理だ!!」


「猊下は全サク=シャ教徒の長、人魔獣関係なく誰にも頭を下げることがあってはらぬ!!」


「私は断固反対だ!!」



「しずまれ、でぃーよ、わたしがあたまをさげることがむりならば、どうする?」



 アリスの言葉に静まる一同。


【うむ。確約が欲しい。私も主の使い魔、ドラクマの魔獣王としてベルクラントの魔獣王に会いに行く以上、恥をかかされるわけにはいかない。それは、一歩間違えれば魔獣戦争となるからだ】


「どのようなかくやくか?」


【私も向こうが愚かしい要求を突き付けてきたら突っぱねるが、そうだな……。魔獣に対する保護令や貢納こうのう、領域を侵犯しないこと。教皇は無理でも、交渉締結の場に大司教が訪れることだ】


「受け入れましょう」


 場が騒然となりかけたが、チェザリーニの即答により誰も言葉を発せなくなる。


「いいのか、だいしきょう?」


「はい猊下。野盗を、ロデリクを捕まえ、サク=シャ教徒の安全が守られるのなら、私の頭ならいくらでも下げますし、求められればぬかづきましょう」


 ただし。と、チェザリーニがディーを見る。


「貢納は内容によりますし、約束が履行されない場合は、こちらにも考えがありますが、ご理解いたただけますか?」


【お前はどうなのだ? その命を懸けることになるぞ?】


「私の命一つなら、如何様にも。散ったとて、神の元へ召されるだけです。なにも恐ろしくはありません」


【立派な覚悟だ。教皇もそれでいいのか?】


 アリスはチェザリーニを見て複雑な表情を浮かべたが、最終的には「うん」と頷いた。


「よい。まじゅうおうとのこうしょうはでぃーにいちにんする。だいしきょうはそのよういをすること」


「かしこまりました猊下――」


 そして最後に、いまだ枢機卿に名を連ねているロデリクの扱いをどのようなものにするか枢機卿たちは話し合い――


「では、本物のロデリクは一年前に殉教なされたアスパシア様の後を追い殉死した。今野盗を率いているのはロデリクの名をかたる不届者。ということでよろしいですね?」



 殉教とはサク=シャから教皇にのみ与えられる魔法の一つである。


 体と魂を神に捧げ(自らが死ぬことと引き換えに)代償として、その願いを神の裁量内で叶えてくれるというものである。



「うむ、だいしきょうにまかせる」


「はい猊下。報告官、アナタもいいですね? ツィネベア商隊の生き残りの方々には、偽者であることをしっかり説明し、他言せぬよう釘を刺しておいてください」


「はっ!」


「フォーカス卿も他言無用に願います」


「もちろんです。今日私はなにも見聞きしておりません(これ以上面倒なもん背負わせないでくれ……)」


 そうして聖議は終わり、野盗への具体的な対策が決定したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る